駅徒歩10分の都内3LDK物件に住む50代夫婦「退職金でも入ったら買い替えるか」…高齢化が進む“分譲マンション住人”の実態【専門家が紹介】

(※写真はイメージです/PIXTA)

国土交通省「マンション総合調査」によると、日本の約8人に1人がマンションに居住しているそうです。また分譲マンションの世帯主は60代が27%ともっとも多く、50代(24%)、70代(19%)と続きます。分譲マンション住人には、それぞれのライフステージに応じたさまざまな悩みがあるようで……『60歳からのマンション学』(講談社)より、マンションの買い替えを検討する50代夫婦の事例をみていきます。

【物件概要と登場人物の紹介】

物件概要……3LDK86.42㎡/12階建て7階/築22年45戸/最寄り駅徒歩10分
資金概要……住宅ローン返済中
家族構成……夫58歳、妻56歳の二人暮らし、別居の子供2人(長男28歳、長女26歳)

夫婦2人では広すぎるマンション…買い替えを検討

都内のマンションに住む加藤圭司さん(仮名)は、大学卒業後から大手化学メーカーに勤務している。

圭司さんと2歳年下の陽子さんは職場で知り合った。陽子さんは短大卒業後に就職したため、圭司さんとは同期入社、研修やイベントなどで過ごす時間が多く自然と交際にいたった。順調な社内恋愛の末、圭司さん27歳、陽子さん25歳の時に結婚をした。

結婚後、圭司さんは社員(独身)寮から、陽子さんは実家から、社宅へと引っ越しをした。結婚後もしばらくは共働きをしていたが、陽子さんは長男の妊娠を機に退職。その後、長女にも恵まれた。

社宅生活は思いのほか快適だったが、4人では狭いと感じ長男の小学校入学をきっかけにいま住んでいる3LDKのマンションを新築で購入した。約10年間の社宅生活で浮いた家賃相当を貯金に回せたため、1,000万円近い頭金を購入時にあてることができた。新築で購入したマンションは、駅から少し遠いことを除けば快適そのものだった。

現在、長男の翔太さんは28歳、大学入学時に実家マンションを出てから、アパートでずっと一人暮らしをしている。当初は翔太さんに一人暮らしはできないんじゃないか、すぐに戻ってくるのではと思っていたが、気が付けばもう10年。学生生活から就職活動を経て、社会人6年目だ。親の目から見ても頑張っているなと感心してしまう。

長女の美咲さんは、大学も自宅から通学し、卒業後もしばらくは実家から通勤していたが、数年前に会社近くの賃貸マンションへと引っ越しした。何だかんだと快適に一人暮らしを満喫しているようだ。

というわけで、数年前より圭司さんと陽子さん夫婦は、3LDKで80㎡以上ある部屋に二人暮らし。正直なところ子供たちがいないので広すぎるし、陽子さんは掃除が面倒だという。

購入当時は、立地よりも家族が暮らせる広さと、どうせ買うならと新築にこだわって購入を決めた。しかし今では、もう少し狭くてもいいから駅近のマンションがいいなというのが夫婦の共通認識である。「退職金でも入ったら買い替えるか」と世間話程度には話題にあがることがある。

管理会社からのお願いで、はじめて「管理組合役員」に就任

そんな時、管理会社から次期役員の就任をお願いする連絡があった。

このマンションでは、階数などフロアごとのブロックに分けて、輪番制で役員を選出している。じつは築22年目にしてはじめての役員。圭司さんの本音としては、やりたくないし、面倒だなという思いが強い。しかし、輪番制なのと自宅マンションのことなので致し方ないであろう。

まもなく、通常総会の案内が届いた。議案書という書類をめくると、最後に「役員選任の件」という議題があり、部屋番号と「加藤圭司」の名が記してあった。総会では無事に承認され、今後2年間、管理組合の役員を務めることになった。

総会終了後の役職決定で、圭司さんは理事長をすすめられたが、難色を示していたところ、別の男性が了承して、圭司さんは副理事長という役職におさまった。

新旧役員の引き継ぎをしている際、管理会社のフロント担当者から、「これから2回目の大規模修繕工事の検討を開始するので、今期の皆さまは大変かと思います。また戸数は多くないのですが、管理費等を長期滞納されている住戸がございます。詳細は次回の理事会時にご説明させていただきます」との説明があった。

総会が開催されていたマンション近くの公民館から自宅に戻る途中、圭司さんは役員が務まるのか不安になった。それは長期滞納者がいることを知らなかったこと、また階数は違うが翔太さんの同級生で子供を通して交流がある、佐藤さん宅が1回目の大規模修繕工事の検討時に理事長になり、「大規模修繕の検討は本当に大変」と嘆いていたのを思い出したからである。

駅近マンションへの買い替え計画の件だけど…

自宅に帰り、陽子さんにその話をしたところ、陽子さんからは「あなたの考え過ぎじゃないの」と明るく言われてしまった。

「それより、急いでるわけじゃないけど、駅近マンションへの買い替え計画だけど」と話題を振られた。どうやら陽子さんは、売却や買い替えするにはどうしたらいいのかわからず、ネットを見ていたら、「不動産一括査定サイト」というのを見つけたらしく、お金もかからないからと、すでに申し込みもしたそうだ。このマンションのいまの査定額がわかるという。

不動産一括査定サイトを活用→2社に訪問査定を依頼

その直後から数日間、複数の不動産会社からメールや電話で連絡が入ってきた。陽子さんが対応したが、彼女によると、不動産会社によって査定額がバラバラで500万円以上も差があるという。

不動産会社からは、いまの査定額は、実際の物件を見ずに、概要や取引データをもとに簡易的に査定した「机上査定」なので、実際に部屋を訪問しても大丈夫なら、より詳細な査定額を出せる、と言われたという。

こういうのを「訪問査定」といい、概要や取引データのほか、物件の使用状況や日当たり、周辺環境、敷地の形状、修繕履歴、管理状況、登記簿情報などを加味して査定価格を出すという。

陽子さんが対応した10社あまりの不動産会社から、担当者の感じが良かった2社に訪問査定してもらうことにした。なかには交通費程度のお金がかかる会社もあるが、この2社はお金もかからないという。

管理組合の第1回理事会で発覚した「長期滞納問題」

そうこうしているうちに、管理組合では新役員による第1回理事会が開催された。管理会社のフロント担当者から、管理組合会計の収支報告のなかで長期滞納について次の説明がされた。

「当管理組合には短期滞納者と長期滞納者がおり、一般的に管理費等は毎月決められた日に金融機関の口座から引き落としさせていただいていますが、どうしても給料日とあわずに毎月数日程度遅れてお振り込みされる住戸があります。あとはうっかりしていて残高不足になっていた住戸などは、滞納者とはいえ短期ですのであまり心配されなくてもいいかと思います。1ヵ月もしないうちに回収され解決になります。

問題は3ヵ月を超える住戸です。滞納期間が長くなるほど滞納金額も増えて、払うほうも払いたくても払えず悪循環に陥りやすいです。しかも、管理費等には時効があり、通常、管理費等の発生から5年間です。幸い5年を超えるような住戸はないのですが、3ヵ月を超える住戸、5ヵ月を超える住戸と14ヵ月の住戸があります」

14ヵ月を超える住戸は、管理会社による管理委託契約で定められた督促業務(電話、訪問、督促状)のあと内容証明郵便を発送し、次に管理組合として支払督促の手続きをし、相手から異議が出たため、裁判中だという。

管理組合と管理会社で締結している管理委託契約では、滞納から6ヵ月間の督促は管理会社の業務となっており、3ヵ月と5ヵ月の住戸には、引き続き管理会社が督促をするという。

「5ヵ月を超える住戸には普通郵便による督促状の送付、電話連絡などを継続的に行っているのですが、連絡すらとれず、らちが明かない状況です。内容証明を送付できればと思いますがいかがでしょうか?」との提案があった。

他の理事も送ったほうが良いということになり、費用はかかるものの内容証明郵便を送ることになった。

また2回目の大規模修繕についても説明があった。

「最近では15年周期などへ見直しも見られますが、一般的には12年周期で大規模修繕を行います。当マンションも10年ほど前の築12年の時に、屋上等の防水、外壁、鉄部塗装を行いました。計画ではあと2年ほどで2回目の大規模修繕の予定ですが、マンションの傷み具合によっては工事時期を先に延ばすこともあります。費用等はかかりませんので、まずは弊社の専門部署に建物の傷み具合を外観目視で行う簡易調査を依頼してもいいでしょうか?」

理事一同はそれを了承。

長期滞納問題に大規模修繕……スムーズな買い替えを妨げかねない“思わぬ壁”を前に、圭司さんは重たい足取りで理事会の会場を後にした。

日下部 理絵
マンショントレンド評論家
オフィス・日下部 代表

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