スコープ/生コン業界、適正価格確保と労働環境改善が魅力向上の鍵に

建設生産に欠かせない生コンクリートの供給を支える生コン業界が苦境にあえいでいる。セメント価格などの高騰を踏まえた価格転嫁や、若い人材を呼び込むための労働環境の改善が急務となっている。そうした中、全国生コンクリート工業組合・協同組合連合会(全生連、斎藤昇一会長)や加盟協組で、業界の魅力アップに力を入れる動きが加速している。
□コスト改善/値上げ基調が継続□
セメント価格の高止まりに加え、骨材価格や運賃などの上昇が続いており、生コン価格の引き上げ基調が続いている。全生連の調査によると、238協組が2段階で価格改定を推進。物価資料(建設物価、積算資料)で2次改定まで更新された数は、2月号時点で建設物価で431地点、積算資料で401地点となった。いずれも昨年7月号と比較して2倍超に伸びている。
契約の在り方も見直しが進む。東京地区生コンクリート協同組合(青木規悦理事長)は、2023年度から1年間の期間契約による出荷ベース方式に切り替えた。今年4月には契約済み分にも新しい定価を適用する。「不退転の覚悟で粘り強く交渉する」(青木理事長)との姿勢で臨む。
適正価格の観点からは課題も残る。その一つが、生コン価格の上昇を踏まえてスライド条項が適用された公共工事への対応だ。斎藤会長は「スライド条項でゼネコンに(価格上昇分が)回っているのであれば、もらえないのはおかしい。スライド条項の見える化は自民党生コン議員連盟にもテーマとしてお願いしている」と話す。
全生連は、スライド条項の適用に関する発注者側への調査を、昨年11~12月に初めて実施した。北陸を除く国土交通省の7地方整備局と北海道開発局で調査したところ、単品スライドが34件で適用されており、生コン価格上昇が要因と推定される事例が5件あった。
都道府県では調査した27自治体のうち、情報が閲覧できたのが14自治体にとどまった。生コン価格上昇による単品スライドが適用された事例は213件だった。富山と新潟の両県は、単品スライドの適用結果をホームページ上で公開しており、資材名も明記している。
全生連は1月26日に国交、経済産業両省に調査結果を報告した。スライド条項の適用を含めた契約内容の変更は公表が義務付けられている。適正な情報公開についても、国交省に指導を求めていく。
□週休2日/首都圏協組が25年度から□
各地の生コン協組で働き方改革の取り組みが進んでいる。高知県生コンクリート協同組合連合会(山中伯理事長)は、4月から週休2日制を導入する方針を固めた。「週休2日制にしなければ若い世代が入ってこない」(高知県生コン協組連合会)ことが理由だ。加盟8協組のうち5協組が対象。高知市内の3協組は民間工事が多く、難しいと判断した。先進事例では、大阪広域生コンクリート協同組合(木村貴洋理事長)が既に週休2日制に移行済み。「週休2日が当たり前になっているが不具合はない」(大阪広域生コン協組)。
首都圏の生コン業界では、東京地区生コン協組が、25年4月から土日祝日の完全休日化を目指す方針を決定。昨年10月の登録販売店会議で協力を呼び掛けた。やむを得ず稼働する場合は割り増し単価を求める方向だ。東関東生コン協同組合(西森幸夫理事長)は昨年11月に、三多摩生コンクリート協同組合(小林正剛理事長)は先月、25年4月からの完全週休2日制を目指す方針を発表した。
埼玉中央生コン協同組合(堀川和夫理事長)と玉川生コンクリート協同組合(宍戸啓昭理事長)、神奈川生コンクリート協同組合(大久保健理事長)、千葉西部生コンクリート協同組合(高山弘理事長)も足並みをそろえる方向だ。すべてが実現すれば、東京都内と横浜、川崎、さいたま、千葉の各市で原則、土日に生コンが出荷されなくなる。ある生コン業界関係者は「25年4月からの実施を良しとしているわけではない。建設業界で4週8閉所が浸透していれば、本当は24年度から週休2日にできるはずだった。今変えなければ、本当に将来がなくなってしまう」と訴える。
ただ、組合員以外との競争や、生コン需要のさらなる減少など不安も漂う。経営悪化を招かずに済むよう適正価格の確保が必要だ。生コン工場が立ちゆかなくなれば、安全・安心なインフラや建築物の構築に支障を来す。生コンを利用する側の建設業界が、担い手確保に前向きに取り組む生コン工場を選ぶことも求められる。

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