【資産総額8,000万円】40代長女は蚊帳の外…「お義母さんと同居する」「それいいね!」夫・妹が主導する「嫌いな母との同居話」に戦慄

(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢母の健康に不安を感じている姉妹。長女の夫は楽観主義で、相続のメリットを見越し、「義理の母」との同居に乗り気です。煮え切らない態度の長女、長女の夫に賛同する二女には、思うところがあって…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

高齢母の相続対策…同居に乗り気なのは「長女の夫」

今回の相談者は、40代会社員の井上さんご夫婦です。悩みとなっているのは、奥さんの母親のことで、同居と相続について悩んでいるということでした。

奥さんは数年前に父親を亡くし、その後、母親はひとり暮らしとなりました。奥さんは妹さんと2人姉妹で、姉妹はいずれも母親とは同居していません。また、それぞれ家庭を築いており、自分たち家族が暮らす家を保有しています。

「私の母は健康ですが、それでも70代と高齢となり、年相応には弱ってきていると思います。また、母名義の自宅もありまして…」

奥さんの母親は、父親の相続時におよそ3,000万円の自宅と預貯金5,000万円を相続しています。

その説明のあと、井上さんのご主人が話を引き取りました。

「最近、近所に築浅の一戸建てが売り出されているのを見つけまして。そこをお義母さんに買ってもらって僕たち夫婦と同居したら、節税になるし、安心ではないかと思うのです。妻に相談しても考え込むばかりなので、お義母さんと優子ちゃん(義妹)に僕から話したところ、2人とも〈それ、いいね!〉と乗り気になったのですよ」

ご主人がいう「築浅の戸建て」が節税に有効となるかどうかは調査しないとわかりませんが、筆者が気になったのは、70代母の実子である奥さんの思いや考えが、あまり見えてこないことでした。

「奥さんは、どのようなご意見を持たれていますか?」

「お母さんと妹さんから、直接意見を聞きましたか?」

筆者からの問いかけに、奥さんはあいまいに答え、あとは黙ってうつむくのみです。

筆者は、次回打ち合わせ時には資産関連の資料を持参してほしいとお願いし、初回の打ち合わせを終了しました。

やっと自由になったのに、また苦労のタネを背負い込むなんて…

2回目の打ち合わせの日、筆者が提携先の税理士とともに井上さんご夫婦を待っていると、約束した時間に奥さんだけ現れました。

「ご夫婦で話し合って、いかがでしたか?」

「実は…」

奥さんに話を聞いたところ、実は姉妹とも母親との折り合いがよくなく「正直、好きではない」と本音を口にしました。妹さんは妹さんで、姉である井上さんが母親の面倒を見てくれるなら喜んで相続放棄する、とまでいっているそうなのです。

「そもそも折り合いが悪いから、姉妹2人とも早くに結婚して家を出たわけで…。いまさら同居したところで、とてもうまくいくとは思えません。主人にその話をしても〈お互い丸くなったじゃないか〉〈家族なんだから、大丈夫だよ〉〈節税も親孝行もできるよ〉と、話をまったく聞いてくれません…」

奥さんは、やっと子どもの手が離れて自由になったのに、また苦労のタネを背負い込むのはまっぴらだといいます。

「それとは別に、心配に思っていることがあるのです」

心配そうな様子の奥さんに、筆者は話を促しました。

「最近、母の様子がおかしいのです。認知症の兆しがあるのかなと…」

「母は施設に入れたい」「お姉ちゃんの考えどおりで」

奥さんは、同居するより介護施設へ入ってもらったほうが安心だと考えています。

「妹は、とにかく母とかかわりたくないみたいで、すべてを私に丸投げする気満々です。主人は面倒見がよくていい人なのですが、楽観視しすぎるところがありまして…」

筆者に事情を説明した奥さんはため息をつきました。

「前回の打ち合わせのあと、妹と電話しまして〈なにかあったらすぐ施設に入れたい〉と話をしました。妹も〈お姉ちゃんの考える通りでいい〉といってくれたので、主人のプランは絶対なしで、どうにか決着したいのです」

筆者は数日後、改めて打ち合わせを設定し、井上さんご夫婦に来ていただきました。

ご主人は当初と同じ気楽な様子で、「家族一緒なら…」と繰り返していましたが、筆者は奥さんに伺った話を踏まえ、奥さんからのいろいろな説明を補うかたちで、同居が必ずしも幸せな結果にならないこと、同居以外にも節税の選択肢があることなどを説明しました。

話し合いの結果、まずは介護施設への入居を視野に、動くことになりました。

相続税の節税のために、大切な人生をストレスにさらすのは…

相続時の節税に有効な特例である「小規模宅地等の特例」は、住宅(特定居住用宅地)の場合、330平方メートルを上限として、相続税の課税額が80%減免されます。ですが、相続人は「同居していた実績がある」「自分の家を持たない」等の一定の条件を満たす必要があります(国税庁:「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例〈小規模宅地等の特例〉」参照)。

奥さんの母親は確かに高齢ですが、いつ相続になるかはわかりません。すでに生活スタイルができている大人同士が同居すれば、ストレスの発生は必至です。

相続税の節税のために同居しても、相続税の減額と、何年続くかわからないストレスを引き換えにするのは、どう考えてもメリットが大きいとは言えないでしょう。

節税の選択肢は「同居」だけではない

いままでの生活のリズムを大切にしながら、快適な毎日を過ごすには、同居による節税ではなく、金融資産で不動産対策をおこない、貸付用の特例を適用する方法があります。また、母親にはケアつきの高齢者住宅に住み替えてもらい、自宅を賃貸住宅に建て替える方法もあります。

同席した税理士から説明を受けた井上さんご夫婦は、複数の選択肢があることを知り、安堵されたようでした。

「いくら節税したところで、大切な人生にストレスを抱えては意味がありませんので…」

筆者がそういうと、奥さんは深くうなずきました。

「母をぬか喜びさせて申し訳ないですが、お互いの幸せのためにも、施設に行くよう、妹と一緒に説得します」

相続対策も大切ですが、そのためにがまんを重ねて無理をするようなことになっては本末転倒です。また、対策するにしても、親族間で打ち合わせ、方向性をそろえなければ、いい結果へ着地させることはできないのです。

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

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