スーパーボウルの裏で低迷する北米映画興行 中国ではリメイク版『百円の恋』がヒット

2月11日(米現地時間)、年に一度の巨大スポーツイベント「スーパーボウル」が開催された。北米で1億人以上が視聴するというスポーツの祭典に、映画スタジオ各社は話題作のプロモーションを投入。『デッドプール』シリーズの第3作『デッドプール&ウルヴァリン』をはじめ、『猿の惑星/キングダム』やミュージカル映画『Wicked(原題)』などの予告編がお披露目となった。

ただし、スーパーボウルに関心が集中するということは、人々が映画館に足を運びにくいということでもある。2月9日~11日の3日間、北米映画市場の週末累計興行収入は推定4000万~4200万ドルで、スーパーボウルの週末としては過去30年間で最低となった。コロナ禍で多くの映画館が休業した2021年(約770万ドル)を除けば、これは1980年代中盤以来の数字。まだ2月半ばではあるが、2024年の週末興収としても最低の成績だ。

言わずもがな、原因はスーパーボウルだけでなく、ホリデーシーズン後の話題作不足と、2023年のストライキによる作品不足にある。昨年は『マジック・マイク ラストダンス』(2023年)が劇場興行を牽引し、スーパーボウルの週末も累計興収5260万ドルを記録したが、今年はその4分の3にとどまった。

週末ランキングの第1位は、前週に続いてマシュー・ヴォーン監督の最新作『ARGYLLE/アーガイル』。週末3日間の興行収入は650万ドルで、前週比-62.8%という大幅な下落を見せた。Appleは製作費2億ドルを投じたが、北米興収は4500万ドル程度に終わるものと予測されている。既存の映画ビジネスと同じようには語れない作品だが、前週も指摘したように、Appleの宣伝・投資戦略だと捉えてもこれは厳しい推移だろう。

第2位に初登場したのは、ホラーコメディ『Lisa Frankenstein(原題)』。ヴィクトリア朝時代の青年に恋した少女が、墓場から青年を蘇らせてしまい、愛と幸福、失われた身体の一部を求めて旅する物語だ。主演は『アントマン&ワスプ:クアントマニア』(2023年)のキャスリン・ニュートン、『リバーデイル』(2017年~2023年)のコール・スプラウスというフレッシュな組み合わせである。

もっとも、ランキング上でこそ第2位だが、3144館という上映規模で、わずか380万ドルのオープニング興行収入は「不発」と形容するほかない。幸いにも、Rotten Tomatoesでは批評家スコア49%に対して観客スコアは83%と好評で、出口調査に基づくCinemaScoreでも「B」評価とまずまずだ。製作費も1300万ドルと低予算のため、製作・配給側のダメージは比較的少ないと思われる。

監督は俳優のゼルダ・ウィリアムズ、脚本は『JUNO/ジュノ』(2007年)のディアブロ・コーディ。日本公開は未定だが、世界配給はユニバーサル・ピクチャーズが担当する。

そのほか、今週もランキングの顔ぶれに大きな変化はないが、第9位には『DUNE/デューン 砂の惑星』の再上映がランクイン。来たる『デューン 砂の惑星PART2』の特別映像を加えたバージョンで、3日間で166万ドルを売り上げた。北米映画興行は、市場全体が現時点で前年比-15%とやや低調で進行中。『デューン 砂の惑星PART2』は大きく盛り返すチャンスになると、今から業界の期待が寄せられている。

ちなみに春節(旧正月)を迎えた中国は、北米とはうってかわって映画館が賑わう週末となった。春節2日間の累計興行収入は3億3900万ドルで、第1位には日本映画『百円の恋』(2014年)をリメイクした『YOLO(英題)』が1億1000万ドル以上を売り上げて初登場した。監督・脚本・主演は『こんにちは、私のお母さん』(2021年)のジア・リン。ソニー・ピクチャーズが海外配給権を獲得しているが、日本公開はどうなる?

北米映画興行ランキング(2月9日~2月11日)

1.『ARGYLLE/アーガイル』(→前週1位)
650万ドル(-62.8%)/3605館/累計2881万ドル/2週/ユニバーサル

2.『Lisa Frankenstein(原題)』(初登場)
380万ドル/3144館/累計380万ドル/1週/Focus Features

3.『The Beekeeper(原題)』(→前週3位)
346万ドル(-34.3%)/3057館(-220館)/累計5473万ドル/5週/Amazon・MGM

4.『The Chosen: S4 Episodes 1-3』(↓前週2位)
315万ドル(-46.9%)/1955館(-325館)/累計1258万ドル/2週/Fathom Events

5.『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』(↓前週4位)
312万ドル(-33.2%)/2746館(-137館)/累計2億525万ドル/9週/ワーナー

6.『FLY!/フライ!』(↓前週5位)
302万ドル(-28%)/2684館(-146館)/累計1億1014万ドル/8週/ユニバーサル

7.『Anyone But You(原題)』(→前週7位)
270万ドル(-21.8%)/2805館(+186館)/累計8012万ドル/8週/ソニー

8.『Mean Girls(原題)』(↓前週6位)
192万ドル(-49.8%)/2620館(-487館)/累計6917万ドル/5週/パラマウント

9.『DUNE/デューン 砂の惑星』再上映(初登場)
166万ドル/2100館/累計166万ドル/1週/ワーナー

10.『American Fiction(原題)』(↓前週8位)
132万ドル(-44.6%)/1462館(-440館)/累計1736万ドル/9週/Amazon・MGM

(※Box Office Mojo、Deadline調べ。データは2024年2月12日未明時点の速報値であり、最終確定値とは誤差が生じることがあります)

参照

https://www.boxofficemojo.com/weekend/2024W06/
https://www.hollywoodreporter.com/movies/movie-news/argylle-box-office-worst-super-bowl-weekend-1235821901/
https://variety.com/2024/film/news/box-office-argylle-beats-lisa-frankenstein-lowest-grossing-weekend-1235907196/
https://deadline.com/2024/02/box-office-super-bowl-weekend-argylle-lisa-frankenstein-1235821030/
https://deadline.com/2024/02/yolo-chinese-new-year-movies-wonka-worldwide-international-box-office-1235822097/

(文=稲垣貴俊)

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