「永住許可取り消し」制度、何が問題か。「築き上げた生活基盤を剥奪」支援団体が反対の声明

法務省(東京都千代田区)

政府が技能実習制度を廃止し、「育成就労」制度を新設するのに併せて、「永住者」の在留資格を持つ外国人が税や社会保険料を納付しない場合の資格取り消しを検討していることを受け、外国人支援に取り組む団体などから反対の声が上がっている。

日本で生まれ育った永住者は、「取り消し制度をきっかけに家族が離散することになったらと不安」と訴えている。

「公的義務」果たさない場合の取り消し検討

新しい育成就労制度は、転籍(転職)できない期間を従来の3年から1〜2年にすることなどが柱。今国会に関連法案が提出される見通しだ。

新制度によって永住許可を得る外国人の増加が見込まれることを踏まえ、税金や社会保険料の未納といった「公的義務」を果たさない場合などに在留資格を取り消せるようにすることも検討している。

これを受け、NPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」(移住連)は2月9日に声明を発表

「現に在留資格『永住者』を持つ外国籍住民はもちろん、今後永住許可を申請しようとする全ての外国籍住民の地位を著しく不安定にするもの」だとして、取り消し制度の導入に反対の立場を示した。

声明では、「永住者」以外のほとんどの在留資格は在留期限を迎えるたびに更新が必要で、生活状況の変化によって更新できないリスクがあると言及。例えば、「就労」や「留学」は活動内容に変化が生じたとき、「配偶者」はパートナーと死別や離別したときなどだ。

その上で、「日本に生活基盤を築いた外国籍住民が安心して生活していくためには、そのような(更新できないという)心配のない安定した在留資格が必要であり、『永住者』はそのような在留資格であったはず」だと訴えている。

政府がどのような場合に在留資格の取り消しをすることを想定しているか、現時点で詳細は明らかになっていないとした上で、声明では「永住許可の取消は、外国籍住民が日本で長年苦労して築き上げた安定した生活基盤をはく奪するもの」だと指摘している。

在留資格別で最も多い88万人

永住者の資格は、法相が永住を認めた場合に取得でき、在留期間は無期限。入管庁の統計によると、2023年6月末時点の永住者は約88万人で、在留資格別では最も多い。

永住許可を受ける法律上の要件として、

・素行が善良である

・原則として日本に10年以上在留、うち5年以上就労か居住資格がある

・罰金刑や懲役刑などを受けていない。納税などの公的義務を適正に履行している

などがある。

現在の制度でも、一旦「永住者」の在留資格を得たからといって永住許可を受け続けることができるとは限らない。虚偽の申請をしたり、1年を超える懲役や禁錮刑に処せられ強制退去となったりした場合などは、永住権を失う。

移住連は、税金や社会保険料の滞納、退去強制の対象に当たらない軽微な法令違反に対しては、日本国籍者と同様に督促や差し押さえ、行政罰や刑罰といったペナルティで十分だと強調。

「外国籍住民にのみ、在留資格取消というペナルティが課されるのだとすれば、これは外国籍住民に対する差別です」と指摘している。

共同代表理事の鈴木江理子氏は8日の記者会見で、「日本人でも様々な理由で公的義務が果たせなくなることはある。同じことをしても、外国籍者だったら在留許可の取り消しが許される、というのは大きな問題だ」と訴えた。

日本で生まれ育った永住者「困窮する人をさらに脆弱に追いやる」

アジア圏にルーツを持ち、日本で生まれ育った20代の永住者=西日本在住=は、「永住権の取り消し検討」の報道を目にしてから不安が尽きないと取材に明かす。

「自営業の親の収入は不安定で、自分や家族の健康状態も今後どうなるか分かりません。在留資格を失うリスクを常に抱えることになります。新制度で永住権を失い、家族が離散することになったらと考えると不安でいっぱいです」

日本に帰化することは考えていなかったが、永住権を取り消されることへの懸念から、帰化するべきか、帰化を希望したとしても認められないのではないかと悩んでいるという。日本で生まれ、日本の学校に通い、この国で家族と共に暮らしてきた。日本以外に、生活の基盤はどこにもない。

「難民と認められるのに高いハードルがある難民申請者や仮放免の人たちは、これまで苦境に立たされてきました。今回は私たち永住者で、次は対象が誰になるか分からず、外国籍の人以外にも影響が及ぶかもしれない。現在政府が検討している制度は、困窮する人たちをさらに脆弱な環境に追いやり、弱者を排除するもの。誰にとっても無関係ではないはずです」

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