【『不適切にもほどがある!』感想3話】「適切」にラインはあるか 笑いであぶりだす答え

SNSを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。

2024年1月スタートのテレビドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)の見どころを連載していきます。

かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。

遠い遠い昭和の時代、ドラマもバラエティも歌番組も、そこに出ている人たちは人ではあるけれど、なんだか生身の人ではないように感じていた。

それは私自身が幼く、人生経験が希薄だというのもあったけれど、同時にその頃はテレビに出ている人たちが、本当はどんな人でどんな生活をしているかを知る機会は今より極めて少なかった。

そしてあの頃、随一の巨大なメディアだったテレビに出ている人たちは、画面に映る自分達の『役割』とイメージを良くも悪くも堅固に守っていたのである。

昭和を生きるゴリゴリの体育教師・小川市郎(阿部サダヲ)。妻と死別し、高校生の娘・純子(河合優実)と昭和の父娘らしく衝突したりお互いを思いあったりしながら暮らしている。

そんな小川が、偶然令和にタイムスリップしてしまう。

昭和らしいコンプライアンスも配慮もない言動で騒動を起こしながらも、小川の言葉は令和の複雑なトラブルを解きほぐしていく。

一方、小川とは逆に令和から昭和にタイムトラベルしてきた親子がいた。

社会学者の向坂サカエ(吉田羊)と、その息子のキヨシ(坂元愛登)である。

フィールドワークとしてやってきたサカエだが、純子に一目惚れしたキヨシの熱望で昭和に滞在することになる。

昭和と令和を行き来する小川と、昭和に滞在している向坂親子。それぞれの価値観を通した過去と未来はどんなふうに見えるか。

爆笑とときめきと、時々涙と、そしてなぜか歌とダンスでそれを描き出す『不適切にもほどがある!』(TBS系金曜22時)。

3話で描かれるのは、セクシュアルハラスメントに明確な判断基準はあるのかという、極めて、デリケートな内容である。それは現代の火薬庫である。

このエピソードにあたり配役されたのは、善人悪人どんな人物にでも変化する万能の名優・山本耕史。そして『いると場がまとまる』スパイスのようなバイプレーヤー八嶋智人。

さらに、ヤバいキャラも不思議な可愛げで『あり』に見せてしまう異能のコメディアン・ロバートの秋山竜次。

くせの強さがロイヤルストレートフラッシュのような組み合わせで、脚本含め制作はこのデリケートな回を組み上げた。

昭和のエロ全開な深夜番組と、令和の配慮でがんじがらめの情報番組を交互に配し、見る側の『不謹慎』を揺さぶってくる。

もちろん、エロ全開の昭和の深夜番組を全肯定するわけでもないし(自分が十代で見ていた頃にも居心地の悪さはあった)、どちらもデフォルメされた描写だと理解しながらも、今のバラエティ番組がなぜ没個性になるのか、今のテレビの萎縮具合が痛感できるエピソードだった。

今回興味深く感じたのは、サカエが深夜番組の収録でぽつりと呟いたこの言葉である。

「偉いよね、あの子たち。なぜ自分がここに呼ばれ、どう振る舞うべきかちゃんと心得てる。求められる役目を、誇りをもって果たしてる」

サカエはフェミニズムの研究者である。だが昭和の露骨で野蛮な性差別に呆れはするものの、その価値観でリアルタイムに生きている昭和の人々を全否定はしない。

性的な衝動を想起させる、昭和のバラエティとしての仕掛けを『役割』と見抜きつつ、同時にサカエは女性に対する価値観に混乱を起こす小川に「どんな女性も娘だと思って」と助言を送る。

「娘に対するように」というエピソードとしての解答は、もちろん全ての人にアドバイスとして届くわけではないし、女性としては「今まだそこ?」と感じる向きもあるだろう。

だが、この言葉は脚本の宮藤官九郎が初歩の初歩として、なるべく多くの人に、とりわけ小川市郎のように戸惑う人に初手として届くように選んだ言葉なのだと思う。

エンターテインメントを見る際には、それを担い、演じている人々の役割を全うしている姿を没入して楽しむ。

同時に、そうやって演じている人々もまた、その役割の外では誰かの家族であり、誰かに大切に思われている、人として『個の存在』であることを認識する。

一見矛盾しているように見えるが、その二つのベクトルが我々にとって令和のテレビ視聴の鍵となるのではないかと、もはや心待ちにしつつあるミュージカルを見ながら思うわけなのだった。

さて、セクシュアルハラスメントのガイドラインという、価値観は千差万別、コメディドラマとして難エピソードを描ききったかと思えば、次話ではドラマの濡れ場で問題発生らしい。

まだいくかクドカン。

そして出演の情報のみ発表されて、未だ何の役か出てこない古田新太。

まだ全く油断は出来ないのである。

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[文・構成/grape編集部]

かな

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