上司に退職を申し出たら、会議室で「辞めると会社が回らなくなり迷惑だ、損害賠償を請求する」と言われました。長時間労働で体調が限界なのですが、どうすれば良いですか? 本当に請求されるのでしょうか?

従業員の退職を会社が拒むことはできない

従業員が自分の意思で退職することを、会社が拒むことは基本的にできません。

無期雇用契約の場合、従業員が退職の意思を会社に伝えれば、2週間後には退職できます。有期雇用契約の場合、原則として契約終了までは退職できません。ただし、労働契約期間が1年を超える場合には、契約の初日から1年以上経過していれば、会社に申し出ればいつでも退職できることになっています。

さらに、やむを得ない事情があれば、直ちに退職することも可能です。「やむを得ない事情」としては、通勤できない遠距離への引っ越しやハラスメント、病気などが考えられます。長時間労働で体調を崩した場合も、これに該当する可能性があるでしょう。

従業員の退職を会社が拒むことができないというのは、民法や労働基準法などで明確に定められているルールです。

会社が従業員に就労を強制することも、損害賠償請求することも実際にはできない

従業員が退職を申し出ているのに、会社が不当な手段・方法で就労を強制することは労働基準法で禁止されており、懲役など刑事罰も定められています。退職を申し出た従業員を長時間取り囲んで就労を強制するような行為は、威圧的な方法・手段として違法になり得るでしょう。

なお、やむを得ない事由の退職について、従業員に過失があれば会社が損害賠償請求できる、という規定はありますが、これは特殊な事例でしょう。実際に損害賠償請求が認められた判例は見当たらないとされています。「損害賠償請求するぞ」と詰め寄る行為も、根拠のないどう喝として違法と考えられます。

会社が退職を認めてくれない場合の対応

退職の申し出を会社が認めてくれないとき、自身での対応に躊躇(ちゅうちょ)するような場合は、公的機関を活用しましょう。

まず、会議室で上司に囲まれ就労を強いられるなどして、身の危険を感じるならば最寄りの警察署への相談を考えましょう。不当な手段・方法で就労を強制するのは犯罪行為です。

退職の手続きについては、都道府県の総合労働相談コーナーや労働基準監督署など、公的機関に相談しましょう。また、労働問題専門の弁護士に相談するのも1つの方法です。初回の相談は無料、もしくはリーズナブルな料金で相談を引き受けてくれる弁護士も存在します。

実際の退職手続きは、次のような手順を踏むことになるでしょう。職場の上司らが退職を拒む場合は、会社の本部などに相談します。本部への相談で適切に対応してくれる場合もあります。

それでだめなら、文書で「退職届」を提出します。労働契約を解除する意思を届け出る書類であり、書面で明確な証拠として残すことができます。持参するのは気が引ける、または職場で受け取ってもらえない場合は、内容証明郵便などで郵送するのが確実でしょう。

そのほかの手続きなどで注意すべきこと

会社が退職者に交付すべき書類を出してくれないなどの嫌がらせを受ける可能性はあります。未払いの残業代などの問題が発生しているかもしれません。ためらわず公的機関や弁護士に相談しましょう。

退職時に交付されるべき書類についての注意

会社が交付すべき書類として、次のようなものが挙げられます。

・退職証明書
会社が従業員の退職を証明する「退職証明書」です。国民健康保険への切り替え手続きや、転職先の会社に提出する際に使います。退職者が請求すれば会社は発行を拒むことはできません。退職者が求めていない事項を記載することも禁止されています。

・離職票
雇用保険の手続きに必要な書類です。退職手続きの後、ハローワーク経由で会社から退職者に交付されるものです。会社が交付してくれない場合や、離職票の記載内容に疑義がある場合には、ハローワークに相談しましょう。

例えば離職理由に「自己都合」とあるものの、実際は病気などやむを得ない事由で退職した場合などが考えられます。離職理由によっては、失業手当の額に大きな違いが出ることもあります。

未払いの残業代などの問題

従業員を脅して就労を強制するブラック企業なら、未払い残業代などの問題が発生しているかもしれません。心当たりがあれば、在職中にできる限り証拠となるものを集めておきましょう。また有給休暇の使い残しがないかも確かめたいところです。会社は従業員の有給取得を拒むことはできません。

このようなことも、公的機関や弁護士と相談しましょう。

強制労働の禁止は労働法の基本原則

労働契約は従業員と会社が自由な意思を持って締結するものです。従業員が辞職や休業を希望しているのに、その意思を抑圧して労働を強制することは許されません。違反行為については労働基準法の中で最も重い刑罰が定められています(1年以上10年以下の懲役など)。

上司の脅しがあったとしても、ひるんではいけません。公的機関や弁護士など、外部専門家の力をじゅうぶんに活用しましょう。

出典

e-Gove法令検索 民法
e-Gove法令検索 労働基準法
東京都労働相談情報センター – TOKYOはたらくネット どうなる?こんなトラブル!パート・アルバイト、派遣社員、契約社員で働く方のためのQ&A
厚生労働省 総合労働相談コーナーのご案内

執筆者:玉上信明
社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー

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