“国民的野菜”になるブロッコリー 「筋トレだけではなく、寝たきりの防止にも期待」と栄養士指南

我らのブロッコリー!(写真:K321/PIXTA)

「毎日、食卓にブロッコリーが並ぶわが家にとっても、これはうれしいニュースでした」

こう話すのは、『その調理、9割の栄養捨ててます!』(世界文化社)の監修を務めるなど、数々の栄養レシピ本を手掛けてきた東京慈恵会医科大学附属病院栄養部の管理栄養士・赤石定典さん。

農林水産省はこのたび、2026年度からブロッコリーを「指定野菜」に追加することを発表した。

指定野菜とは、「特に消費量が多く、国民生活に重要な野菜」と国が定めた野菜のこと。現在はキャベツ、にんじん、だいこん、はくさいなど14の野菜が指定されていて、新たに追加されるのは1974年のばれいしょ(じゃがいも)以来、およそ半世紀ぶりだ。

指定野菜に追加された野菜は、国のガイドラインに沿って生産や出荷が行われるため、流通量・価格が安定するほか、万一、価格が大きく下落した場合には生産者への補助も手厚くなるという。

つまり、指定野菜になることで、ブロッコリーはこれまで以上に、私たちの食卓に上る機会が増えることが予想される。

過去10年間で、出荷量が3割近くも増加するなど人気のブロッコリー。じつは、多くのビタミンや食物繊維、タンパク質、それにカルシウムやマグネシウムなどのミネラルといった豊富な栄養素を含むことから「野菜の王様」とも呼ばれ、高い健康効果が期待されている。赤石さんは言う。

「ビタミンC、ビタミンB1、ビタミンB6などの含有量は野菜のなかでもトップクラス。かように高いポテンシャルを秘めた野菜、それがブロッコリーなんです」

なかでも昨今、ブロッコリー人気がひときわ高いのが、筋トレ愛好家界隈。ジム通いをしている人のなかには、主食を米からブロッコリーに替えちゃった人もいるほど。

「野菜では珍しくタンパク質を含有しているほか、筋肉を鍛える際、タンパク質と一緒に摂取したいビタミンB6を豊富に含んでいることから注目されました。鶏のささみ肉や胸肉と一緒に食べるのがおすすめです」(赤石さん、以下同)

さらには、筋肉の発達を促す男性ホルモン、テストステロンも含まれているとなれば、筋トレ愛好家たちがわれ先にと口にするのも、うなずけるというものだ。

しかし、なにもムキムキの体を目指していなくても、筋肉量の維持というのは、私たちの健康寿命を延ばすためには重要な要素。

「寝たきり予防のためにも、筋肉量は絶対に重要です。高齢者は筋肉量が低下したことによる転倒、骨折などが原因で、寝たきり生活になってしまうからです」

ブロッコリーは将来、自分の足でしっかり歩き続けたい人にとっても、必須の野菜なのだ。

■紫がかったものはお宝ブロッコリー

「ブロッコリーには筋肉量を増やす以外にも、期待大の健康効果がいくつもあるんです」

まずは「高い抗酸化力」。たしかに抗酸化作用のあるビタミンCの、ブロッコリー100グラムあたりの含有量は、同重量のレモンをも上回る。さらに……。

「ブロッコリーなどアブラナ科の野菜は、がん抑制効果があるとされますが、それは解毒作用や抗酸化作用の高いスルフォラファンを含んでいるからです」

スルフォラファンというと、同じブロッコリーでも、その新芽であるブロッコリースプラウトが注目を集めているが……。

「スルフォラファンの含有量だけを見れば、確かにスプラウトに軍配は上がります。でも、成育したブロッコリーは緑黄色野菜でもあって、皮膚や粘膜の健康を保つなどの働きをするベータカロテンも豊富に含みます。

また、季節によっては花蕾のところが紫色になったブロッコリーが店頭に並びますが、これはポリフェノールの一種で、目の老化防止などに効果のあるアントシアニンが含まれている証し。見つけたら、即購入することをすすめます」

「野菜の王様」と呼ばれるだけのことはある“栄養の宝庫”ブロッコリーだが、赤石さん曰く、調理のしかたひとつで、その効果が台無しになってしまうことも……。

「ゆでてしまうのが、いちばん損な調理法です。水溶性のビタミンCやビタミンB群は、含有量の半分がゆで汁のなかに流出してしまうんです。筋肉量維持を主目的にするのなら、ゆでたブロッコリーでは意味がありません」

赤石さんは「あまり高温で処理することも、すすめない」と話す。

「スルフォラファンを体内に吸収するためには、ミロシナーゼという酵素の働きがカギ。ですが、この酵素は熱に弱いため、高温で調理するとスルフォラファンの効果が薄まってしまうんです」

では、野菜の王様の栄養を余さずいただくには、どのような調理法がいいのだろうか。赤石さんは「それは低温蒸し、一択です」と言葉に力を込めた。

「まず、ブロッコリーの株を食べやすい大きさにカットしたら、そのまま5分間放置。この間に、ミロシナーゼとスルフォラファンが混ざり合い活性化します。次に、鍋の蓋をずらした状態で5分ほど蒸す。蓋をずらすことで、鍋内の温度は70度ほどに抑えられます。ゆっくりと加熱することで、甘味もグッと増しおいしくなる」

蒸し上がったブロッコリーは、マヨネーズなど油分と一緒に食べるのがおすすめだ。

「ベータカロテンは油分とともに摂取しないと、その吸収率は10%以下になってしまうんです」

また赤石さんは、「食べきれなかったものは、クリームシチューに投入しては」と提案する。

「クリームシチューなら、乳タンパクも一緒に摂取できるので、筋肉量維持につながります」

野菜の王様・ブロッコリーをおいしく食べて、死ぬまで歩ける健康を手に入れよう。

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