いつものもしも CARAVAN in 福山(令和6年1月20日開催)~ 身近に迫る“まさか”に備えて 「MUJI×iti」と考える防災イベント

今年(令和6年)元旦、石川県の能登半島を襲ったマグニチュード7.6の地震(令和6年能登半島地震)は衝撃的でした。

家屋倒壊や津波を引き起こした自然の猛威は、時を選ばずといわんばかりに、お正月を穏やかに過ごしていた多くの人々の尊い命を奪い去ったのです。

年頭に発生した大地震といえば、瀬戸内・備後に住む者には、平成7年(1995年)の阪神・淡路大震災が思い出されます。

阪神・淡路大震災をきっかけに「防災とボランティア週間」(1月15日~21日)が創設され、その啓発週間に合わせた防災イベントが福山駅前で開催されました。

震災やコロナ禍、豪雨災害など、頻発する自然災害に対し、われわれはどのような備えをおこなえば良いのでしょうか。

無印良品の防災キャラバンが福山にやってきた

令和6年1月20日、福山市西町の商業施設「iti SETOUCHI」(イチ セトウチ)で防災イベント「いつものもしも CARAVAN 福山」が開催されました。

主催は人気ブランド「無印良品」を展開する「良品計画」。

同イベントは、平成7年(1995年)1月17日に発生した阪神・淡路大震災をきっかけに創設された「防災とボランティア週間」(1月15日~21日)に合わせて企画されたもの。

子どもから大人まで、クイズや体験を通して防災知識を学ぶプログラムなど、地域住民や企業、行政をたがいにつなぎ、地域全体の防災力向上を目的とする内容です。

「いつものもしもCARAVAN」とは

いつものもしも」は、無印良品が平成23年(2011年)から実施している防災プログラムの総称。

使い慣れた日用品を用いて、災害時に備えるためのさまざまなプログラムは、知識もモノも日常的に身につけることを目指しています。

旅するプログラム「いつものもしもCARAVAN」は、大人から子どもまで楽しく防災の知識を深め、もしものときの考え方を取得しようというイベント。

「いつものもしもCARAVAN」は、令和2年(2020年)に新潟県上越市でスタートし、企業や行政との垣根を越え、各地を巡っています。

POP-UP SHOP に陳列された商品 A

テーマは「防災×学び×地域コミュニティ」

いつものもしもCARAVAN 今回のテーマは「防災×学び×地域コミュニティ」。

私たちの住む地域はどんな特性を持ち、災害を乗り切るためのどんな知識が必要なのでしょうか

水害や土砂災害が頻発している瀬戸内・備後地域でも、災害の備えについて日頃から考えておくことが求められています。

イベント会場は、もしものときの情報を楽しく学べるブースが設置され、地域の親しみやすい防災コミュニティセンターのような存在感を放っていました。

家族や友達だけでなく、その場に居合わせた人たちとの交流も、防災に生かしたい本イベントの利点です。

POP-UP SHOP に陳列された商品 B

防災の三要素「物」「知識」「スキル」

災害の備えには、「」「知識」「スキル」が重要。

平成23年(2011年)、無印良品が「いつものもしも」プロジェクトを始動させた際に掲げた基本的な考え方です。

防災、つまり災害への備えは「物」「知識」「スキル」の3つのキーワードに分けて考えられるとしています。

イベントを告知する 正面エントランスのスタンドポスター

防災の「知識」とは

先人の知識や知恵を広く学び、災害に備えることです。

生還した被災者は、思い起こすのも辛い、当時の困難な体験を語り残しています。

被災の記憶を風化させないためにも、過去から得た知識や知恵を多くの人々と共有することが必要です。

円卓を囲んで災害時の備えについて話し合おう

倉敷とことこ(姉妹サイト)のアーカイブから、豪雨災害に関する記事をいくつか挙げておきます。

  • 倉敷市真備支え合いセンター ~ 平成30年7月豪雨の被災者の心に寄り添い、生活の再建をサポート
  • マービー復興ミュージカル「日の記憶/夢ニモ思ワナイ」 ~ 現代と明治時代の水害を通じて語り継ぐ被災の記憶
  • 真備緊急治水対策プロジェクト ~ 平成30年よりは安全になるが「まずは逃げる」。小田川合流点付替え工事の今を紹介
  • 真備町のサイクリングコースと真備でなんしょん 〜 被災した町の今を伝えるまちづくり
  • 復興を支える若いチカラ、船橋から真備へ。7ヶ月滞在したボランティア ~ 佐々木傑さんインタビュー

防災の「物」とは

日常、災害時を問わず、生活の心強い味方になる物には、その理由があります。

防災日用品」として使えるかどうかの視点を、商品を選ぶ際に持っておきたいものです。

ドローンで物資を輸送するゲーム【iti SETOUCHI・Cage】

防災の「スキル」とは

災害時を生き抜き、被害を最小限に抑えるための有効な技術を得て、備えること。

震災直後から72時間は救援物資などが届かず、避難所では自力生活を強いられるといわれます。

しかし防災スキルを高めるための訓練となると、ときに強制感が伴い、退屈に感じることもあるでしょう。

アウトドア活動は、防災スキルと親和性が高く、被災時に有効なスキルを磨くヒントが見つけられそうです。

もちろん自然災害は、趣味の延長で乗り越えられるほど、予測可能なものではありません。

「レリーバーシュラフ」は福山ブランドの産品・サービス部門の認定グッズ

福山市と共同で実施する社会的ローリングストック

無印良品は、広島県福山市と「災害時物資売買予約契約」を結んでいます。

この契約は、災害時に無印良品の店舗で販売している商品を、指定の避難所に配布することを約束するもの。

避難所に送られる物資の種類と数量を、あらかじめ決めておくわけです。

11個のポケットが付いた「着るバッグ」に興味津々

利点として、行政は物資の保管コストや食品の賞味期限(に伴うフードロス)などの課題をクリアできます。

災害時に、無印良品の店舗が物資の拠点となるイメージで、自治体と企業の連携による、社会的ローリングストックといえそうです。

福山市が初めてという、無印良品のこの取り組みは、今後全国に広く展開していくのではないでしょうか。

マーケットストリートに地域の産品がずらりと並ぶ

いつものもしもCARAVANに並んだ数々のブース

地域の親しみやすい防災コミュニティセンターのようなイベント・ブースはどのようなものだったのでしょうか。

当日のようすを、撮影した写真とともに振り返ります。

紙芝居で学ぶスマート備蓄「ローリングストック法」

ローリングストック法の実践方法について、紙芝居を通じて学ぶプログラム。

ローリングストック法とは、普段から少し多めの食料を買い置きし、消費分を買い足しつつ、常時備蓄しておくこと。

自宅にある食料で1週間過ごすとして何からどのように消費するか

平成23年(2011年)に起きた東日本大震災をきっかけに、食料の備蓄量がそれまで国が推奨していた3日分から7日分に変わりました。

非常食にふさわしいのは、長期保存できる特定の商品と思いがち。

しかしローリングストック法の活用で、非常時においしく・温かく・安心する食料を蓄えておけるのです。

プログラムでは、自分好みの非常食セットを作ります。

防災に役立つ収納セミナー

無印良品では、インテリア・アドバイザーが来場者を前にプレゼンテーションする、暮らしに役立つ収納セミナーを開催しています。

今回はイベントのコンセプトを踏まえ、暮らしのなかに「防災」というキーワードを入れ、収納セミナーを実施。

もしものときのモノ それ以外のモノをいつもの暮らしにどのように収納するか

備えの正しい待ち方、収納の方法など、被害から身を守るために必要な備えから、役立つ豆知識までわかりやすく披露されました。

暗記クイズで一時避難用アイテムを知ろう

12品目の避難用アイテムにかけられた覆いをめくって、1分間で暗記し、再び隠されたものを答えるクイズ。

自宅避難時、つまり一時的な避難用に備えておきたいものとして、何を思い浮かべますか。

近年激化する水害により、1・2日程度の避難が身近になりつつあります。

制限時間1分の記憶ゲーム「えっ、初めて見るものがあるよ」

避難先に、いつも水や食料が十分に揃っていることはほぼなく、ましてや快適な環境など望むべくもありません。

避難先に依存せず、自分自身を保つために必要なアイテムからまずは備えてみましょう。

日用品・防災グッズを展示するPOP-UP SHOP

もしものとき、どんなものが必要なのでしょう。

無印良品のものなら、暮らしのなかで使いながら災害に備えられます。

そんなアイテムを厳選し、展示紹介したPOP-UP SHOP。

もしものときに役立つMUJIセレクション

ITSUMO MOSHIMO POP-UP は、イベント開催に先かげ、iti SETOUCHIのフードビレッジエリアに設営されました。

非常時の水の大切さをゲームで知る

こちらのコーナーに用意されたのは、2つのプログラム。

12L用の水タンクを使い、10L分を測って当てる水タンク重量ゲームと、12L用の水タンクを持って走り、往復約8mを競争する水タンク競争

無印良品のポリエチレン製水タンクは、普段はおもちゃ入れなどに、もしものときには生活用水を入れておくタンクとして使用できます。

持ち運びしやすい形にデザインされ、横置きで積み重ねると、コンパクトな収納が可能です。

普段はおもちゃ入れとしてカムフラージュできる水タンク

1日に成人1人あたり、飲用・調理用、合わせて3Lの水が必要といわれていることから、救援がくるまでの3日分を備蓄するよう、多くの自治体が呼びかけています。

防災スリッパ体験 災害時の速やかな行動のために

くつ底に釘を打ちつけたり、着用して足つぼマットの上を歩いたりして、無印良品の防災スリッパの有用性を体験します。

災害時に散乱した鋭利なガラスや釘から足を保護するため、ソールには安全靴の基準を満たした、踏み抜き防止シートを採用。

防災スリッパ体験に集まる親子連れ

かかとはゴム付きで、簡単に履けて、走っても脱げにいくいつくりになっています。

暮らしになじむ、シンプルで毎日使えるデザインも優れた点です。

ものづくりワークショップ「防災キーホルダー」

iti SETOUCHIのDIYスタジオでは、ものづくり企画「防災キーホルダーづくりワークショップ」を開催。

ShopBot(デジタルファブリケーション)を使ったモノづくりに挑戦

防災キーホルダーは、好きな手書き文字をレーザーカッターで刻印し、色付けしたネームプレート型の一点モノ。

ホイッスル付きなので、もしものときに役立ちます。

スタンプラリーの景品「もしものお守り」と「防災ハンカチ」

マイ・タイムライン作成 & 避難所設営体験

マイ・タイムラインとは、災害発生時に、取るべき行動をあらかじめ整理しておくこと。

作成したタイムラインに沿って、慌てず避難することを目的とするものです。

豪雨による福山市の被災現場を撮影した写真を掲示

避難所での段ボールベッドやパーテーションなどの設営体験のほか、無印良品の協力のもとおこなう、災害備蓄実証事業を紹介しています。

防災教育を提供する「ボウサイズ」

「ボウサイズ」は広島県福山市やその近圏で、「防災をもっと身近に」をテーマに、子ども向けの防災教育を提供する市民団体です。

一次救命処置の重要性を呼びかける

今回、出展されたブースのテーマは「自助」。

防災における自助の重要性を、独自の視点で啓発していました。

マチやヒトとつながる 無印良品つながる市

会場内のピロティ、フードビレッジエリアで、10件以上の出店者を迎えて開催された「つながる市」。

iti SETOUCHIとつながりのある生産者のみなさんも、イベントを盛り上げました。

ハレの高原「旅する農園カフェ」さん

無印良品はマチやヒトとそれぞれにつながる。そしてマチとヒト、ヒトとヒトどうしもつながる。

地域のみんなで育む市場が、つながる市です。

iti はヒトとヒト(i+i)の結びつきという意味合いを含んでいる

おわりに

「いつものもしもCARAVAN in福山」の会場は、寄藤文平(よりふじ ぶんぺい)さんのイラストが描かれたエンジ色のポスターが整然と貼られ、無印良品の統一されたデザイン性が目を惹きます。

他方で福山市にも、2店舗(ゆめタウン福山・フジグラン神辺)を展開する無印良品は、いまや7,000アイテムを超える、膨大な商品を取り揃えるまでに。

民藝運動「用の美」になぞらえて評される一連のMUJIプロダクトは、その売り上げが伸張した背景に、東日本大震災とコロナ禍があったのだとか。

自然災害を乗り越えるプロセスを繰り返しながら、無印良品の真価が伝わり、いまや世界の人々に支持されるようになったというわけです。

規模によるとはいえ、災害は日常生活を混乱させ、平時ベースのライフスタイルをいともたやすく破壊してしまいます。

備え・防災を長続きさせることに敷居の高さを感じていましたが、いつものもしもCARAVANが提案するように、生活環境に手を加え、日常に組み込むことで負担が軽くなりそうです。

iti SETOUCHIでも、防災への認識がおぼつかない子どもの興味を引き付け、大人の防災意識を抵抗感なく向上させそうなプログラムを、あらゆるイベントを通じて、楽しみながら模索してみるのも良いかもしれません。

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