仕事と育児との両立支援事例集~男性の家事・育児の促進に向けて~

一般社団法人 日本経済団体連合会は、2023年12月21日に「仕事と育児との両立支援 事例集 -男性の家事・育児の促進に向けて-」を公表しました。
この事例集では、計10社の主な取組みと今後の展望が紹介されています。

厚生労働省が行っている「雇用均等基本調査」の結果を見ても、男性の育児休業取得率は年々増加しており、2022年度の調査結果では過去最高の17.13%となりました。
男性の育児休業取得率の政府目標として、2025年度に50%、2030年度に85%とすることが表明されています。
今後、取得率向上に向けた支援を強化する取組が増々促進されるであろうなかで、現在の制度や今回の事例集から男性の育休について見てみましょう。

現在の育児休業制度

育児休業とは、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下、「育児・介護休業法」という)」に定められている、労働者の子どもが原則1歳になるまで(最長2歳まで)の期間を休業することができる制度になります。
細かなルールは育児・介護休業法で定められています。

ちなみに、似たような言葉で「育児休暇」がありますが、こちらは「育児休業」とは異なり、育児・介護休業法に定めのない単なる休暇という扱いです。

さて話を戻しますが、育児・介護休業法が改正され、2022年4月から段階的に施行されていたことはご存じでしょうか。

この法改正(2022年4月1日施行) では、 以下の5つ事項が改正されました。

1.個別の制度周知・休業取得意向確認と雇用環境の措置の義務化
2.有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和 (2022年10月1日施行)
3.出生時育児休業(産後パパ育休)の創設
4.育児休業の分割取得 (2023年4月1日施行)
5.育児休業取得状況の公表の義務化

産後パパ育休が創設されたことと、育児休業の分割取得が可能になったことが大きなポイントだと思います。
産後パパ育休と併せて、分割して育休を使えば、なんと最大4回に分けて育休が取得できることになります!
更に、産後パパ育休は、休業中に就業することが可能です(※労使協定を締結している場合に限り、労働者が合意した範囲で可能)。
男性の育児休業がより取得しやすい制度に変わっています。

事例集から見る取組み

今回、計10社の事例が公表されました。
全ては紹介しきれないので、男性の家事・育児の促進するための各社の工夫を紹介していきたいと思います。

● 大橋運輸株式会社

経営トップの「育児は夫婦で協力し合うもの」との想いから、2013年から有休で2日間の育児休暇を整備し、2021年、2022年の男性の育児休暇取得率は100%となっています。
男性社員が育児休暇を取得する際には、その目的を会社側が示して、男性社員と配偶者に署名してもらっています。
これが男性も育児に参加するという意識を持たすことができる工夫だと思います。

● 小野薬品工業株式会社

2016年当時、男性の育児休業取得率は0%であった同社は、人事部門主体でさまざまな取組を進め、2022年度の男性の育児休業取得率は65.2%となっています。
社内報で育児休業を取得した男性社員の体験談と上司のインタビューを掲載したり、人事担当者が相談に応じる窓口の設置、育児休業前のガイダンスや上司と一緒に参加する復職後のフォローアップセミナーを導入するなど、育休を会社として応援するサポートが充実しています。

● キヤノン株式会社

2012年から社内プロジェクトのテーマの1つとして「男性育児参画」を促しており、男性の育児休業取得率は2011年の1.9%から2022年には47.7%まで上昇しています。
管理職を対象とする集合研修で育休を取り上げたり、社内制度をまとめたガイドブックを展開するなどして育休取得の理解を促しています。
また、年3回の個人面談を活用し、早めに育児休業の取得意向の確認に努めていることが取得率の高さに表れています。

● 株式会社ジョイン

仕事と家庭のバランスを取りながら生き生きと働ける社会を目指すという企業理念のもと、役員が「イクボス」として従業員を大切にするメッセージを発信しつつ、社内報では体験談や社内制度等の最新情報を紹介し意識改革が行われています。
育児休業取得対象者に対しては個別に説明を行い、育休取得者の人事評価を加点する仕組みに見直すことで安心して育休を取得でき、結果として2022年の育児休業取得率は男女ともに100%となっています。

● 株式会社スタディスト

社員が家庭を大切にしながら働くことができる環境整備に取り組んでおり、経営トップや管理職が育児休業や育児目的の年休取得を率先することで、役員が子どもの行事で会議を欠席したり、社員が子どもの看病を優先したりするなどしやすい雰囲気となっています。
育児休業を取得した社員には、復職前に面談を実施し、復職後に希望する働き方やポジションについて会社とすり合せを行っており、社員からも好評を得ている取組です。

● 太洋テクノレックス株式会社

すべての役員・管理職が「仕事と家庭生活の両立を応援しながら、組織の目標達成に全力で取り組み、自らも輝くイクボスになる」ことを宣言し、上司は共に働く部下のワーク・ライフ・バランスを考え、キャリアと人生を応援しながら育児休業取得を促すことにより、気兼ねなく取得できる環境整備を行っています。

● 株式会社徳島大正銀行

2015年から、育児休業の対象者の上司に育児休業制度の周知を行っており、育休取得の抵抗感をなくすべく、2021年からは、取得時期のモデルを対象者に示す工夫をしています。
また、支店の営業成績評価に影響を与えることがないよう、育児休業取得者がいれば営業成績評価を加点する仕組みを導入しています。
更に、休業中の会社動向や法令改正の情報などを提供する研修も用意して、育休復帰をスムーズに行うサポートもしっかり取り組んでいます。

● 株式会社ネオビエント

同社は、社員からの声をきっかけに、男女問わず、仕事と育児を両立しやすい職場づくりに注力し、2021年、2022年の男性の育児休業取得率は共に100%となっています。
育児休業制度の社内周知を進め、多くの社員の理解や協力が得やすい環境ができています。
そのため、育児休業の対象者が自ら取得希望を申し出ることが多くなっています。
日頃から、会社が社員との対話を大切にし続けたことが今の風土を作り上げることに繋がりました。

● 三井住友海上火災保険株式会社

2021年6月から男性社員の1ヵ月以上の育休取得を促しています。
育休を取得する際には、職場の上司(ライン長)が「男性育休コミュニケーションシート」を作成し、部支店長及び人事部へ提出し、出生までに「職場ミーティング」を実施して育児休業取得者の意向を職場で共有したうえ、本人・上司・職場のそれぞれが準備すべき事項を確認しています。
2023年7月から、性別問わず育休取得者がいる職場の全員に育休職場応援手当を支給しており、男性の育休取得を後押ししています。

● LEGOLAND Japan合同会社

「社員の多様性を尊重し、柔軟な働き方を取り入れていく」という経営トップのメッセージを浸透させるために、管理職を対象としたeラーニングを実施しています。
その理念の下、積極的に社内制度の改定を行っており、2023年9月に社員の要望を受けて、育児・介護者のための「週休3日制度」を導入しています。

さいごに

事例集を見てみると、どの企業も共通して、経営トップや管理職・上司からの働きかけや、ワークライフバランスの取組など育休を取得しやすい雰囲気づくりを進めることからスタートし、育児休業の体験談や育休取得前後の説明会・研修を実施するサポート体制をつくることで、育休がとりやすい職場環境に改善していると感じました。
また、育休を取得する本人だけでなく、上司や同僚へのフォローもしっかり行うことや、育休取得がマイナスにならない工夫も多く見られ、男性の育休取得率を増やしていくには全社的に意識づくりをしてことが重要だといえるでしょう。

<参考文献>
・ 厚生労働省「育児・介護休業法改正のポイント」
・ 厚生労働省「令和4年度雇用均等基本調査(事業所調査)」
・ 一般社団法人日本経済団体連合会「仕事と育児との両立支援 事例集 -男性の家事・育児の促進に向けて-」
・ 一般社団法人日本経済団体連合会「男性の家事・育児に関するアンケート調査結果」

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