“生涯の趣味”として続けたい…日本の伝統文化「書道」に親しむことの魅力とは?【全国700名を指導する書家が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

最近の美文字ブームもあり、多くの人が「綺麗な字を書きたい」と考えていますが、上手に書くことは「書道」の楽しみの1つに過ぎません。自身が海外を訪れた際、あるいは海外から日本にやってきた外国人に対し、筆を使って漢字・平仮名・カタカナを書くことで日本文化を実感してもらえることが、書に親しむ醍醐味だといえます。本稿では、前田鎌利氏の著書『世界のビジネスエリートを唸らせる教養としての書道』(自由国民社)より一部を抜粋し、日本文化を伝えるツールとしての「書」について解説します。

日本人は皆、筆で文字が書けるのですか?

書道体験に来た外国人の方に、「日本人は皆、筆で文字を書くことができるのですか?」と聞かれたことがあります。

私は、「はい。みんな書けますよ」とお伝えしました。

そのとき、海外の方は非常に驚かれたのと同時に、日本が伝統文化教育を徹底していることにとても感心されました。

私たちは小中学校で国語の授業の一環として「書写」という名称で書を学びます。小学1〜2年生は鉛筆を使った「硬筆」を学びます。2Bや4Bといった比較的濃い鉛筆を用います。私も小学生の頃の課題で硬筆を練習しましたが、いつも右手の側面が書いた跡に擦れて鈍色に光っていたのを思い出します。

小学3年生になると、筆を使う「毛筆」の授業になります。つまり3年生は全ての生徒がマイ書道道具を購入して書を学ぶことになるのです。真新しい書道道具を使うのはワクワクしますよね。

さて、小学校から始まるこの「書写」ですが、歴史的にはいつ頃から学校で書を教わるようになったのでしょうか?

私たち一般市民が文字の読み書きを習うようになったのは、さかのぼること江戸時代。 当時、民間の教育機関としてお寺などで行われていた「寺子屋」で読み・書き・算盤を学ぶことから始まります。

寺子屋では「テナラヒ(手習い)」として書を学んでいましたが、その後1872年(明治5年)の学制(日本最初の近代的学校制度を定めた法令)では「習字」という名称に変わります。

そして、太平洋戦争後の1948年(昭和23年)にGHQによって、書は日本的なものであるということで一時廃止となってしまいますが、1951年(昭和26年)にはまた学校で学べるようになりました。

現在の「書写」という名称は1958年(昭和33年)の学習指導要領から使われ始めます。

高校になると芸術科の授業として美術・音楽・書道から選択することができます。高校では「書写」ではなく「書道」という名称になります。「書写」が文字を正しく整えて書けるようになることを目的としているのに対して、「書道」は芸術教育として設定されています。

「書写」と「書道」は大きく異なるのです。

伝統文化である「書」をいかに楽しんで日常に取り入れるか

話は変わって、私の教室に通う生徒に「書道は久しぶりですか?」と聞くと、「子どもの頃に学校の授業で習ったけれど、それっきりなのであまり上手に書けません」と答えるのが大半です。

この「上手に書けない」というフレーズが、実は書道を限定的な捉え方にしてしまっているのです。

複数人の生徒にアンケートをとったところ(複数回答可)、昨今の美文字ブームなどもあり、「綺麗な字が書けるようになりたい」と約6割が答えました。それと同じくらいの割合で「筆を持って落ち着いた時間が持ちたい」という解答が約5割ありました。

ところで「綺麗に書けるようになる」を別のいい方に置き換えると、「先生のお手本と似せて書けるようになる」ことを指している場合が大半です。ですが、お手本をトレースしただけでは、書道の魅力のごく一部しか味わえていないのです。

またこの他にも、

「生涯の趣味として書道をずっと続けたい」……約8割
「資格をとって子どもたちに書を教えたい」……約3割
「先生のように自由に作品が書けるようになりたい」……約2割

という結果となりました。上手に書くことは書の一つの側面です。

ぜひ、長く続けることでゆっくりとじっくりと書を楽しんでいただきたい。そして未来を担う方々に書の楽しみを伝えてもらいたい。私はそう思っています。

書には3,000年の歴史があります。そして現代では非常に多種多様な書のスタイルがあります。

伝統文化である書をいかに楽しんで日常に取り入れていただけるか。

グローバル化が進む現代において、海外に行ったときや海外からお見えになられた外国人の方と接した際に、日本文化の素晴らしさをどう伝えるのか。

私たち日本人の誰もが一度は手にしたことがある筆を使って、漢字やひらがな、カタカナを書くことで日本文化を実感してもらうことは、子どもでも、大人でも、書というツールを通して誰にでも行うことができるのです。この本を読んでいただいているあなた自身にも。

もう一度いいます。

「日本人は皆、書が書けますよ」

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