地下アイドルのドキュメントと思いきや、実は人間賛歌だった

芸能ジャーナリスト・田辺ユウキ氏が初めてメガホンをとった、ドキュメンタリー映画『くぴぽ SOS! びよーーーーんど』。大阪先行上映を終え、3月には東京での公開も控えている。主役は、大阪でいちばん売れてないアイドル・くぴぽ。・・・ではあるが、コロナ禍に直面して行き場を失った「地下アイドル」を通して、混沌から抜け出さんとする若者のリアルな姿を描いた実に清々しい人間賛歌となっている。

映画『くぴぽ SOS! びよーーーーんど』のワンシーン

メンバー脱退や解散、葛藤や批判に苦しみながらも、なぜ地下アイドルを続けるのか。彼女たちが拠り所としているその場所には、なにがあるのか。ファンが観て楽しいアイドル映画ではなく、今もっともリアルな「社会の縮図」として地下アイドルを描いた田辺監督と、主演のくぴぽのメンバーでプロデューサーのまきちゃんに話を訊いた。

◆「人生を見つめ直すきっかけになれば」(田辺監督)

──田辺監督が関西の地下アイドルを随分前からウォッチしてるのは知ってましたが、まさか映画を撮るとは。

田辺「そうそう。地下アイドルのなにが面白いの? ってよく言ってましたね(笑)」

──ただ、今回のくぴぽのドキュメンタリー映画を観て、田辺監督が興味をもつ理由がすごく分かったという。

田辺「ようやく(笑)。10年ぐらいかかりましたね」

──関西の地下アイドル事情に明るくないので、理解できるかどうか半信半疑だったんですが、エンタメ作品として誰もが楽しめるものに仕上げつつ、テーマである「アイドルをなぜ続けるのか?」を通して、コロナ禍における今の若者のリアルをも描いているなと。

田辺「ありがとうございます。前作の『くぴぽ SOS!』(2017年)はプロデュースだけだったんですが、今回はあえて前作を否定して作ってみたんです。地下アイドルのことを知らなくても、ちゃんと娯楽として楽しめるものにしようと。感動と娯楽をかなり意識しました」

田辺ユウキ監督(左)と主演のくぴぽのメンバー・まきちゃん

──映画では、メンバーの脱退を繰りかえしてきた地下アイドル・くぴぽが、積み上げてきた地道な活動がようやく実を結びそうなところ、コロナによってすべての活動がストップしてしまう。その状況下で、くぴぽだけでなく、すべての地下アイドルが将来のことについて考えるようになる姿を描いています。

田辺「自分の人生をね、見つめ直すきっかけになればと。結局生きていくためには、なにかをしないといけない。僕が伝えたかったのは、それなんですよね。ものすごい分かりやすいテーマをこの映画では出したつもりなんです。タイトルは『くぴぽ』ですが、くぴぽだけを追ってるわけじゃない」

まきちゃん「そう。地下アイドルの少女模型(まねきん)をちょいちょい入れてくるから、『田辺さん、少女模型が好きやからや』って(笑)。1分たりともムダにせず、もっとくぴぽを取りあげてよって」

田辺「いやいや、そういうことじゃないから」

映画『くぴぽ SOS! びよーーーーんど』予告編

◆「インスタントにチヤホヤしてもらえる」(まきちゃん)

──すごくおもしろいなと思ったのが、地下アイドル界というのは、今どきの「人生の縮図」なんだな、と。キラキラしてるようでいて、すごく人間くさい。むしろドロドロしてる。でも、みんながそこで必死に足掻いてるし、最後の拠り所にしている。

田辺「そうなんです。地下アイドルにスポットを当てつつも、社会全体が実はそうなっている。コロナ禍になって、どうやって食いつないでいくか、生きていくかをみんなリアルに考えていくという」

まきちゃん「アイドルって『偶像』ってよく言うじゃないですか。だからこそ人間味というか、人の機微というのが現れやすいのは間違いなくありますね」

映画『くぴぽ SOS! びよーーーーんど』のワンシーン

田辺「僕も改めて、なんで地下アイドルをウォッチしてるのか考えたら、会社や学校に行ったりしながら、レッスンして、ライブに出て、さらに金曜夜に車で東京に行って、土日の朝昼晩でライブして月曜の朝帰ってくる。そこまでしても、売れる可能性はひと握りの欠片。その欠片に賭けているモノはなんだろうって疑問だったり」

まきちゃん「なんか、洗脳じゃないですけど、これやってたら売れるんじゃないだろうかと、そういう気にさせられるなにかがあるんですよ。お客さんひとり増えただけでも、これを続けていたら売れるんじゃないだろうかって。東京遠征して土日で4本ライブして、疲れるのも気持ちよくなってくるんですよね」

──出演している地下アイドルたちが「なぜ続けるのか?」を模索しているなか、印象に残ったのが、始発待ちアンダーグラウンドのムラタ・ヒナギクさんの言葉。「やるとなったら、続けていくものだと個人的には思っていた」と。それもまたひとつの真理だなと。

田辺「辞めるのも選択だし、信じて続けられている人たちがいるってね。そこにクローズアップした人、これまでいなかったですね」

──好みのタイプだったからかもしれません(笑)。

まきちゃん「ハハハ(笑)。それも含めて、アイドルの魅力ですから」

地下アイドル・くぴぽのメンバー兼プロデューサーのまきちゃん

──まきちゃんは、なぜ地下アイドルを続けているのですか?

まきちゃん「もう10年くらいやっているので、いろんなところでって聞かれるんですけど、『ただ辞める勇気がなかった』という」

──メンバーの脱退は数知れず、辞めるチャンスはいっぱいあったようですが。

まきちゃん「そうなんですけど、ホントに辞める勇気がなくて。アイドルであること、メンバーがいることでかなり下駄履かせてもらってる感覚がずっとあって。今くぴぽを失ったらどう生きていったらいいか想像がつかない」

──それこそ、金曜夜に東京遠征して、ライブして朝帰ってくるなんて大変じゃないですか? 会社員の方が全然楽だと思いますが。

まきちゃん「勝手なイメージですけど、社会人は決められた時間に起きて、出勤するってスゴいなと。別に地下アイドルも朝9時からリハがあれば来るんですけど、社会人に対して幻想とハードルがありますね」

──劇中で、少女模型の闇雲やみさん(2023年2月卒業)が「働くのもイヤ、金持ちと結婚したい」と言ってて。

田辺「20歳で死のうと思ってた、という子ですね」

──金持ちと結婚して楽をしたいのは、理解できるんです。なのに、こんなハードな地下アイドル活動ができるんだと。そこには、僕らの知らない魅力、もはや麻薬に近いものがあるのかなと。

まきちゃん「やっぱり、インスタントにチヤホヤしてもらえるからでしょうね。地下アイドルのライブって、かなりお客さんに依存してるんですね。ファンの声がないと成り立たない。目の前の快楽、というのはあると思います。それを浴びると、ほんのひと握りしか売れないと分かっているはずなのに、数人のファンを前にしたら勘違いさせてくれるんですよね」

◆「地下アイドルだけでなく、誰もが当てはまると思う」(田辺監督)

──インスタントな快楽というか、現実逃避に近い?

まきちゃん「昔だったら、クラスの中心にいたかわいい女の子ですらアイドルにはなれなかったのが、今では教室の端っこで友だちもいない子の救いの場として、地下アイドルというのはあると思っていて。自己申告制で誰でもなれるし、バイトとか部活のノリで始めることが多いと思います」

──この映画のポイントは、その「地下アイドルであること」の意味を突きつけられた姿を追っています。今までもあったと思うんです、地下アイドルを続けてて、いいのかどうか。でも、いよいよコロナによって全員がガチで将来を考えざるを得なくなる。

田辺「ホントはすでにあった問題が、コロナで浮き彫りにされるというね。でもそれは、地下アイドルの子たちだけじゃなく、誰もが当てはまることだと思うんですよ」

映画『くぴぽ SOS! びよーーーーんど』ポスター

──答えが見つかる映画ではなくて、答えを考えるための映画という。芸能ジャーナリストの田辺監督らしい視点ですね。

田辺「そうです。だから、考察系の映画ではあるんですよ」

──それでいて、エンタメ作品としてしっかり楽しめるものになってます。たとえば、映画の終盤にあった、まきちゃんが「服部緑地野外音楽堂」で主催したフェスのシーン。ライブ中、ステージを降りて客席を超え、最上段のテントに登っていくという。

田辺「あのシーンはまるまる流した方がいいと思ったんです」

──最初はなにを見せられているのかと(笑)。でも、まきちゃんがメンバーを呼び込むと、みんな付いていく。その後ろにはお客さんも続いていく。それまで、前のメンバーと仲違いする場面が続いてるじゃないですか。だからこそあのシーンの吸引力は、不思議と説得させられる強さがありました。

田辺「それは大正解の答えです。あのシーンの前に、グループ間の結束力が無くなって、まきちゃんが風船のなかに入って客席に降りてライブをするんですけど、ステージ前の柵に跳ねかえされて戻れなくなる。ステージの上ではほかのメンバーがいて、ちょうど足蹴りするような振り付けと重なって、まきちゃんとメンバーの乖離が明らかになるんです。そういうのがあって、フェスのシーンではメンバーが最上段まで付いてくるという」

初ドキュメンタリー映画を撮った、芸能ジャーナリストの田辺ユウキ監督

──ステージ上にいるメンバーと、その下の客席にいるまきちゃんが交わらない構図がグループ内の関係性をそのまま表しているという。

田辺「そこはすごく大事なシーンで。そのあたりはめちゃくちゃ考えましたね。映画的なリズムを意識して、要素を散りばめてます。たぶん1回観ただけでは気づかない伏線、フリが結構ありますから。そこも楽しんでもらいたいですね」

【映画『くぴぽ SOS! びよーーーーんど』】
大阪の地下アイドルグループ・くぴぽ。プロデューサーとメンバーを兼任するのは、「かわいい女の子のようになりたい」という願いをもつまきちゃん。コロナ禍でライブ活動ができなくなった日々が続き、地下アイドルたちは自分たちの「未来」と「アイドルを続ける意味」について考えざるを得なくなる。

大阪を拠点に、全国メディアで執筆する芸能ジャーナリスト・田辺ユウキ氏が、監督・製作・撮影・編集をつとめた初のドキュメンタリー監督作。くぴぽのほか、アイドルグループ・少女模型やすでに解散したアイドルたちも多数出演。

【くぴぽ】
大阪で1番売れてないアイドル。映画出演時は4人だったメンバーは、脱退・加入を経て現在は6人組グループに。自分の好きなものを個性に夢を叶えるため、日夜楽しく奮闘中。ヒダカトオルやTHE ラブ人間の金田康平らが手がける楽曲は、『Spotify アイドルポップ:ジャパン』のプレイリストに選出され、「イロモノアイドル」から「意外に曲が良いアイドル」として認知されつつある。

また、まきちゃん主催の『服部フェス2024』(会場:大阪・服部緑地野外音楽堂)も3月30・31日に開催決定。出演者は、くぴぽ、ポップしなないで、二丁目の魁カミングアウト、後藤まりこアコースティックviolence POP、ZEPTONIA、カイジュ―バイミー、首振りDolls、クリトリック・リス、ほか。

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