誰もいない休園日の動物園 演奏中も出入り自由のクラシックコンサート “感覚過敏”を優しく包む「センサリーフレンドリー」の取り組み

音や光、匂いなどの刺激に、通常より強い反応を示す「感覚過敏」。人によって程度の差はありますが、それらの刺激を避けるため、多くの人が集まる動物園やコンサート会場、映画館などに足を運ぶことができない人たちがいます。そんな感覚過敏の人にも優しい“センサリーフレンドリー”の取り組み。愛知県内の施設でも、今その取り組みが広がりつつあります。

明るい会場で出入りも席移動も自由!感覚過敏の子に優しい演奏会

2024年1月6日、名古屋市内の「昭和文化小劇場」で開かれたクラシックの演奏会。ピアノとバイオリン、フルートの音色が重なり合い、音楽を奏でます。

しかし、一般的な演奏会とは異なり照明は明るいまま、出入り口の扉も開いたままです。聞きに来ていたのは多くが子どもたちですが、席を立って歩き回ったり、出て行ったりする子の姿も。彼らは発達障害や自閉症などのため、大きな音や人混み、急に明るくなったり暗くなったりする環境の変化が苦手な感覚過敏の子どもたちです。

そしてこの演奏会は、そんな感覚過敏の子ども向けに開かれた“センサリーフレンドリー”、つまり「感覚に優しい」演奏会です。

(感覚過敏の子を持つ親)
「集団生活というか、そういうのが苦手な部分が大きいので、一般の方が参加する催しに抵抗がある」

こちらの演奏会では、感覚過敏の子たちも楽しめるようにするため、会場を通常より明るくし、席の移動も自由に。クラシックは通常、演奏が始まったら入退場が出来ませんがそれも自由にしました。

感覚過敏の子を持つ親の悩みに寄り添った取り組み

昭和文化小劇場では、5年前からこの取り組みを続けています。

(昭和文化小劇場・荻原萌子さん)
「感覚過敏の方や、じっと座っていられなかったり、静かにしていられない方に向けたプログラムとなっている。劇場や映画館に静かにしていられず、周りに迷惑をかけないかと悩む保護者や施設の職員などに向けて、うちの劇場で『ぜひチャレンジしてください』という意味も込めている」

体を揺らしたり、歩き回ることがある一方で、時折音楽に聴き入る子どもたち。受け方によっては『外の世界の様々な刺激や体験は良い影響になる』という期待も込められています。

(感覚過敏の子を持つ親)
「親は聴きたい曲をゆっくり聴けて、この子も自由に聴けるので『じっとしてなさい』って怒らなくていいのでとても良かった」

一般的な演奏会と違い、明るい会場や出入り自由な環境は、感覚過敏の子とその親に好評でした。

「晴れた日にも来れるようになった」動物園の休園日入園許可制度

愛知県豊橋市の「のんほいパーク」でもセンサリーフレンドリーの取り組みが行われています。休園日には、雑踏の喧噪も、案内の放送も音楽もなく、静まりかえった園内。時折聞こえてくるのは、動物たちの息づかいだけです。

そこに、やってきた1組の親子。豊橋市に住む花島愛弥さんと母親の恵里さんです。愛弥さんは知的障害を伴う自閉症で、聴覚過敏のため外出の際にはいつもイヤーマフで耳をふさいでいます。

(母・恵里さん)
「小さな子どもの泣き声が苦手で、泣き声が聞こえるとパニックに以前はなっていたが、大人になるうちに予想ができるようになって。ベビーカーを見ただけや、まだ泣いていない子どもを見ただけで落ち着かなくなる」

動物は好きですが、動物園のにぎやかさが苦手で、今までは雨降りなど、人がほとんどいない日を選んで来園していました。しかし、「のんほいパーク」が始めたセンサリーフレンドリーの取り組みのおかげで、晴れた日にも来られるようになったといいます。

(のんほいパーク・後藤一紀さん)
「週に1度の休園日だったら静かな環境で動物園を楽しんでいただけると思い、この休園日の特別入園の取り組みを始めた」

「のんほいパーク」の“休園日入園許可制度”は、2020年から登録した感覚過敏の人向けに、休園日の毎週月曜日を解放しています。

「何よりのぜいたく」感覚過敏の親子が気兼ねなく楽しめる時間

母親の恵里さんは感覚過敏への理解が進まない中、外出をためらうことも多かったと話します。

(母・恵里さん)
「他の方たちにご迷惑をおかけしちゃいけないって気持ちは私たちも持ってるし、『何でこんな子連れて歩くんだ』と怒られたことも1度や2度じゃない」

休園日入園許可制度に登録している人は現在100人近くいて、愛弥さんも毎月2回程度静かな園内を散策したり、ゾウやキリンを見ながらランチを楽しんだりしています。

(母・恵里さん)
「この制度は、私たちが今まで味わえなかった子育てのゆとりみたいなものを(子どもと親)両方に与えてくれた、すごい制度」

動物を見ながら手をヒラヒラさせる愛弥さん。嬉しいときにする仕草です。愛弥さんは動物を見る度に手をヒラヒラ、とても楽しそうです。

(母・恵里さん)
「一番良かったのは、本人と私たち保護者が、のんびりゆったりと楽しむことができるところが、何よりのぜいたく」

広がるセン“サリーフレンドリー”の取り組み。それは、誰にとっても暮らしやすい社会づくりに他なりません。

CBCテレビ「チャント!」1月23日放送より

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