漫才師の「つかみ問題」が改めて浮き彫りに、ytv漫才新人賞

若手漫才師たちの登竜門『第13回ytv漫才新人賞決定戦』(読売テレビ)への進出をかけた事前ROUND3が2月11日に放送され、決勝に進む7組が決定。今回の放送でトピックスとなったのが、本筋のネタに入る前にひと笑いさせる役割を持つ「つかみ」である。

左から、結成10年目のラストイヤーで1位通過となったバッテリィズ(エース、寺家)、2位通過のぎょうぶ(為国、澤畑健二)

その「つかみ」でよく知られるのは『M-1グランプリ2019』王者のミルクボーイ。本ネタの前、駒場孝がお客から何かを受け取り、内海崇がそれが何なのかを明かしながら「こんなんなんぼあってもいいですからね!」と、感謝するくだりを必ず入れる。

事前ROUND3では、審査員の哲夫(笑い飯)が丸亀じゃんご、タチマチ、ボニーボニーの序盤3組に対して「みなさん、つかみがお見事」、さらに鉄人小町についても「声が高い感じだけでつかんでるんで、(つかむのが)早いなって」と感心した。

一方、例えば炎のタキノルイが登場してすぐ「進めー!」と叫ぶつかみを披露した際、審査員のお〜い!久馬(プラン9)が「今日出ている方で、初めてつかめていなかった」と苦笑い。タキノも、このつかみは活動拠点の「よしもと漫才劇場」の支配人から止められていると明かすなど、「つかみ」についてのやりとりが多く、その興味深さがふくらんだ予選となった。

MCを務めた藤崎マーケット・トキは、番組収録後のインタビューで「初めてそのコンビを見るときは、どちらがボケかツッコミか分からない。今って、服装も綺麗に着こなしているから判断が難しいし、分からないまま喋りが始まると、観る側はどっちがどっちかを見極めることに時間を使ったりする。そうなると本ネタのボケが聞き逃されることもあって。つかみはマジで大事です」と力説していた。

■ 1位通過のバッテリィズ「できるだけ会話の中に」

「本当にただただうれしいです」と噛みしめるエース(左)。同大会はカベポスター、ダブルヒガシと同期の優勝が続いており、「新世代を抑えて36期で3連覇したいですね」と意気込む寺家

ROUND3で1位通過を果たしたバッテリィズは、エースがアホキャラであると分からせるために、相方の寺家が序盤「(エースは)名前書いたら受かる高校に名前書き忘れて落ちた」と伝える。巧みなのは、その定番のつかみを本ネタのなかに紛れさせるところだ。

寺家は「自分にとって理想の漫才は、登場してすぐに本ネタに入ってスッと笑いをとっていけるスタイル。それができたら美しいのですが、それでもやっぱりつかみは必要かなと今は思っています。だから、つかみをできるだけ会話のなかにしのばせようと考えています」と明かす。

一方、2位通過のぎょうぶはつかみを設けていない。その理由について、ツッコミの澤畑は「賞で勝ち切るには必要なのかもしれません。でもつかみがあることで逆に、本ネタの話が入ってこないこともあるはず。例えば炎はそこをいじられていたと思うんですけど、あれがあいつらの良さでもある。今の僕らは、つかみはやらずにジッと構えてやる方が合っています」。

今の心境を問われると、「正直ホッとしている」と澤畑(右)。「最初の段階で割と反応が良くて、今日はやりやすかったかもしれないです。僕の鼻くそほじるところをお客さんが滑稽に見てくれてよかった」と為国

相方の為国も「僕らは後半の展開のために、序盤はちゃんとフリを作っていくことに重きを置いています。そこでつかみを入れてしまうと、ネタの見え方が変わるかもしれない。いい塩梅のつかみは探していきたいんですけど、今はフリを効かせたいからつかみは入れていないです」と話す。

■ 藤崎マーケット「ちゃんと成立する」… 絶賛の2組

『ytv漫才新人賞』の事前ROUNDのMCを務めた藤崎マーケット(C)ytv

芸人にとっての「つかみ」はそれぞれだが、MCの藤崎マーケット・田崎も「賞レースはネタ時間も短いので、最初からパーンとのっていくのが大事。もちろんリスクもあるんです。そこでハズしちゃうと、そのあとの本ネタもつまずくことがある。でも勝つためには勝負をかけなあかん。だから、リスクを負ってでもつかみは入れたほうが良いのかもしれません」と分析する。

さらにトキは、お笑い界全体を見渡しながら「自分が素晴らしいと思うつかみは、まずマユリカ。ダッシュで登場する阪本くんを見れば、誰もが『この人はヤバい』となる。そこでコンビの役割もちゃんと分かるじゃないですか。その最高峰と言えるのが、笑い飯さん。かつては西田さん、哲夫さんは2人とも走って登場していましたから。『あ、どっちともヤバいんや』って、ダブルボケがちゃんと成立するんです」。

「つかみ」への指摘が目立ったROUND3。これから漫才を見聞きするとき、それぞれのつかみ方について改めて気を配りたくなる番組内容だった。

取材・文/田辺ユウキ

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