もはやまちづくり? 横浜の「営業しない」工務店 社長「まちに投資すれば報われる」

日替わりでキッチンカーが出店する(松栄建設提供)

 「営業しない」「施工は年10棟まで」。工務店にあるまじき社是を堂々と掲げるのが、東急東横線の妙蓮寺駅近くが拠点の松栄建設(横浜市港北区)。生業(なりわい)は建築にとどまらない。キッチンカーを誘致したり、地域メディアを運営したり。もはや、妙蓮寺のまちづくりだ。

 9月23日は「不動産の日」。取引が盛んな9月と、「ふ(2)どう(10)さん(3)」の語呂合わせが由来。業界団体が決めた。

 酒井洋輔社長(46)の誕生日だ。業界の申し子とおぼしいが、三代目として家業を継いだのは6年前。前職はCGデザイナーだった。押し売りや殿様商売の先入観から業界を敬遠していたが、母親の看病で帰参した。「運命には逆らえませんね」

 「営業しない」のは、その気質がゆえ。広告は打たず、モデルハウスもない。最終的に販売価格に転嫁され、買い手負担になるからだ。それでも口コミで注文は集まる。

 「施工は年10棟まで」は「車で30分圏内」という立地制約も加わる。おおむね大倉山─東白楽間が対象だ。「それ以上になると、丁寧な家造りができない」と酒井社長。施工期間は一般の倍といい、近場なら「アフターケアにも責任を持てる」。

 こだわりで原価率は一般より高く、失注もしばしば。薄利や採算性をいとわない信条は、本業にとどまらない。例えば、キッチンカーの誘致。近辺は飲食店が限られ、3年前に本社近くに駐車区画を自社負担で整備した。「妙蓮寺マーケット」と名付け、住民は日替わりでグルメを楽しめるようになった。

 昔なじみの書店が経営危機に陥った5年前、2階を共用オフィスとして貸し出せるよう改装し、収入源をつくった。動機は単純。「本屋があるまちって、いいじゃないですか」。松栄側に実入りはない。

 愛郷が高じ、オウンドメディア「菊名池古民家放送局」も立ち上げた。本業の傍ら3人で運営し、ゆかりの人物や店舗を紹介する。やはり、広告収入はゼロ。「届けたい情報を厳選して発信したいから」。日中のにぎわいを呼び込もうと、最近は住宅を改装して会員制の共用キッチン兼オフィスもつくった。

 「まちに投資すれば、巡り巡って本業も報われる」と酒井社長は信じる。一巡して、業界の申し子かもしれない。

 ◆松栄建設 「さかえや不動産」として1960年創業、65年に改組。資本金1千万円。横浜市港北区菊名1の12の14。従業員11人。

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