【おんなの目】白内障手術顛末3

 家の中を見回す、汚い。今まで模様と思っていたのが汚れだった。テーブルクロスの唐草模様には黒や茶色の汚れが絡まっている。薬缶の蓋には凹凸の汚れがこびりつき、透明な窓ガラスはスリガラスになっている。見ればお餅にカビが生えている。まあ、いいや。

 三日経つと違和感がおきた。見る風景が単純すぎると感じるようになった。すべて輪郭がきっちりとし、鮮やかな色もその中に納まってはみ出さない。花弁もくっきりとして儚さがない。道の砂利も陰影が際立ち、尖って足に突き刺さりそうだ。見える物すべてが優等生のように落ち度がない。真実を映しているのだろうが、滲んだ朧のあいまいな柔らかな世界がない。

 新しいレンズが入って嬉しいような嬉しくないような。慣れないからだろう。一週間もすれば慣れるはずだ。白内障の手術をした友人達は見えるようになって喜んでいる。 

 左目が残っている。今回手術したのは右目だけ。左目は元のままだ。右目を瞑り左目だけで見れば、今まで通りの朧の世界が広がる。情感を刺激する。過去に戻りたかったら現代医学のメスの入った右目を瞑る。本を読むときには両目ぱっちり開いて、現代医学の恩恵に感謝する。

 私はこの目に慣れて、もうしばらく生きていく。

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