「他とは違う」&「おかしな夫婦」 現代インドネシア人の笑いのツボを押さえたコメディ2選 【インドネシア映画倶楽部】第69回

Agak Laen(他とは違う)

Pastri Gaje(おかしな夫婦)

質の高いインドネシアのコメディ2本。夜のお化け屋敷を舞台に、ホラーの逆手を取っての笑いへの転換が巧みな「他とは違う」。CGでアニメのような特殊効果が独自世界のテイストを作り上げている「おかしな夫婦」。映画館でも爆笑が起きている。

文と写真・横山裕一

インドネシア映画といえばホラー作品の次に多く上映されるのがコメディ作品。今回は話題のコメディ映画2作品を紹介したい。2本ともタイトルに辞書では出てこない若者言葉が使用されていて、内容も現代インドネシア人の笑いのツボを押さえた面白い作品でおすすめだ。

1本目は「他とは違う」(Agak Laen)。制作会社によると上映1週間で200万人以上の観客動員を数える人気ぶりだという。物語は夜の遊園地が舞台。遊園地内のお化け屋敷で働く、ベネ、ボリス、ジェゲル、オキの4人は恋人の親を納得させるための婚約資金や病気の母親の医療費などそれぞれにまとまった金を緊急に要する事情を抱える。しかし、お化け屋敷は彼らが扮装するお化け同様怖くないため閑古鳥が鳴き、収入増は期待薄だった。

ある夜、中年男性が浮気相手と遊園地でデート中、妻も来園しているのに気づいた彼は身を隠すために一人お化け屋敷に入場する。彼は極度の怖がりのうえ心臓病を患っていたため、4人が扮するお化けを見て心臓発作で死んでしまう。この事態にパニックを起こした4人は遺体をお化け屋敷内のお墓のセットの下に埋めてしまう。しかしそれ以降、お化け屋敷内では怪奇現象が起き始める。怯える4人だが、怪奇現象を演出と勘違いした客は喜び、一躍行列のできる「他とは違う」お化け屋敷に。4人は収入増で喜ぶが、実は死んだ男は政治家で、行方不明者として警察の捜索の手はお化け屋敷へと伸びる……。

ホラー要素を含んだお笑いと、インドネシア人には豪華なパッケージ作品で、お化けに扮した4人が慌てふためく姿はかなり滑稽で劇場でも観客からは爆笑が沸き起こる。怖いはずのメイクで深刻な表情を見せる4人も可笑しく、ホラーの逆手を取っての笑いへの転換は巧妙だ。

2本目は「おかしな夫婦」(Pastri Gaje)。主役の夫婦を演じるのは実力俳優のレザ・ラハディアンと女優で歌手のブンガ・チトラ・レスタリ。映画「ハビビ&アイヌン」(Habibie & Ainun/2013年作品)に始まり、ヒットコメディ映画「私のおバカなボス」(My Stupid Boss/2016年作品)シリーズ以来のコンビだ。

新婚5カ月のアディマスとアデリア夫妻はともに役場勤めで、新居を構えてラブラブな生活を送っていた。家のローン返済など家計面から、子作りはもう少し後でと決めるが、夫のアディマスは強面の姑から早く孫をとプレッシャーをかけられる。アディマス夫妻は一転して子作りに励もうとするが、アディマスは夜間、町内で決められた見回りに出なければならなかったり、食卓ではアデリアが精力増強に良いと出すモヤシ料理が大嫌いで食べられない。困り果てたアディマスはある日、アデリアから2週間生理がきていないことを聞き、先走って姑にアデリアが妊娠したと告げてしまう。しかし、その後の検査で妊娠していないことが判明し、大喜びする姑に二人はどう説明するか悩む。さらに悪い事に、アデリア妊娠の報が職場である役場内にまで広がってしまう……。

二枚目で真面目ながらどこか奇妙な言動をとってしまうアディマス役の演技はコミカルで、映画「私のおバカなボス」同様、主演の二人は安定した可笑しさを披露している。また、映像には実写に加えてコンピューターグラフィックでアニメのような特殊効果が多用されているが違和感はなく、逆にアメリカンコミックを観ているような効果を上げていて新鮮だ。

町役場(Kantor Camat)や制服、夜回りを仕切る地区長(Ketua RW)、食堂(Warteg)などインドネシア臭いアイテムが出てくる一方で、商店の出入り口に扉が使用されたり小綺麗になっただけで、欧米の街並みっぽく見える。リアリティさには欠けるが、これがかえってCGとともに物語にあった独自世界のテイストを作り上げる効果を出しているようで、見どころのひとつでもある。

両作品とも笑いと共に映画ならではの映像作りにも力の入れられた作品であり、是非とも劇場で質の高いインドネシアンコメディを楽しんでいただきたい。
(「おかしな夫婦」のみ英語字幕あり)

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