関西・中京の“福井離れ”はあるのか…特急は敦賀止まり、乗り換え影響は 情報発信注力やバス増便検討

行き先が「金沢」と表示された特急サンダーバード。北陸新幹線敦賀延伸後は敦賀駅止まりとなる=2023年12月、JR大阪駅

 「3.16北陸新幹線金沢―敦賀間開業」のポスターがあちこちに貼られた師走のJR大阪駅。11番ホームには、特急サンダーバードで北陸方面を目指す観光客やビジネス客が次々と訪れていた。

 「開業後は敦賀駅で乗り換えが必要なん?」。あわら温泉(福井県あわら市)への旅行で、列車待ちをしていた高齢男性2人組は、初耳の情報に「不便やな」と顔を見合わせた。毎年冬に越前がにを食べに福井を訪れているといい、「急ぐ旅ではないし、何より福井はええところやから、気にしないと思うけど…」と話す。

 一方、大阪市内の子連れの30代母親は「乗り換えがあるなら、列車では行かなくなるかも」。開業によって乗り換えの不便さが生じる関西・中京圏。そのことを知らない人は少なくない。

 開業後の“福井離れ”を、いかに最小限に抑えるか。福井県は7月、石川、富山県と合同アンテナショップを大阪駅周辺の商業施設にオープンし、魅力発信、誘客PRに力を入れる。

  ■  ■  ■

 JR大阪駅の11番乗り場。大阪府吹田市の男性(18)は、停車中の特急サンダーバードにカメラを向けていた。「行き先が『金沢』と表示された列車は3月16日以降見られなくなるので、定期的に来て撮りためている」

 北陸新幹線敦賀延伸に伴い、北陸と関西・中京を結ぶ特急サンダーバード、しらさぎは敦賀駅止まりとなり、乗り換えが生じる。高さ約37メートル、幅約44メートルと整備新幹線駅舎で最大級の同駅は、3階の新幹線と1階の在来線特急のホームを移動する「上下乗り換え」式。JR西日本は標準乗り換え時間を8分とするが、社員ら約900人を乗客役とした1月18日の検証では全員の乗車完了に13分かかった。

 旅行代理店照南トラベルサービス(大阪府大東市)の笠舞紀伴社長(63)は「北陸へ行く観光客の中心は関西。団体はバス利用が多く影響は少ないが、乗り換えの影響で鉄道の個人客は減るかもしれない」と懸念。「北陸の宿泊業界も東京方面へのセールスに力を入れている」という。

 一方、旅行大手阪急交通社(本社大阪市)の広報担当者は「変化は好機」と前向きだ。「福井の人たちは観光素材を磨き上げており、魅力は高まっている。お客さまに丁寧に乗り換えの説明をしながら、積極的に福井への旅行をPRしていきたい」と話す。

  ■  ■  ■

 ビジネス面でも北陸と関西のつながりは深い。毎月1回程度、特急で福井の繊維産元商社に出張している大阪市内の繊維専門商社の営業担当者は、乗り換えになる上に割高になる料金に不満を漏らす。

 延伸後の大阪-福井間の運賃は、インターネットで早期予約すれば割安で購入できるが、通常は1150円高くなる。「急に出張となることもあり、不便に変わりはない。北陸の合繊は高品質で競争力が高く、替えがきかない。商品開発では工場の稼働状況などを現場で見ることも重要で、今後も鉄道は使うつもり。早く大阪までつなげてほしい」と注文した。

 福井-名古屋間の移動では敦賀と米原で2回乗り換えが必要なケースも発生する。京福バス(本社福井市)、福井鉄道(同越前市)、名鉄バス(同愛知県名古屋市)、JR東海バス(同)の交通4社は、高速バスによる移動需要の拡大を見込み、共同運行している高速バスの「福井-名古屋線」を2023年12月に2便増便。名鉄バスの担当者は「中京圏にも福井の企業の関連工場があり、ビジネス利用はもともと多かった。開業後、想定以上の需要があればさらなる増便も検討している」と話す。

  ■  ■  ■

 22年の県内観光客入り込み数は関西・中京が6割を占める。県新幹線開業課の山田輝雄課長は「既存客の離反対策と新規獲得はセット」とし、JR大阪駅や京都駅に複数ある電子看板広告を使い、敦賀延伸のほか越前がにや鯖街道など観光素材を発信している。23年11、12月には名古屋駅と京都駅で出向宣伝した。

 敦賀延伸後の7月には大阪駅直結の商業施設「KITTE大阪」に北陸3県のアンテナショップがオープンする。情報発信拠点として訪日外国人や観光客向けに食や伝統工芸など福井の売りを前面に押し出す。山田課長は「乗り換えの手間をいとわないぐらい行ってみたいと思わせる観光素材や楽しみをつくっていかなければならない。開業はゴールではなくスタート。長期的な目線でPRしていく」と力を込める。=第6章おわり=

⇒【記者のつぶやき】「さよなら特急街道」を読む

© 株式会社福井新聞社