「道草を食うモビリティ」パナソニック子会社がLoitコンセプトを発表

パナソニック サイクルテックは2月2日から4日にかけて、京都市内でサイクルモビリティのコンセプトモデルを展示した。30年後のモビリティ社会を想定して作られたモビリティの名は「Loit (ロイト)」。便利な移動とは一線を画す「道草を食う移動体験」を提案した。

モデルは鼓動する生き物

30年先を見据えた未来のサイクルモビリティと位置づけられたLoitの名称は、“道草”を意味するloiteringに由来する。昨今、自動運転モビリティなどの開発が進み、人々の移動はスマート化の一途をたどっている。そんな効率重視の移動を追い求めるのではなく、自転車が本来持つ良さに焦点を当てた。

Loitの企画・デザインに携わった、パナソニック サイクルテックの高橋氏は「移動中にフラッと寄り道したり、肌で風を感じたり、自転車の良さを高めて移動体験そのものを楽しむモビリティ」として今回のコンセプト提案を行ったと語る。

パナソニック サイクルテック 商品企画部 デザイン課 高橋利斉氏

このコンセプトを具体化するにあたり、こだわったのは「生き物らしさ」。金属やカーボンではなく、ファブリック素材で覆ったLoitの車体は、どこか温かみを感じることができる。さらに、サドルにまたがれば生き物の鼓動に模した振動を加えたり、ペダルの走行アシストをモビリティ自身が能動的に変化させたり、AIを搭載したモビリティが自律的に活動する構想を掲げている。

その他にも、例えば「右に行ったほうがいい」シチュエーションでは、ハンドルの右側部分を振動させて知らせてくれる。システムが音声で情報を伝えるのではなく、肌を通して対話する感覚は、「人とのコミュニケーションを相互にとる、相棒のような自転車」との意図でデザインされた。

暮らしに彩りを添えるモビリティへ

今回のコンセプトモデルは、パナソニックのデザインスタジオ「FUTURE LIFE FACTORY」と連携して制作を進めた。パナソニック サイクルテックの事業企画部で広報を務める稲谷氏は、先行開発に特化して活動する同スタジオとの連携で「今までにない未来型のコンセプト提案を実現できた」と力を込める。

これまでの自転車は暮らしを支えるモビリティとして実用性を求められ、高度化が進められてきた。実際に、昨年10月に東京で行われたJapan Mobility Showのパナソニックブースでは、自動車との車車間通信機能を搭載し、交通事故を未然に防ぐ「ITS搭載サイクルモビリティ」が展示された。こうした自転車の高度化は、自動車のコネクテッド化と同様に今後も進んでいくことが予想される。

JMS2023東京会場で展示したITS搭載サイクルモビリティ

他方で、「A地点からB地点まで最高効率で移動する」だけでは得られない移動体験があるのも確かだ。今回の「道草を食う」モビリティが実現すれば、あえて遠回りをして見知らぬ場所にたどりついたり、そこで思いがけない出会いをしたり、暮らしに彩りを添える移動を楽しむことができるだろう。自転車ならではの身軽さと気安さは、そんな余白を楽しむ移動体験とも好相性だ。

稲谷氏は「今回Loitを体験した人たちの声を反映しながら、一つずつステップを踏んで実現していきたい」と先を見据える。今回提案したコンセプトが、今後どんな未来へとつながるのか期待が高まる。

(取材・文/和田 翔)

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