東京から見た福井は「遠い場所」 でも、これからは…北陸新幹線延伸で高まる期待と注目

北陸新幹線の福井・敦賀延伸をアピールする大型サイネージ=2月7日、東京・上野駅

 東京・上野駅の広小路口に1月24日、JR東日本としては最大級の曲面サイネージ(電子看板)が登場した。画面から飛び出すような3Dパンダとともに繰り返し放映されているのが、北陸新幹線福井・敦賀延伸のPR映像。10分間に30秒、3月16日の開業や越前がに、恐竜、眼鏡を大写しにして売り込んでいる。

 スマートフォンでサイネージを撮影していた港区の会社員男性(44)は「延伸は先月知った。東尋坊や若狭湾も福井ですか? アクセスが難しい印象だったので新幹線が通ったら行ってみたい」。延伸は元日に起きた能登半島地震の報道の中で知ったといい、「妻の実家は新潟。旅行で北陸を応援できたら」。

 そばのカフェでは、葛飾区の会社員男性(37)が「金沢は旅行したけど、その先に行く発想がなかった」と打ち明けた。母親(62)は「眼鏡くらいしか知らないけど、福井のことをもっと知りたい」という。

 延伸を間近に控え、東京でも福井への関心は高まりつつある。県やJRは開業までの約1カ月、プロモーションを強化し浸透を図る考えだ。

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 「福井県はエリアごとに核になる観光地があるのが特徴的。周遊コースをつくりやすい」。東京・竹芝に事務所を構える阪急交通社東日本営業本部の芥田佳奈さん(26)は、同社でも珍しい福井県1県単独の周遊観光プランを企画中だ。東京から北陸新幹線で敦賀入りし、三方五湖や紫式部公園、南六呂師の星空、県立恐竜博物館など、県内を2泊3日で味わい尽くす。

 神奈川県出身で、入社するまで北陸には行ったことがなかった。「福井はまだ知られてない観光地が多くグルメも強い。今では北陸で一番好きなくらい。同じように北陸をあまり知らない友人に福井を売り込んでいる」という。

 新型コロナウイルス禍で停滞が続いた首都圏の旅行業界にとって、北陸新幹線の福井県延伸は期待のトピックだ。「現状、福井への旅行者は金沢の10分の1から20分の1程度。宿泊施設の数が違うので追いつくまではいかなくても、旅行者はかなり増えるはず」と話すのは、東武トップツアーズ東日本国内企画センターの岡本章センター長(54)。

 2015年の金沢開業以前、東京駅や大宮駅から金沢へ向かう旅行者は、新幹線で越後湯沢駅(新潟県)まで行って特急に乗り換えたという。「金沢まで直通となって旅行者は3倍近くに増えた。福井延伸でも同じことが起きる」。福井の食や温泉は都会的な金沢とは異なる魅力で、開業が近づき一般の人の話題に上る機会も増えているという。

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 東京からの関心の高まりは、福井県観光連盟が運営する県公式観光サイト「ふくいドットコム」のエリア別利用者数にも顕著だ。従来、東京、大阪、愛知、福井などが同数程度だったが、22年4月以降は東京が不動のトップ。しかも2位以下を大きく引き離すようになっており、23年12月は東京が6万4870人なのに対し2位大阪は3万55人と、2倍以上の差がついた。

 同連盟の領家かずよ誘客推進事業部長は「新幹線延伸をにらみ首都圏で続けてきた観光プロモーションの効果ではないか。東京では福井をよく知らない人がまだ多い。どんな観光地があり、どうアクセスするのかといった基本的な内容を知ってもらうことで来県につながる」と期待する。

 米紙ワシントン・ポストは、「2024年に旅すべき場所」世界12カ所の一つとして福井県を選んだ。「日本の最もスピリチュアルな地域の一つ」とし、北陸新幹線で東京から約3時間と紹介した。

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 ただ、元日に発生した能登半島地震が影を落とす。北陸3県が首都圏の旅行雑誌などのメディアを対象に開いてきた「観光PR会議」は、2月8日に予定していた第5回の開催が見送られた。運営会社はメディアに向けた案内で「延伸地区は(各メディアの)特集などを期待し、準備を進めている。発信の計画が変更されないことを切に願う」と地域の思いを代弁した。旅行会社も開業直前の重要な時期にテレビ番組などで福井の露出が減ることを懸念する。

 一方で注目しているのが政府の観光支援策「北陸応援割」だ。宿泊の場合、1人1泊2万円を上限に補助される。各社は旅行プランでも、福井県へのツアー参加者に石川県のおみやげをプレゼントするなど、被災地応援の工夫を検討しており「観光を通して復興を後押しできたら」と力を込める。

【取材班記者コラム・記者のつぶやき】自粛と誘客のはざまで

 石川・能登では元日の地震から1カ月以上がたった今も活発な余震が続き、テレビの全国ニュースでも、復興に向けて一歩を踏み出した被災者たちに寄り添った報道が続いています。首都圏の人たちが、北陸観光を自粛する気持ちになるのも当然だと思います。報道する側の私たちも、誘客をアピールしていていいのかと感じるくらいです。

 ただ、北陸全体が落ち込んでいていいわけはありません。能登半島の被災地のためにもならないでしょう。県は元日から東京駅の新幹線乗換口前のデジタルサイネージ(電子看板)で、嶺南6市町の自然や歴史をアピールする動画を放映中です。そこで一緒に流れているのが石川県の能美、小松、加賀3市のPR動画。「金沢を越えて南加賀へ 石川県全線開業」と画面に大写しし、いしかわ動物園や山代温泉といった観光地を紹介して来県を呼びかけています。

 3市は先月にも、大宮駅(さいたま市)で観光PRを行いました。予約客のキャンセルは深刻といい、旅館女将(おかみ)らが特別ブースでパンフレットを配るなどして温泉や九谷焼などの名産品をアピールしました。石川県の馳浩知事も地震被害が少なかった金沢市以南のエリアについて「能登を助けるために経済活動を続けてほしい」と訴えています。

 また政府も、北陸全体の落ち込みを避けようと対策を講じています。国土交通省の水嶋智国交審議官は、北陸新幹線の早期全線開業を求めた杉本達治知事に対し、金沢―敦賀間開業を“復興新幹線”として応援する考えを示しました。福井市出身の森隆志・気象庁長官も先月の就任会見で、余震活動の情報発信が北陸全体の危険なイメージにつながってはいけないと、工夫の必要性を指摘しました。

 福井・敦賀開業を迎える3月16日に、能登半島はまだ復旧していないでしょう。それでも首都圏から多くの人に福井へ、南加賀へ来てもらえるよう呼びかけていきたいと考えています。福井や南加賀の活気が、能登の被災地を元気づけるに違いありません。

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 3月16日の北陸新幹線福井県内開業を契機とした新時代の福井のあり方を探る長期連載「シンフクイケン」は第6章に入りました。テーマは「福井が変わる」。地域の特色を生かしたまちづくりや、県外客を意識した取り組みの現状と展望を探ります。連載へのご意見やご感想を「ふくい特報班」LINEにお寄せください。

シンフクイケン・各章一覧

【第1章】福井の立ち位置

【第2章】変わるかも福井

【第3章】新幹線が来たまち

【第4章】駅を降りてから

【第5章】ハピラインにバトン

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