企業対抗お笑いバトル大会で見えた課題とは 「ラグビー、アメフトのように」第1回は通信大手社員コンビが優勝

アマチュアとしてお笑いのステージに立つ大学生、社会人が珍しくなくなった昨今、社会人を対象とした新たなイベントが立ち上がった。社会人お笑い協会が主催する「企業対抗お笑いバトル」で、メンバー全員が同じ会社に所属していることが出場条件。日本で一番面白い企業を決めると銘打たれ、2月3日に開催された第一回大会から見えた手応え、課題を聞いた。

約80席のキャパがほぼ埋まり、熱気に満ちた東京・新宿の会場にIT、農業、マーケティング、広告、メーカー、飲食業界等から12組ならぬ12社のコンビが参加。優勝は大手通信会社に勤務する乾と斎藤マリアのコンビ「すりぬけバグ」だった。議事録の文字変換をモチーフとしたコントで一番の笑いを獲得し、第一回大会を制した栄誉と達成感を手にした。

観客投票で優勝が決まった乾は、「きょうで会社を辞めます!」とプロ転向を表明して会場を盛り上げた。関西の有名大学を卒業し、就職後にお笑い活動を開始。相方は同僚だったが転職したため、今大会は同様に別のコンビで活動する斎藤マリアに声をかけ、即席コンビで出場。セレモニー後は「プロは考えていません。仕事と趣味は完全に別ですね」と地に足をつけた考えを明かした。

現コンビで乾は5年、斎藤は3年ほど活動。互いに顔見知りだったが2年前、何気ない会話で同じ会社の先輩後輩と判明。乾は「会社の枠から外れたくて土日にお笑いをやっているので、すごく嫌だった。僕も『最悪』と言われました」と苦笑いで回想した。

斎藤は関東名門大学のサークルでお笑いを行い、就職後に現在のコンビを結成。乾とは自身のYouTubeチャンネルで共演する機会もある。「社会人でもこういった形で楽しめると発信したい」と話し、今回の優勝もその追い風とするつもりだ。乾のように社会人から活動を開始するケースについては「5年前では学生時代からお笑いを継続する社会人が8割だった。今は社会人で始める人と半々くらいです。状況はかなり変わりました」と説明した。

会社の同僚との向き合い方は対照的だ。乾は「職場にも親にも一切話していません」とキッパリ。斎藤は「同じプロジェクトの課長、課長代理には言っています。ライブが平日にある場合、17時半で抜けさせてもらったり、後押ししてくれています」と話した。

社会人お笑い協会の奥山慶久代表理事は今大会を「雰囲気は良かったし期待以上にレベルも高かった。大成功だと思います」と総括した。明治大学のお笑いサークルに所属した学生時代にワタナベエンターテインメント所属のプロ芸人として活動。2017年の大学卒業後は芸人の道を封印し、キーエンスに就職した。同年に社会人がステージに立つイベントを立ち上げ。全国表彰を受けるほどの営業成績を残したが、19年に退社し、翌年に一般社団法人社会人お笑い協会を設立した。

奥山代表は「『趣味としてのお笑いを当たり前に』をモットーに、もっと日本にお笑いを広めたい」と信念を掲げる。社会人がステージに立つ機会を積極的につくってきた中、今回は「同じ会社に所属する組による企業対抗バトル」と敷居を高く設定。「ラグビー、アメフトのように、企業対抗という形によって、趣味としてのお笑いがより一般的になると考えました」と狙いを明かした。「第2回も必ずやります」と前を向いた。

昨年からは社会人お笑い協会と地方自治体、企業とのコラボが始まった。例えば中学生を対象としたワークショップ、企業ではお笑いの技術をプレゼンに生かすなどの研修がスタートした。奥山代表は「社会人が舞台に上がってもらうだけではなく、お笑いで社会や企業が良くなることもできるのではないか。これまでの経験を生かして、社会とお笑いをつなぐ架け橋にもなりたい」と語る。参加者、関係者を通じた新たな仕事の契機も増えつつある。その流れが反映された「企業対抗お笑いバトル」だった。

課題も見えた。今大会では会社の同僚が応援に駆けつけた参加者、企業名を公表したコンビはごく一部にとどまった。アメフトやラグビーのように、選手と応援する者が一体となる風潮にはまだ遠い。奥山代表は「会社の同僚をいかに巻き込むか、というのは課題の一つ。実績を重ねた後には、社名を出せる段階が来ると思う」と先を見据え「例えば自動車メーカーの社員が、自社の車名をネタにする日が来るかもしれない」と未来図を描いていた。

第1回企業対抗お笑いバトルを制した「すりぬけバグ」の乾(左)と斎藤マリア

(よろず~ニュース・山本 鋼平)

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