【欧州の大型廃棄衛星が今月地球へ落下!】 燃え尽きるまでの軌跡を関係者が注視

欧州宇宙機関(以降ESA)が1955年に打ち上げた、大型の地球観測衛星「ERS-2」が、2024年2月中旬頃に制御不能のまま、地球の大気圏に再突入することが予想されている。

ESAはその様子を注意深く監視しているところだ。

画像: 欧州宇宙機関(ESA)の管制室 credit by ESA

ESAによって1995年に打ち上げられたERS-2は、2011年に運用を終了しており、大気圏再突入による廃棄準備のため、事前に燃料を使い切るなどの手順を進め、ERS-2の軌道を下げていた。

しかし、ERS-2は燃料切れのため制御不能であり、地上からの操作はできない。

正確な再突入地点や日時については、まだ十分な予測ができていないが、地球表面の7割を占める海洋上空になる可能性が高いとされている。

本稿では、欧州の大型の地球観測衛星「ERS-2」の大気圏再突入について説明する。

目次

ERS-2の大気圏再突入概要

ERS-1の後継であるESAの「ERS-2地球観測衛星」は、1995年の打ち上げから10年以上運用されていた。

ESAによると、ERS-2は欧州がこれまで開発・打ち上げた初期の地球観測衛星の中で最も高度なものだったという。

そのペイロードには、雲や大雨の中でもハリケーンの嵐の中心で風場を測定できる独自のCバンド散乱計が含まれていた。

ESAは、ERS-2が本来の運用期間を終了する前、2011年7月と8月に66回ものエンジン燃焼を行い、その終焉に向けて準備を開始していた。

ESR-2の残りの燃料を使い切って、平均高度を約212km下げ、他の衛星や宇宙ゴミとの衝突リスクを大幅に減らし、衛星が15年以内に地球大気に再突入できるように軌道減衰を速めたのだ。

打ち上げ時の重量は2,516Kgで、現在は燃料を消費して約2,294Kgとなっているという。

宇宙ゴミの大気圏再突入頻度とリスク

画像: ERS-2の等身大模型 CC BY-SA 3.0

2トン以上の重量はかなりの大きさだが、ERS-2のような大きさの物体が地球の大気圏に再突入するのは珍しいことではない。

ESAの担当官によると、平均して1、2週間ごとに同様の質量の物体が大気圏に再突入しているという。

近年では、さらに巨大な物体が制御不能のまま地球に落下している。

例えば、中国の「長征5B」ロケットは、打ち上げから約1週間後に23トンものコアステージが制御不能に陥り落下した。

このコアステージは、ロケットの第一段目のことで、液体燃料や固体燃料をタンクに搭載して、打ち上げ時に最も多くの推力を生み出す役割を担っている。

この設計は、NASA当局や宇宙関係者から批判されている。

また、このような制御不能落下は過去3年間で3回も起こっている。

中国の宇宙ステーション「天宮」の3つのモジュールを運んだ「長征5B」ロケットが、2021年4月、2022年7月、2022年10月に制御不能のまま落下した。

一方、ESAの地球観測衛星ERS-2は、衛星本体を地球の大気圏で廃棄処分するために、過去13年間にわたってゆっくりと高度を下げてきた。

そしてついに、大気によって急速に落下し始めたのだ。

燃料を使い果たしているERS-2は制御不能なため、この落下速度は今後数日間でさらに加速していくとみられる。

ERS-2の再突入の予測

画像: 欧州宇宙機関(ESA)のERS-2のイラスト。2024年2月に地球に落下すると見込まれている。 credit by ESA

ERS-2が地球大気圏のどの部分に、いつ再突入するかは現時点では正確に予測できないが、地球の表面の約70%が水で覆われていることから、海水に落下する可能性が高いと考えられており、陸地に落ちる可能性は低い。

ESAの情報によると、衛星は標高約80km付近で大気圏突入時に砕かれる見込みだ。

その破片の大部分は大気圏内で燃え尽きると予想されている。

地上に落下する可能性もある一部の破片は、有害物質や放射性物質は含まれていないため、過度に心配する必要はないという。

落下物に当たる可能性は極めて低いと考えられており、これは、宇宙ゴミに限らず、どのような落下物にも当てはまるという。

ESAの担当者によると、宇宙ゴミ(スペースデブリ)によって、人がケガをする年間確率は、100億人に1人未満で、雷に打たれる確率よりも約65,000倍低い数値だ。

ESAによる最新情報の提供

欧州宇宙機関 (ESA) は、今後数日間にわたってERS-2の地球大気圏再突入に関する最新情報を発信する予定だ。

興味のある方は、以下のリンクをチェックしていただきたい。

ESAスペースデブリ・オフィスから配信される、ERS-2の大気圏突入に関する最新情報。更新情報はページの上部に追加される。

ERS-2 reentry – live updates – Rocket Science

ESA Operations(@esaoperations) / X

ERS-2の概要、スペック、成果

簡単ではあるが、地球観測衛星「ERS-2」ついて紹介する。

概要

・欧州宇宙機関(ESA)が運用していた地球観測衛星。
・1995年4月21日打ち上げ、2011年9月5日運用終了。
・太陽同期軌道周回、高度約800km、傾斜角約98.5°。
・3軸安定式、地球指向衛星。
・周期約100分、軌道は35日で繰り返される。
・SPOT衛星プラットフォームをベースとする。
・ニッケルカドミウム電池搭載。
・2001年からジャイロスコープなし稼働。
・2003年からテープドライブ故障。
・2006年まで唯一の種類だった計器2つ搭載。
・2011年9月5日運用終了。
・爆発防止のための処置後、燃料を使い高度を低下。
・大気圏再突入は25年以内と予測。

本体

・重量:2,385kg
・全長:10m
・直径:2.7m
・電力:2.5kW
・軌道高度:573km
・軌道周期:100分
・傾斜角:98.5°

成果

・海上油流出の監視
・海氷の観測
・陸地の表面変動の観測
・森林伐採の監視
・地震や洪水などの災害の監視
・大気汚染の監視
・地球環境の長期的な変化の監視

その他

・ERS-2衛星は、欧州初の地球観測衛星ERS-1の後継機として開発された。
・合成開口レーダー(SAR)と呼ばれる先進的な観測装置を搭載しており、昼夜や天候に関わらず、高精度な画像を取得することができた。
・ERS-2衛星によって取得されたデータは、地球環境の科学研究に大きく貢献した。

さいごに

ERS-2の残骸による被害は極めて低いと考えられているが、最新情報に注意し、今後の動向を注視したい。

今回のERS-2の再突入や中国の宇宙活動を教訓として、今後も安全な宇宙開発を進めていくには、運用の終わった衛星や探査機、ロケット部品などが適切に廃棄されるよう、国際ルールの制定と監視が急務となるだろう。

参考 :
Big, dead European satellite will crash back to Earth this month | Space
ERS-2 reentry – frequently asked questions – Rocket Science

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