「来れない」「帰れない」沖縄台風事情 ~現地からのレポートです~

2024年のお正月は、能登半島地震の発生や羽田空港での航空機事故と観光業界にとって、大きな事件が起きました。特に、能登半島地震は日を経るに従って、その被害の大きさが尋常でなかったことが伝えられるようになりました。

私たちの仲間もたくさんの方々が被災されました。被害に遭われた方々の一日も早い復旧・復興をお祈りするとともに、沖縄でも受入が始まり、弊社でも今月から受入を開始することとなりました。

お客様にとって、一番大切な危機管理

予知できない地震は、大変恐いものです。今回、台風という自然災害を危機管理という観点からレポートさせていただきます。地震とは違い、ある程度対策の準備ができる点が大きく違いますが、沖縄県の取り組みをお読みいただきたいと思います。

2023年8月の台風6号は一度離れた台風が戻って来るという迷走台風でした。そのため、長時間にわたり強風・暴風域となりました。当然、当地沖縄は大きな被害を受けました。そして、台風慣れしている沖縄県民も恐怖を覚えた台風でした。年間でも最大の観光シーズンである「夏」に、約一週間もすべての活動が止まるという不思議な台風。皆さんの記憶にも残っていることと思います。

ホテルにおいても宿泊者の受入や従業員の配置、建物の台風対策などを行いました。通常どのような状況になるのか、そして、対策はどのように行っているか、具体的にレポートさせていただきます。

通常の台風対策と状況

昨今、天気予報の精度は高くなりました。そのため、まずは、台風の進路予想を見ながら対策を検討していきます。「最大風速」「最大瞬間風速」「暴風域」を見ること。そして、これからの進路を予測することから始まります。私たちのホテルは那覇市内にあります。台風進路のどの位置に当たるかによっても、風の力や被害の発生が変ってきます。

そして、建物の被害が出そうな箇所の対策を検討します。例えば、ガラス割れ・雨漏り・雨水配水口などが初動となりますが、ホテルの外にある備品撤去と固定・植栽の防風対策が沖縄県の特異な取り組みと言えます。本土のお客様が体験したことの無い風、何が飛んでくるかわかりません。

正確な情報を一秒でも早く

次に台風の進路の情報発信・進路による来沖控えのご案内が重要となってきます。既に沖縄にお越しになられているお客様は、台風が接近すると、沖縄本島での帰りの飛行機を心配して、空港に近い那覇市内での宿泊希望者が増えます。当然、逆にリゾートエリアの滞在は減っていきます。

最近は、那覇市内ホテルの数も増えてきましたが、「帰る」ことができないお客様が那覇市内に集中すると、キャパシティを超えることが少なくありません。「来る」ことができないお客様がいるから大丈夫でしょう、などとおっしゃる方も多数いらっしゃいますが、リゾートエリアの宿泊者は少なくなるので、やはり、那覇市内は、厳しい状況になります。

緊急時ですから、従業員の出勤調整も行なわなければなりません。基本は、役員・責任者・担当者が出勤します。ただ、従業員も家や家族の心配もあり、限られた人数で対応することになります。当然、出勤時の危険もあるので、ホテルに宿泊してもらい対応します。また、ホテルは食料を確保するために、事前に最大限の食材を仕入れておく必要があります。いろいろな事情で、サービスを影響できないことも勘案し、カップラーメンなどのインスタント食品を仕入れておくことも重要な仕事です。

帰るためには、空港でチケットを取るしかない!

台風が近づいてくると、本来帰るべき飛行機が欠航します。振替便を予約するには、空港での手続きが必要となり、整理券を取る方法しかありません。那覇空港へ行き、列に並んで、整理券を取るのです。もっと効率的な方法が導入できないのか、航空会社や関係諸所で検討されてきましたが、システムや個人情報の観点から実施に至っていません。それ故、大変な混雑状況の中、お客様は体力的にも精神的にも大変辛い思いをさせてしまいます。

台風が通過している時は・・・

台風通過中に、まず最初にやるべきことは、建物各所の点検です。また、交通手段も暴風域に入ると公共交通機関はストップします。移動方法は、レンタカーか、少ないタクシーしかありません。但し、台風時に外出された場合に事故が起きたとしても自己責任であることも周知する必要があります。

当然、お客様には外出しないようにご案内します。お客様の中には、沖縄の台風をわかってない方もいます。実際に、台風の目に入ると風が収まるので、もう大丈夫と言って、外出されるお客様がいます。しかし、数時間もしないうちに、さらに暴風になります。それ故、早く帰っていただくか、外出を控えるようにご案内しています。

台風が去った後は、早い対応が重要!

台風が去った後の被害の様子(イメージ)

台風が通過して、通常の生活に戻ると、お客様に一秒でも早く、さまざまな情報をお伝えせねばなりません。空港状況や航空会社の運行状況など、早くお帰りいただけるようなサービスの提供です。残念ながら、飛行機が取れずに、本土に戻れないお客様の延泊の準備も必須のことです。

そして、今回の台風は最繁忙期、次の販売の準備もしなければなりません。受入のために、建物の被害状況を確認しながら、破損個所の修繕を行なうことが、まず、やらねばならないことになります。

台風の大小に関わらず、毎回、このような対応を行っています。

長期間滞留した迷走台風が残したもの

ただ、台風6号は大変厳しい台風でした。通過した台風が戻って来るという長期間にわたり影響を受けました。そして、風向きの変化もあり、建物被害が酷く、台風通過後の修理に時間がかかりました。

そして、今回の反省点は那覇市内でも各所で停電が発生したことです。そのため、停電したホテルから移動してくるお客様がいらっしゃり、イレギュラーが発生したことです。幸い、私どもは停電しませんでした。しかし、停電すれば、エアコンなどは使用できません。非常電源はそこまでカバーするものではありません。

また、ホテルの生命線といえるリネン工場も停電や営業停止したことが予測しなかったことです。枕カバーやシーツなどの回収・洗濯を行なうことができず、新しいリネンの用意がギリギリになりました。

食材も普段の台風程度の貯蔵していましたが、危なく枯渇するところでした。今後は、非常食も充分に備えておかないといけないと考えさせられました。

これまでの経験則では測れなくなった自然災害

これまで強く長い期間影響する台風、この状況で従業員を出勤させていいものかと不安になりました。今後は、ホテルを休館するという選択肢も考えないといけないかもしれません。

過去最大級という言葉が、何度となく報道されるようになりました。これまでの経験則では、判断しづらい状況であることは間違いありません。ケースバイケースで、対応を変えることがこれからは重要なことと感じます。

2023年8月2日の台風の様子

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2023年8月5日の戻ってきた台風の様子

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これまでの寄稿は、こちらから()

寄稿者 金城仁(きんじょう・ひとし) ホテルサンパレス球陽館・パレスインムーンビーチ 代表取締役

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