【今週のサンモニ】寺島実郎氏の「禅問答」に徹底的に付き合ってみた|藤原かずえ 『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。今回はいつも何を言っているのかピンとくることのない寺島実郎氏のコメントに、逐一突っ込みを入れてみました。

ちょっと何言ってんのかわからないです

2024年2月11日の『サンデーモーニング』では、寺島実郎氏・大宅映子氏・渡部カンコロンゴ清花氏・松原耕二氏といった、ヒステリックで過激なポジション・トークに染まり続けるコメンテーターとは一線を画す穏健なコメンテーターが出演しました。

そんな中で、寺島実郎氏のいつもの、何を言っているのかピンとくることのない禅問答コメントが炸裂し、内容が全然印象に残らないことが印象に残りました(笑)。

寺島実郎氏といえば、『サンデーモーニング』の上座をほしいままにして、司会の関口宏氏から最初にコメントを振られる立場にあります。番組では自分の意見をハッキリと主張するコメンテーターが多い中、寺島氏だけは、話の内容があまりにも曖昧であり、いつも何が言いたいのかサッパリわかりません。この日もそうでした。

寺島実郎氏:裏金問題と旧統一教会の問題は絡み合っているわけで、アベ政治の本質がここに収斂してきている。

まず「裏金問題と旧統一教会の問題は絡み合っている」といきなり言われても、何のことなのかわからず、このファーストタッチの時点で、多くの視聴者は残酷にも取り残されてしまいます。

2つの「問題」が「絡み合っている」状態というのは、何かしらの共通部分の存在を示唆するものと考えられますが、寺島氏はその重大な部分が何であるかを省略してしまうため、視聴者は妄想に徹するしかありません。

そこにいきなり「アベ政治の本質」という各個人によって評価が分かれるプロブレマティックな概念が飛び出します。寺島氏は、この「アベ政治の本質」が、問題に「収斂してきている」と断言しているのです。

思わせぶりな概念をひたすら羅列

寺島実郎氏:別の言い方をすると、戦後日本の保守政治って何だったのか、国民としてもよく考える必要がある。根底にあるのは権力と金と票とで民主主義は動かせるという考え方が背景にある。

「別の言い方をすると」という言葉を聞いて、寺島氏がわかりやすく説明してくれるのではという一瞬の期待も無残に裏切られることになります。

話はますます発散して、どの概念とどの概念を対応させればよいのか、完全に置いて行かれることになります。

「アベ政治」を「戦後日本の保守政治」、「アベ政治の本質」を「権力と金と票とで民主主義は動かせるという考え方」と関連付けたと推察することもできなくはありませんが、そうであるとすれば、いずれも軽率過ぎる概括です。安倍総理は、独自の政策を掲げることで、正々堂々と民主的な選挙に勝ち続けたわけであり、その圧倒的な勝利にたった数億円の裏金や2万人ほどの統一教会の信者が介在していたとするなど陰謀論もいいところです。日本の有権者は1億人もいます。

また、票で政治が動くという考え方は、至極当然の民主主義の結果です。寺島氏は何を勘違いしているのでしょうか。

寺島実郎氏:戦後民主主義を愚弄しているが、一方国民もその仕組みの中に過剰同調していたことについてどう考えるか問われている。

ここでいきなり、やめときゃいいのに「民主主義」ではなくて「戦後民主主義」なる各個人によって解釈が異なる曖昧過ぎる概念が無節操に飛び出します。

寺島氏は、何が戦後民主主義をどうやって愚弄しているかを一切説明しないどころか、未定義の思わせぶりな概念をこれでもかと次々羅列して行きます。寺島氏の禅問答はますます深まっていくばかりです。

加えて、安倍自民党が国政選挙で圧勝し続けたことを「過剰同調」と表現しているのであれば、寺島氏はその根拠を説明する必要があります。個人の私見を自明な前提とするような言論のスタイルは明らかにルール違反です。

安倍政治の本質を理解していない寺島氏

寺島実郎氏:岸田政権というのは、自民党の中でも保守リベラルで、宏池会らしい政治をやり始めるのかと思っていたら、派閥解散ということで何もしないまま解散になっちゃった。要するに歴史に岸田政権がどう残るんだろうか。アベ継承政権で終わるのか。つまりアベ路線を引き継いだ者として終わるのか、それとも21世紀の新しい日本の保守政治を切り開いていくのか。

ここで脈絡もなく「岸田政権」の登場です(笑)。「保守」と「リベラル」という対立する概念を無節操に繋げた寺島氏の言う「保守リベラル」とは一体どういう概念なのでしょうか。

保守とは、個人の政治的自由権を制限して政治的社会権を確保すると同時に経済的自由権を与える思想であり、リベラルとは、個人の経済的自由権を制限して経済的社会権を確保すると同時に個人に政治的自由権を与える思想です。

ちなみに、個人の政治的自由権を尊重すると同時に、金融市場への資金流入と国民負担率を上げて手厚い経済的社会権を国民に与えた安倍政権は、「保守」という名のリベラル政権です。安倍政権が個人の政治的自由権を制限したとすれば、テロ等準備罪くらいですが、それでさえ犯罪と無縁な大多数の個人にとっては制限ゼロです。

寺島氏の言う「宏池会らしい政治」がリベラリズムを指すのであるのなら、既に安倍政権が「宏池会らしい政治」を行っており、安倍継承政権である岸田政権は「宏池会らしい政治」を安倍政権から継承しています(笑)。安倍政治の本質を理解していない寺島氏には理解できないかもしれませんが。

自分でも何を言っているのかわかっていないのでは?

寺島実郎氏:ところが振り返ってみると去年の広島サミット、平和と核について物凄く絶好の彼にとってチャンスだったが、結局米国に忖度して何も動かない動けないことを見せた。

寺島氏は、保守は軍事に賛同し、リベラルは軍事に反対するかのような思い込みを前提にしているように解釈できますが、安全保障政策は、保守・リベラルといったイデオロギーとは無関係です。

例えば、保守政党である共和党のトランプ政権は軍事に消極的、リベラル政党である民主党のバイデン政権は積極的です。また、岸田政権が「米国に忖度して」動かなかったのではなく、日本の安全保障には米国と連携する核抑止が最も現実的であると判断して動かなかったことは自明です。

寺島実郎氏:アベノミクスも結局円安株高構造の中で、要するにデフレから脱却しようという方向感でスタートしたが、正常化できないまま今日に至っている。

ここでまた脈絡もなくアベノミクスについて言及する寺島氏です。主張の展開がアクロバティックで支離滅裂であることも、寺島氏が何を言っているのかわからなくなる大きな要因の一つです。

ちなみに、寺島氏自身も、自分が何を言っているのかわからなくなっている可能性は否定できません(笑)。

「要するに」なんなんだ

寺島実郎氏:要するに、歴史の評価をかけて岸田氏としては大きく深呼吸して、自分は保守政治の何を背負って次に日本を進み出していくべきなのかということを残すべきラストタイミングに入っている。

「裏金問題」と「旧統一教会問題」に対して意見するはずであった寺島氏のコメントは、「アベ政治」「戦後民主主義」「岸田政権」「広島サミット」「アベノミクス」「保守政治」といった多種多様のキーワードを経由する壮大な展開を見せ、最終的に「岸田氏は大きく深呼吸すべき」という結論に落ち着きました(笑)。

この間に寺島氏は「別の言い方をすると」「要するに」「つまり」といった言い換えを示唆する言葉を連発しましたが、その都度、話はどんどん違う方向にズレて行きました。結局、寺島氏が何を言いたかったのか最後まで分からず仕舞いです。

ただ、私が見事と感心したのは、この壮大な思わせぶりコメントを満足げに終えた寺島氏に対して「そうですか」と一声をかけて軽く受け流した関口宏氏です。寺島氏の禅問答コメントを真面目に理解しようとしたら時間がいくらあっても足りません(笑)。

その後も別の話題で寺島氏の難解な禅問答コメントが続きます。

寺島実郎氏:SNSは新しいルール形成が必要な局面に来ていることは間違いない。一番僕が懸念しているのは思考の外部化に収斂する。要するに必ず検索エンジンから入るから視界が狭くなっている。何かと言うと自分の頭で考える力が衰えていく。

ここでも寺島氏は「要するに」「何かと言うと」といったように自分の言葉をわかりやすく言い換えようと試みていますが、残酷にもその都度さらに難解になって、手に負えなくなります。

現代人の情報取得環境は過保護なほど便利であるため、「自分の頭で考える力が衰えていく」という寺島氏の主張はわからなくはありません。

しかしながら、要するに、寺島氏の禅問答コメントの場合は、使われている言葉の概念があまりにも曖昧であり、何かと言うと、コメントの体をなしていないため、どこをどう解釈していいのか特定できず、寺島氏の更なる説明なくして、寺島氏の言わんとしたいことの趣旨を他人が一意に定めることは不可能なのです(笑)。

寺島実郎氏:正規軍と正規軍の戦いにならずにイライライライラジレジレするような非対称戦争に引きずり込まれている。これが中東の火薬庫だ。まさに米国の病気が出てきたなと。

この禅問答コメントのように寺島氏が【換喩 metonymy】の修辞表現を乱用することで、視聴者はあまりにもイライライライラジレジレするような非対称な言語ゲームに引きずり込まれていると言っても過言ではありません。

ただ、聞き終えてしまえば、何もわかっていないにもかかわらず、なんとなくわかったつもりにさせられてしまうところが、寺島氏の偉大なところであり、『サンデーモーニング』が愉快なワンダーランドである所以です(笑)

藤原かずえ | Hanadaプラス

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