レンジファインダー編[ヴィンテージカメラの楽しみ方] Vol.02

レンジファインダー機とは?

レンジファインダーとは距離計の意味。自分の居る位置から目標物までの距離を測る装置の総称だ。カメラが搭載する距離計は三角測量の原理を利用した光学式が基本。カメラ前面に間隔を置いて2つの窓を配置、それぞれの窓から見える像をプリズムなどの光学系によって1つに合成し、そのときのプリズムの角度から被写体までの距離を測る。

またピント合わせの際に前後するレンズの繰り出し量とプリズムの動きを連動させ、測距とピント合わせが同時にできるようにしたカメラをレンジファインダー機、あるいは距離計連動機と呼ぶ。

レンジファインダー機にはレンズ固定式とレンズ交換式の2種類がある。レンズ固定式は普及機に多く、レンジファインダーのプリズムをミラーで代用するなどコストパフォーマンスを重視した設計。これに対しレンズ交換式カメラは高い測距精度が要求されるので、高価なプリズムを惜しげもなく使うなど、とても贅沢な作りになっている。その代表といえるのがライカで、デジタルカメラ全盛の現在に至るまで90年以上に渡りレンジファインダー機を作り続けている。

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ライカはレンジファインダー機の代名詞

ライカ初の35mmカメラは1925年に発売されたライカA型だ。焦点距離50mmの標準レンズが固定されていてピント合わせは目測式。より正確なピント合わせのため単体のレンジファインダーがアクセサリーとして用意された。

レンズ交換式を初めて採用したのは1930年発売のライカC型だが、ピント合わせは目測式のまま。ピント合わせに連動するレンジファインダーを初めて搭載した製品はその2年後に発売されたライカDIIだ。

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ライカM3の登場

1954年ライカは、レンジファインダー機の新製品ライカM3を発売する。最大の特徴は装着したレンズの画角に合わせてブライトフレームが自動的に切り関わる実像式ファインダー。さらにバヨネット式レンズマウントの採用により、わずかな回転角ですばやくレンズの着脱ができるようになる。

それだけでなくレバー式フィルム巻き上げや一つのシャッターダイヤルで低速から高速まで全てのシャッタースピードが設定できるなど、それまでの製品にない数々の新機能を実現。レンジファインダー機の概念を塗り替えることに成功した。

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バルナック型ライカ

M3以前のライカのレンジファイダー機は初代のA型をベースに発展してきた。そのためどの機種も見た目がよく似ている。だがライカM3は基本構造から新たに設計を見直したことで、機能面だけでなく外観デザインも一新。これを機にM3より前に発売された製品はバルナック型と呼ばれ区別されるようになる。

ちなみにこの名称は初代ライカを設計したオスカー・バルナックに敬意を表して名付けられた通称。レンジファインダー機だけでなく、レンズ固定式やレンジファインダー非搭載モデルもこれに含まれる。

バルナック型はM型に比べると操作方法が複雑で守らなければならない約束事が多い。決してフィルムカメラ初心者向きとは言えないが、写真を撮るプロセスを楽しむ、あるいは、あえて困難に挑戦して達成感を味わうという意味で、挑戦し甲斐のあるカメラだといえるのでは?

また外観デザインがクラシカルなので、レトロな雰囲気を演出する小道具としても絶大な威力を発揮する。

ライカDIIで始まったレンジファインダー搭載のバルナック型カメラは、DIIに改良を加える形で進化してゆく。IIIcはボディの構造を板金からダイカストに変更し高い信頼性を獲得。IIIfはフラッシュやストロボ用のシンクロ装置を搭載した製品だ。またM3発売後には、ファインダーに近距離補正機構付きのブライトフレームを備えたIIIgなども登場している。

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レンズマウントについて

レンズ交換ができるバルナック型カメラのレンズマウントはねじ込み式。ボディ側が雌ネジ、レンズ側が雄ネジになっていて、レンズ交換の際はレンズを何回も回す必要がある。マウントの正式名称はライカスクリューマウント。口径が39mmであることからL39という別名もある。またLマウントと呼ぶこともあるが、ライカは最近になってミラーレス機の新マウントにこの名を与えてしまった。混同しやすいのでこの呼び方は避けた方がいいだろう。

バルナック型に装着できるレンズはライカスクリューマウントレンズだけ。これに対しM型ボディは、Mマウントカプラーを用意すればMバヨネットレンズだけでなくスクリューマウントレンズも装着可能だ。つまりM型ボディを選べば90年以上前に製造されたビンテージレンズから最新の技術で設計された現行品まで、レンジファインダー機用に発売された全ての製品で撮影が楽しめる。

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ライカの選び方

実用機としてバルナック型を選ぶなら、IIIcかIIIfがお勧めだ。IIIcのボディは、バルナック型初の総ダイカスト構造を採用。それまでの板金製に比べ組立時に誤差が生じにくく堅牢性も高い。ただし第二次世界大戦中から戦後の混乱期にかけて製造されたので、メッキの質が悪く外観部品に錆が出ている商品もよく見かける。

これに対しIIIfは1950年の発売。製造台数が多く、きれいな商品が豊富に出回っている。またIIIfはフラッシュバルブやストロボ用シンクロ接点を備えている。いずれにしてもライカの中古価格は外観のコンディションに大きく左右される。そのため価格帯の幅が広く、予算に合わせて選ぶことができる。

M型に比べ、バルナック型カメラは、不便な点が多い。構図を決めるためのビューファインダーは基本的に50mm専用で、これ以外の焦点距離のレンズを使うときは、そのレンズの画角にあったファインダーをアクセサリーシューに取り付ける。

さらにレンジファインダーとビューファインダーが独立しているので、ピント合わせと構図の決定が同時にできない。そのため最初にレンジファインダー用アイピースを覗いてピントを合わせてから、隣にあるビューファインダーのアイピースに眼を移すという動作が要求される。だがM3の場合は視野中央にある測距用フレームの像の重なりを合わせればOKだ。

このほかバルナック型はシャッタースピードをセットする際、一旦ダイヤルを持ち上げる操作が必要なほか、シャッターを切るとダイヤルが回転してしまうので、フィルムを巻き上げた状態でシャッタースピードを変更。そして1/30秒を境に2つのダイヤルを使い分けなければならない。

またフィルム装填はベースプレートを外して底部からパトローネを入れる方式。M型のようにボディ背面の蓋が開かないので、確実にフィルムを装填するにはある程度の慣れが要る。とにかくバルナック型は、さまざまな面で「お作法」を求めてくるので、その点は覚悟すべきだろう。

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Mシリーズのファインダーについて

M3のファインダーは実像式。逆ガリレオ式と呼ばれる簡易的な光学系を採用したバルナック型に比べると像の歪みがなく鮮明に見える。またIIIg、IIgを除くバルナック型のファインダーは視野全体が撮影範囲を示すが、像の輪郭が曖昧で厳密な構図決定には向いていない。

これに対しM3のファインダーはブライトフレームを内蔵。装着したレンズの焦点距離に合わせてフレームが自動的に切り替わるので単体のビューファインダーを用意しなくて済む。それだけでなく近距離撮影時に問題になる視差(ファインダーが示す撮影範囲と実際に写る像のずれ)を解消するパララックス自動補正機能も装えている。いずれにしてもバルナック型とMでは、ファインダーを覗いたときの印象は雲泥の差。可能であれば、いちど店頭で見比べてみることをお勧めする。

M3のファインダーは、約1倍という高倍率。ファインダーで大きな像が見られる一方で広角レンズには非対応だ。そのためM3と同時に発売された35mm広角レンズは、ファインダー倍率を下げて視野を広げるための光学系(通称:メガネ)を備えている。

1957年発売のM2はファインダーの光学系を簡略化。M3の普及モデルという位置付けだったが、ファインダー倍率を下げ35mmレンズ用のブライトフレームを採用したことが高く評価され、その後のM型ライカのスタンダードになる。

M3のファインダーは50、90、135mm用のブライトフレームを搭載していたが、M2では135mm用を省き、35mm用を追加。135mmを省いた理由は35mmに対応するためファインダー倍率を下げた結果、135mmレンズの測距精度が保てなくなったためだ。だが実用上問題なしという判断から1967年に登場したライカM4で復活している。

またM3、M2ではノブ式だったのフィルム巻き戻しをクランク式に変更。フィルムの巻き取りスプールもラピッド式に変え、スプールをカメラから取り出さなくてもフィルム装填ができるようにした。

M2以降に発売されたM型ライカは、基本的にM4がベース。2022年に復刻版として登場したM6もM4の基本構造を踏襲し、ファインダーの仕様変更や露出計の追加など除けば共通点がとても多い。

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1954年発売のM3から、2022年、復刻版が登場したM6まで、M型ライカにはマイナーチェンジや限定モデルを含め多くの機種が存在するが、機種を決めるうえで大切なことはファインダーのブライトフレームだ。標準~望遠撮影に主眼を置いたM3は別として、M2は以降の機種は広角撮影を重視。1981年には、広角28mm用のほか前年に登場した75mmレンズ用フレームを搭載したM4-Pが発売される。ただし一度に複数のフレームが表示されるので場合によっては煩わしく感じることもあり、自分のよく使うレンズの焦点距離を考慮して選ぶと良いだろう。

このほか露出計の有無も無視できない。Mシリーズのフィルムカメラで露出計を内蔵しているのは、M5、6、7で、M5とM6はマニュアル露出。M7だけが絞り優先AE対応だ。またミノルタと技術提携して誕生したライカCL(日本で販売された製品はライツ/ミノルタCL)も露出計を内蔵している。厳密な露出が要求されるカラーリバーサルフィルムを多用するなら露出計内蔵機が有利だが、ラチチュードが広いカラーネガフィルムがメインならあまり神経質になることはなく、アクセサリーとして用意されているMRメーターや単体露出計の使用も視野に入れると良いだろう。

M型カメラが誕生したのは1954年。中古市場に出回っているカメラの大半は数十年も前に製造されたものだ。堅牢性が高いことで有名なライカといえども、この間にトラブルをまったく起こしていないとは考えにくい。つまり店頭に並ぶまでの間に何らかの修理を受けている可能性が高いが、問題はどこで修理されたか。特にライカの場合、個人の修理業者が多く存在し、技術レベルはピンキリ。プライスカードに整備済と表記してあっても修理業者名を明記することは少なく、たとえ分かったとしても一般客が技術力を知ることは難しい。突き放したような言い方だが、結局、そのカメラを売っている販売店を信用するしかない。特にライカはほかのカメラに比べると高価なので、保証内容をきちんと公表している店で買うことをお勧めしたい。

中村文夫|プロフィール
1959年生まれ。学習院大学法学部卒業。カメラメーカー勤務を経て1996年にフォトグラファーをして独立。カメラ専門誌やWEB媒体のメカニズム記事執筆を中心に、写真教室など幅広く活躍中。クラシックカメラに関する造詣も深い。

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