「生きた証を後世に伝える」“骨格標本”のゾウには鼻がない!? シャンティが教えてくれたこと

骨格標本、読んで字のごとく、動物の骨だけで作った標本のことです。国内の動物園では、長年園の顔として人気者だった動物が死んだあと、この骨格標本にするケースがいま、増えています。静岡市立日本平動物園のシンボルだったアジアゾウの「シャンティ」も死後、骨格標本として“我が家”に戻ってきました。この骨格標本になったシャンティの姿をじっくり観察するといろんなことが見えてきました。

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2011年からシャンティの飼育担当をしていた山本幸介さんに案内されてやってきたのが、日本平動物園正門すぐのところにあるビジターセンターです。

<取材ディレクター>
「シャンティ…本当に骨になってしまった」
<日本平動物園 山本幸介さん>
「こちらがシャンティの全身骨格になります」

シャンティの骨格標本の体長は、3.5メートルで、高さ2.6メートル、骨の数は約240あります。ちなみに人間の骨の数は成人で206。それほど大差はありませんが、決定的に違うのが尾椎と呼ばれる「しっぽ」の部分の骨の数です。

<日本平動物園 山本幸介さん>
Q生前のシャンティより少し小さいかなと感じるが?
「骨だけの姿になってしまったので、来園客からも『思ったより小さい』と言われることが多い」

いまから54年前、1970年に日本平動物園にやってきたアジアゾウの「シャンティ」。半世紀にわたって、同じくメスの「ダンボ」とともに、多くの人に愛され、まさに日本平動物園のシンボルといえる存在でしたが、2022年、老衰のためこの世を去りました。

ゾウといえば、大きな体が特徴です。シャンティは生前、体重が約3.5トンあったといいます。それが骨格標本となったいまはかなり“スリム”になりました。

<日本平動物園 山本幸介さん>
「骨格標本の重さがだいたい500キログラムぐらい」

ただ、骨だけで500キロもあるとは、ゾウがいかに大きな動物なのかがよくわかります。ところで、骨格標本を見ていると、きっと「何か足りない?」と感じるはずです。来園者に聞いてみると「牙」「耳」「鼻」とさまざまな答えが返ってきました。確かに耳もありません。牙は、シャンティはメスのため、小さなものが残っていました。

<日本平動物園 山本幸介さん>
「生きている姿と1番違うのが(骨格標本になると)鼻がないということだと思います」

童謡の歌詞にも登場するゾウのシンボル的存在「鼻」がないのです。餌を器用につかんでは口に運んだり、ブンブンぶり回したりと自由自在に動かしている鼻は一体、何でできているのでしょうか。

<日本平動物園 山本幸介さん>
「ゾウの鼻はすべて筋肉でできているので、骨になってしまうと鼻はなくなってしうのでです」

ちなみに、頭の真ん中にある大きな穴、これが鼻の穴です。目の位置よりも上にあることが分かります。

シャンティが骨格標本になったことで、わかったことはまだまだあります。例えば足の指の数。アジアゾウの後ろ足の指は通常4本とされていますが、シャンティには5本ありました。さらに…

<日本平動物園 山本幸介さん>
「シャンティは右側を下に寝る癖があって、肋骨を見ると左側は基本的に真っすぐなんですが、右側の肋骨は若干、左と比べるとカーブしています。いつもそうやって寝ていたので、自然とそうなったのかなと。シャンティがどういう暮らしをしていたかも、骨になっても残っているところは面白いですね」

実はもうひとつ、発見がありました。今回、特殊な液体を用いて骨格標本にしたことで、骨の保存状態もよく、左右の舌骨が完全な形で残っていたのです。これは本当に貴重なものだといいます。

<来園者>
「シャンティ、骨格標本になってもいろんなことを教えてくれるんですね。勉強になりました」
「骨格標本としてずっとここに飾られていると思うと思い出もよみがえってきて、懐かしい気持ちになります」

絶滅危惧種に指定されているアジアゾウ。最盛期には、国内の動物園では84頭が飼育されていましたが、その数は少しずつ減り現在は82頭(2023年12月末現在)、静岡県内でも、日本平動物園と富士サファリパークで計7頭となっています(いずれも日本動物園水族館協会調べ)。飼育数は年々減っていくなか、骨格標本は、貴重な教材なのです。

山本さんは「骨格標本をみることで、子どもたちに生き物へ興味を持ってもらうことはもちろん、シャンティが動物園で生きた証を後世に伝えることでも意味がある」と話していました。

全国でも貴重なゾウの骨格標本。シャンティはきょうも、わたしたちにいろんなことを教えてくるはずです。

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