谷崎潤一郎「細雪」、幻の直筆原稿に大きく異なるストーリー 芦屋の記念館特設展で紹介 兵庫

「細雪」を執筆する谷崎潤一郎の写真=芦屋市伊勢町

 戦前の兵庫県芦屋市などを舞台に、没落しつつある名家の4人姉妹を描いた谷崎潤一郎の代表作「細雪(ささめゆき)」。現在とは大きく異なるストーリーで、谷崎が使わなかった原稿を紹介する特設展「谷崎が・棄てた・『細雪』-反古(ほご)原稿の中の名作」が、芦屋市谷崎潤一郎記念館(伊勢町)で開かれている。(地道優樹)

 細雪は控えめな三女雪子と、恋愛に奔放な四女妙子を中心に話が進む。雪子は見合いを繰り返した末に名家との縁談がまとまるが、不安で下痢が止まらない。妙子は以前の恋人と復縁を巡ってもめた後、バーテンダーの男との子を死産し、芦屋の家を飛び出す。

 谷崎は戦中戦後にかけて細雪を執筆。同館では戦後の1945~46年、疎開先の岡山県勝山町(当時)で書かれた下巻の不採用原稿7枚を所蔵している。その筋書きを楽しんでもらおうと、今回初めて展示の目玉に据えた。

 使わなかった原稿では、妙子が以前の恋人と結婚するように話が進み、決定稿よりも展開が穏やかだ。同館の井上勝博学芸員(62)は「妙子は自立心が強く『戦前の女性像』を体現する雪子とは対照的に描かれる。終戦直後の混乱期、妙子の先行きを波瀾(はらん)万丈に書き直したことに、谷崎が日本社会の行く末をどう捉えていたかがうかがえる」と解説する。

 3月10日まで。午前10時~午後5時。月曜休館。一般300円、高校・大学生200円、中学生以下無料。同館TEL0797.23.5852

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