「値上げばかりで生活が大変」…ネガティブな報道が目立つ“物価高”、投資家にとっては〈追い風〉といえるワケ【株式投資のプロが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

ここ数年の日本でみられる物価上昇についてネガティブな論調で報じるメディアが目立ちますが、上昇のペースが緩やかなものである限り、本来物価上昇は経済活動・株式市場に良い影響を及ぼすものです。本記事では、株式会社ソーシャルインベストメントの川合一啓氏が、物価高の「本質」と株式投資への影響について解説します。

緩やかな物価上昇は経済学的に望ましい事象

最近は連日「物価高」に関する報道がなされています。スーパーやコンビニでの買い物をしていても、半年前、1年前と比べて物価が上昇していることを実感する人も多いのではないでしょうか。

そもそも物価がなぜ上がったり下がったりするのかというと、「製品やサービスの供給量」と「お金の供給量」のバランスが常に変動するためです。

「製品やサービスの供給量」に対して「お金の供給量」が少なければ、物価は下がります。反対に「製品やサービスの供給量」に対して「お金の供給量」が多ければ、物価は上がります。仮に日本全国で供給されているすべての製品やサービスの量が変わらないとすれば、日本全国で500兆円のお金が供給されている場合よりも、1,000兆円のお金が供給されている場合のほうが、同じ製品やサービスを買うのにも、2倍のお金を使えるため物価は上がります。

よって現在日本で進行している物価上昇の原因を考えると、「製品やサービスの供給量」が少ないか、「お金の供給量」が多いかのどちらか、あるいは両方だといえます。新型コロナウイルスやロシア・ウクライナ戦争などの影響で「製品やサービスの供給量」が減ったのか、またはコロナ禍への政府の対策により「お金の供給量」が増えたのかもしれません。両方が重なっていることも考えられます。

ところで、緩やかな物価上昇は、実は経済学的には望ましく、自然なことだといわれています。長期的にみると、世界は「物価上昇→収入増→投資・消費増」を繰り返して成長してきました。100年前、50年前と比べれば物価も収入も上がり、過去の借金を返済しながら、人間は経済活動を拡大させてきたのです。

ただし、急速な物価上昇は社会を混乱させますし、物価上昇が緩やかであっても収入が増えない人は生活に困窮する可能性がありますので、政府・中央銀行等による一定の対策は必要となるでしょう。

物価高のときは株価も上がりやすいが…

そして物価上昇は、株式投資家にとっては追い風を吹かせる存在だといえます。物価上昇期には、現金の価値が下がるためです。

同じ1万円を持っていても、物価が上昇すればそれ以前と比べて買える商品が少なくなりますから、実質的には現金の価値が減少していることになります。よって、現金を株式などの金融商品に転換しておくことが、自分の資産を守ることにつながります。多くの人がそのように行動するため、株価も上がりやすくなるのです。

しかし当然ながら、どんな株を買っても儲かるという訳ではありません。

物価とともに株価も上昇しているからと何も考えずに異常に割高な株を買ってしまい、その後に梯子を外されて大損をすることもあり得ますので、注意が必要です。マクロ経済がどんな状況にあろうとも個別株の動向を注意深く観察し、適正な売買価格で取引することが重要です。

「金利」と株式投資の関係性

また、金利にも注意を向ける必要があります。

低金利の局面では預金や債券投資の旨味が小さくなりますので、株式に資金が流入し、株価が上昇しやすい環境になります。一方、金利が上がれば預金や債券投資への旨味が大きくなりますので、株から預金・債券に資金が流入し、株価は下落しやすくなります。

また、過度な物価高のときは、中央銀行が金利を上げて「お金の供給量」を減らそうとする傾向がありますので、その動向にも注目すべきでしょう。

なお、これらはあくまで「傾向」であって、必ずその通りになる訳ではないということを心に留めておきましょう。現実の相場は、各投資家のマインドなどさまざまな要因によって複雑怪奇な動きをみせるものです。

物価上昇は本来望ましいことなのに…メディアはなぜ「物価高で大変」と報じるのか

ところで、緩やかな物価上昇は望ましく自然なことであるはずなのに、なぜ「値上げばかりで生活が大変」というようなネガティブな報道が目立つのでしょうか。

落ち着いて考えれば、近年の日本が「急速な物価高で社会混乱を引き起こしている」ようにはみえず、一定の対策は必要としつつも、特別に悪いことが起きている訳ではなさそうです。以前は「デフレ不況だ」「日本は長年物価が上がらず『安い国』になってしまった」などと報じられていたのですから、そうした状況を脱したサインともいえる物価上昇はむしろ良いことでさえあるはずです。

「物価高」についてネガティブな論調が目立つのは、「物価高で大変」と報じたほうが人の興味を引けるという、メディアの戦略に過ぎないのかもしれません。「緩やかに物価が上昇するのは自然なことで、いまの指標をみればそう悪い状況ではない。一定の対策をしていることが条件だが、この状況が続くのは望ましい」と報じても、視聴者を集められないのでしょう。

ニュースを報じる人は、注目を集めなければ仕事が成り立たないので、仕方のないことです。しかし、株式投資をする人はそうしたニュースも冷静に眺めて、自分なりに分析する必要があるでしょう。

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