「オレオレ詐欺」見抜いた私は大丈夫、と思っていたのに…警戒心を簡単にかいくぐる手口 被害女性が語る

女性が自戒のために保管している携帯電話の着信履歴と銀行口座の通帳=川西市内

 自宅の電話が鳴った。ディスプレーに表示された番号は、不審電話の代表例とされる「0120」や「050」で始まるものではない。電話の主は、実在する量販店の担当者を名乗った。特殊詐欺への警戒心はここで簡単にかいくぐられ、70代女性は計約190万円をだまし取られてしまった。

 ### ■市内のドンキ

 2023年10月18日午前10時ごろ、兵庫県川西市に住む佐藤亜希子さん(仮名)が電話に出ると、「ドン・キホーテ川西店」のヤマモトを名乗る男がこう告げた。

 佐藤亜希子さんですね。今、店でカードが使われており、女が7万円の時計を購入しています。

 カードは1年前に利用停止したはずだった。カード会社に確認することを伝えた佐藤さんに、ヤマモトはこう続けた。

 スキミングされているかもしれません。クレジット消費者協会に連絡して確認した方がいい。今、女は逃げ、男と一味がいるので、警察が捜査しています。

 電話を置いた佐藤さんは慌てて、男が告げた「クレジット消費者協会」とされる番号にかけた。いつもなら疑って出ないはずの「050」から始まる番号だった。ヤマダを名乗る男が電話に出て、こう指示したという。

 銀行のカードもスキミングされているかもしれない。係の者が自宅へ向かうので、封筒にきちんと保管してほしい。警察に連絡する際にちゃんと証拠として持っていた方がいいので。

 ### ■場を外した隙に

 同日午後1時ごろ。佐藤さんの自宅に男が来た。黒のリュックにスーツ。佐藤さんは係員と思い、キャッシュカードを入れた封筒を渡した。男は封筒を確認し「封印は実印か銀行印の方がいい」と説明。佐藤さんは印鑑を取りに室内に戻った。

 男はその間に、封筒の中のカードをすり替えたとみられる。「新しいカードは翌週の月曜日に届く。保管しているこのカードは警察に渡してほしい」。男は確認を終えると引き上げていった。

 同日午後3時ごろ。再び男が来た。直前に協会のヤマダから佐藤さんに「クレジットカードも保管を」と連絡があった。佐藤さんは同じようにクレジットカード5枚を封筒に入れて男に渡した。

 「喉、渇いたでしょう」。何度も来てもらったことへの申し訳なさもあったのか、佐藤さんはジュースを取りに室内に戻ってしまった。封筒の中身はまたも、その間にすり替えられたと思われる。

 ### ■立て続けに電話

 協会のヤマダからの電話は、その後も30分おきにかかってきた。

 神戸・三宮の百貨店で12万円のカバンが購入された形跡がある-。友達にも子どもにも言わないで。偽の子どもが取りに来るかもしれない-。暗証番号を変えた方がいい。使用している番号は何番ですか-。

 電話は午後6時ぐらいまで定期的に続いていた。その日の夜、話を聞いた佐藤さんの夫は「おかしくないか」と指摘したが、佐藤さんは意に介さなかった。

 19日午前9時過ぎ、銀行から「口座で8、9回出金があり、不正ではないかと利用を止めました」と連絡があった。佐藤さんはだまされていることに気付いた。呆然とする佐藤さんの横で夫が封筒を開けると、ただの白いカードが出てきただけだった。

 ### ■被害の記憶を刻む

 預金が引き出された口座の通帳は、今も佐藤さんの手元に残っている。1日で計170万円が引き出された記録が、まざまざと刻まれている。通帳の裏面には18桁の数字。「キャッシュカードを新しくする際の保険番号として伝えられた数字を走り書きしていた」と苦々しく語る。

 これまでに被害に遭ったという友人の話を聞いていたし、回覧板で特殊詐欺被害の注意を呼びかけるチラシも見ていた。息子を語る「オレオレ詐欺」を見抜き、警察に通報したこともある。それでも「どこか他人事で、自分は大丈夫、被害に遭わないと思っていたのだと思う」と打ち明ける。

 被害直後は落ち込んで寝られない日々が続き、めまいを起こすこともあった。そんな忌まわしい記憶だが、多くの人が知り、被害防止の役に立てばと取材に応じたという。佐藤さんは自戒を込めて「少しでもおかしいと思ったらすぐに警察に通報してほしい」と呼びかける。

 1224件、19億9千万円-。兵庫県内で2023年、警察が確認した特殊詐欺被害の件数と金額(暫定値)だ。件数は過去最多を更新し、金額は過去最悪の20億1千万円(13年)に次ぐ結果となった。(篠原拓真)

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