『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』アニマトロニクスで再現した機械仕掛けのマスコットたち

『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』あらすじ

過去の行方不明となった弟の未解決事件に未だ苦悩しながら、ともに暮らす妹アビーのため必死に仕事を探していたマイクは、ある日、夜間警備の依頼を引き受ける。かつては機械仕掛けのマスコットたちが人気を呼んだレストラン<フレディ・ファズベアーズ・ピザ>は、80年代に子供たちが謎の失踪を遂げ、現在は廃墟と化していた。マイクはここで夜を過ごすうち、説明のつかない出来事に遭遇し、この夜勤がそう簡単に終わらない事に気づく──。

ゲームの映画化、その難しさ


深夜のピザレストランの中を動き回る、不気味なマスコットたち……。そんな不気味な集団の襲撃から身を守るという、アメリカのホラーゲームシリーズが、「Five Nights at Freddy's」だ。2014年に発表された第1作が爆発的な人気を獲得し、翌年には実写映画化の企画が進められたほど、大きな支持を獲得している。

その後、映画化の話はすぐに進まず、原作者によって当初の脚本が却下されたり、製作元が「ブラムハウス・プロダクションズ」に変わって仕切り直されるなどの紆余曲折があった。しかし、企画開始から8年ほどの歳月を経て、ついに映画『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』として、公開されるはこびとなったのだ。

このゲームには数々の続編、派生作品があるが、第1作の内容はシンプルだ。舞台となるのは、子どもに人気のピザレストランの警備室。深夜に警備員として勤務している主人公をプレイヤーが操作し、機械仕掛けのマスコット人形の動きを、複数の警備カメラで逐一チェックしながら、勤務が終わる早朝まで身を守り生存を目指す。5日間の勤務の間に、マスコットたちの動きが活発になってくるのが恐ろしい。

『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』© 2023 Universal Studios. All Rights Reserved.

単純なシステムながら、反射神経や先読み、限りある電力を節約するマネージメント力などが要求されるゲーム性も優れていたが、大勢の人々に愛されているはずのマスコットたちが潜在的に持っている、ある種の“不気味さ”を掘り起こしたところが、このゲームが支持された理由だろう。

しかしこのゲームを、実際に映画の脚本にしようとすると、困難な問題に突き当たるはずだ。それは、“なぜ主人公は5日間も、こんな恐ろしい場所で勤務を続けるのか”という点である。ゲーム内では、マスコットたちの深夜の徘徊について、戦慄の事実が明かされていくというストーリーが用意されてはいるのだが、一方で死の危険が濃厚な職場に戻って来て、何日も勤務する主人公の選択には、疑問を覚えるところがあるのだ。

そういった強引さもまた、ゲーム特有の魅力となっている部分もある。だが、これが長編映画となってくると、惨劇の舞台であるピザレストランに何度も足を運ぶ主人公には、強い動機が必要となってくる。なぜなら通常の娯楽映画において、観客を登場人物に感情移入させることが非常に重要であるからだ。そして、登場人物に感情移入させるためには、動機に不可解な部分があってはならない。

ゲームのスケールを踏襲


最初の企画において書かれた、脚本家によるストーリー展開では、原作ゲームの設定を引き継ぎながらも、より豪華なエンターテイメントらしく、脅威のスケールが飛躍していく仕掛けが用意されていたという。しかし、ゲームの原作者スコット・カーソンは、あくまでも映画を原作ゲームのファンが喜ぶようなものにしたかったため、その脚本を却下してゲームの設定を逸脱しない内容で、あらためて草稿を書いたのだという。

「ブラムハウス・プロダクションズ」での製作においては、そんな原作者の定めた基本線を守りつつ、長編映画として成立させるべく脚本に肉付けをしていった。それを担当したのが、本作の監督エマ・タミと、脚本家のセス・カデバックだった。

この脚本では、主人公が少年時代の事件から立ち直れず、精神的な問題を抱えながら年の離れた妹を養わなくてはならない青年に設定された。そして、妹の養育権をめぐる裁判や、生活費などの問題に迫られ、ピザレストランの深夜警備を引き受けるという展開が用意されている。

『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』© 2023 Universal Studios. All Rights Reserved.

この青年マイク(ジョシュ・ハッチャーソン)には、警備の仕事を続けることによって妹アビー(パイパー・ルビオ)との生活を守るという目的がある。そして、彼が心の奥で取り戻すことを求めていた、“家族の団欒”を勝ち取ろうといった、観客が共感できるだけのゴールが設定されることとなった。そこには、恵まれた環境が与えられなかった若者が、社会に出ることで直面する諸問題や、仕事をして生活を成り立たせることへの重圧も投影されている。

マスコットから連日襲われるといったゲームの内容からはややズレたものの、あくまでピザレストランを中心に、物語の規模をむやみに広げることなく、登場人物の描写の部分で奥行きと膨らみを持たせた脚本は、原作者の気に入るところとなった。その意味で本作は、比較的こぢんまりとした印象にはなったものの、ゲームのスケールを踏襲したことで、好感が持てる内容となったのだ。もちろんこれは、一つの選択の結果であって、原作を持つ映画作品が選ぶべき唯一の正解、というわけではないことにも留意しておきたい。

CGではなくアニマトロニクスで


さて、本作の製作上の鍵となっていたのが、不気味なマスコットたちの再現と、その動きにあったことは言うまでもない。ゲームと同じようにCGで表現することも可能だっただろうが、本作ではあえて、より古い技術である「アニマトロニクス(ロボットを駆使して人形を動かす)」にこだわり、ピザレストランの中でアニマトロニクスのショーを見せるなど、設定そのものの仕組みを実際に表現しているのである。

しかも、その仕事を担当したのは、操り人形やアニマトロニクスの専門集団といえる、「ジム・ヘンソン・クリーチャーショップ」だという。さまざまな映画作品に現在も職人技を提供している、この工房との協働によって、ゲームの雰囲気を完全に再現しながら、質感やリアリティある動き、そして、その奥に魂が感じられるような佇まいが完成したといえる。

『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』© 2023 Universal Studios. All Rights Reserved.

前述したように、もともとの原作ゲームの人気は、愛らしいはずの人形が深夜ひそかに動き出すといった、キュートさと気持ち悪さとの融合によって生み出された、より異様な世界の提示だった。それは例えば、着ぐるみを着たキャラクターの中に入っている人間の目が、ふとした瞬間見えてしまったときの、ぞくっとした感覚に近いものがあるかもしれない。

その意味でいえば、人形を作り出し操演するプロフェッショナルといえるだけでなく、多くの映像作品で実際に不気味な印象をも与えることが少なくなかった「ジム・ヘンソン・クリーチャーショップ」が、本作の“肝”となる部分を引き受けたのは、作品にとって非常に幸運なことだったといえるのではないだろうか。

ちなみに日本でも、原作ゲーム『Five Nights at Freddy's』は、PC(Steam)かスマートフォンでプレイできる。ゲームファンが今回映画館に足を運んだのと同様、映画の方で主人公に感情移入できた映画ファンもまた、逆にゲームの方に手を伸ばしてみるというのも、面白いかもしれない。

文:小野寺系

映画仙人を目指し、さすらいながらWEBメディアや雑誌などで執筆する映画評論家。いろいろな角度から、映画の“深い”内容を分かりやすく伝えていきます。

Twitter:@kmovie

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作品情報を見る

『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』

2024年2月9日(金)より全国公開中

配給:東宝東和

© 2023 Universal Studios. All Rights Reserved.

ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ

© 太陽企画株式会社