相手が納得できる「別れの言葉」は難しい。「将来が見えない」も「別れたい」も一方的すぎる?

人気のプロスケーターは女性と別れる際に「ありがとう。もうあなたは必要ない」と言ったそうだ。別れるときの言葉次第で相手の出方が変わることもある。どんな二人でも、別れの言葉の選択は難しいことなのかもしれない。

人気のプロスケーターが、交際していた女性に「ありがとう。もうあなたは必要ない」と別れの言葉を告げたという話が流れている。 その真偽はともかく、「もうあなたは必要ない」という言葉はすさまじく残酷だ。そもそも「必要かどうか」で付き合っていたのだろうか、そこに人としての温かい感情や熱い情熱はなかったのかと疑いたくなる。 もっとも、相手が納得するような「別れの言葉」などはないのだろうが、どう言ったらすんなり受け入れてもらえるのかは考えるべきかもしれない。

他に好きな人ができたと言えずに

「本当は他に好きな人ができたんです。でも彼の気持ちを考えると、そうは言えなかった。自分がいい子でいたかった、恨まれたくなかっただけなんでしょうけど」 そう言うのはアヤカさん(38歳)だ。4年前に別れの言葉を告げた相手に悪口を言いふらされ、ひどい目にあったという。 同い年の彼とは31歳で出会った。友だちの友だちという関係だったため、グループで会うことが続き、それを経て彼から告白、2年ほど付き合った。 「彼はけっこうなエリートだったし、感じもよくて常識人。とにかくまじめで、羽目を外したこともないタイプでしたね。平日は会ったとしても食事をしてさっと帰る。週末は少しのんびりデートをすることもあったけど、『規則正しい生活をしたいから』と夜遊び厳禁(笑)。 私はけっこう朝まで飲んだり歌ったりするのが好きなので、だんだん彼と一緒にいるのがつまらなくなってしまった」

相手に伝わる「別れの言葉」は難しい

そんなとき遊び仲間として今の彼と出会った。一見、遊び人風だったが、自分の好きなことに関しては努力を重ねており、個人事業主として仕事を着実にステップアップさせていると知り、彼からのアプローチに気持ちが揺れた。 「今カレとふたりで会うようになり、前カレとは別れようと決めました。でもどう言えば納得してもらえるのか……。すごく悩みました。最初は『あなたとの将来が見えない』と言ってみたんですが、『ちょうどよかった。結婚しよう』と言いだして。いや、そういう意味ではなくて。結婚願望はないので気にしないでと言うしかなくて」 他に好きな人ができた。そう言いたかったが、彼を傷つけたくないという「妙な仏心」が出てしまった。嫌われたくない、恨まれたくないという気持ちもあった。

悩んだ末に、彼女が選んだ別れの言葉

さんざん考えた。今カレが「オレが一緒に行こうか」とも言ってくれたが、自分のことは自分でケリをつけるとアヤカさんは言った。 「そして『別れたい』とストレートに言いました。この先、あなたを幸せにできないから、と。すると彼は『アヤカがいてくれるだけで僕は幸せだから、このままでいい』って。そうなったらもう仕方がない。『私が別れたいの。ごめんね、さよなら』と話していたカフェを飛び出しました。 彼からは理由を教えろとさんざんメッセージが来ましたが、すべてブロックして」 すると彼は、仲間内に彼女の悪口を流し始めた。さんざん自分を利用した、いろいろ相談にも乗ったし、彼女にはプレゼントもした。なのに一方的に別れたいとだけ言って理由も言ってくれない。そういえばあの女は夜遊びばかりしていた。あちこちで浮気していたに違いないなど、話はどんどんエスカレートしていった。 「ありがたかったのは、仲間内が誰もその言葉に反応しなかったこと。私はグループLINEを脱けましたが、その中のひとりが『何があったか知らないけど、彼はフラれたことが許せないんだと思う。プライドが高いからね』と。そうなんだろうなと思いました。自分からフルことはあってもフラれたことはないみたいだったから」

執念深い元カレからの嫌がらせ

それでも彼は執念深かった。彼女の勤務する会社宛にメールを送ってきたため、彼女は上司から呼ばれた。ふたりとも独身だから特にコンプラに触れることはないけど、男女の問題は面倒だから解決しなさいと言い含められた。 「別の親しい上司に詳細を打ち明けて相談しました。上司は『あちらの勤務先にもメールを送ってやろうか』と一緒になって怒ってくれて。ただ、無反応でいるのが一番いいんじゃないかということになり、とにかく私は彼と接触しないと決めました。彼は社内の立場もあるので、それ以上、自分が表面に出て何かをしでかしたりはしないだろうと」 それが的中した。反応しないことで半年ほど経つと彼はおとなしくなり、仲間内によればそのグループも脱けたという。そしてさらに半年後には、彼が結婚したと友人から報せがあった。 「ちょっと驚きましたけどね。お見合いで結婚したようです。あれ以上、エスカレートしなかったからよかったけど、人によってはもっと執着される可能性もありますよね。あのときどういう別れの言葉を言えば彼が納得してくれたのか。今もわかりません」 正直に他に好きな人ができたと言えばよかったのか、だがそれで激昂するタイプの人もいるだろうし……。別れを告げるのは、案外、難しいことなのだ。

亀山 早苗プロフィール

明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。 (文:亀山 早苗(フリーライター))

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