「クリープ現象」とは? 仕組みや活用方法、注意点について解説!

AT車(オートマチック車)に乗っていると、ブレーキペダルから足を離し、アクセルペダルを踏んでいない状態でも、車がゆっくりと前進する現象が発生します。それが「クリープ現象」です。クリープ現象は、うまく活用することで運転時のさまざまな場面で役立てることができますが、意図せず発動してしまうと思わぬ事故に繋がってしまうリスクがあります。この記事では、クリープ現象の発生する仕組みや上手な活用方法、使用する際の注意点などについて解説します。しっかりと理解することで、発生しうる事故を未然に防ぎ、安全でエコな運転ができるようになるため、ぜひ参考にしてください。

クリープ現象とは?

エンジンがかかり、シフトレバーがN(ニュートラル)やP(パーキング)以外に入っている状態で、サイドブレーキやブレーキペダルを解除すると、アクセルを踏まなくても車が少しずつ進む現象のことを言います。

「クリープ」とは、英語の「creeping」に由来し、「のろのろと進む」という意味があります。ただし、一部の車種や電気自動車、ハイブリッド車などではクリープ現象が発生しない場合もあります。

以降では、クリープ現象の仕組みや速度、クリープ現象の起こらない車などについて詳細に解説していきます。

クリープ現象の仕組み

クリープ現象の仕組みは、主にAT車の機構に起因しています。AT車では、エンジンの動力をタイヤに伝える際に「トルクコンバータ」と呼ばれる装置を使用します。

このトルクコンバータは、オイルを介して動力を伝達するため、エンジンがかかると、タイヤに向かう動力がゆっくりとトルクコンバータを経由して伝わります。このため、アクセルを踏まなくても車が少しずつ前進するクリープ現象が発生します。

一方、MT車(マニュアル車)ではエンジンの動力伝達に「クラッチ」と呼ばれる装置を使用します。

クラッチは物理的に動力を遮断できるため、クリープ現象は生じません。AT車と異なり、クラッチは動力の伝達をオイルではなく、物理的な接続と切断によって制御します。

このため、MT車はエンジンがかかっている場合でもアクセルを踏まなければ車は動きません。

MT車のシフトノブ, MT車のペダル配置(一番左のペダルがクラッチ)
MT車のシフトノブ, MT車のペダル配置(一番左のペダルがクラッチ)

クリープ現象はおおよそ時速5〜10km程度

クリープ現象の速度は、車種によって異なりますが、おおよそ時速5km〜10km程度です。ただし、エアコン作動時などエンジン回転数が上がっている状態では、これよりも速度が上がる可能性があるため、注意が必要です。

クリープ現象を活用すれば、ごく低速での走行が可能です。

例えば、発進時に利用して燃費を抑えたり、駐車時にブレーキペダルに足を置くことで踏み間違いを防いだり、渋滞中に急発進を避けたりできます。

ただし、クリープ現象を使用する際は、事故を防ぐためにブレーキペダルの上に足を置いて、必要に応じてすぐに停止できるように心がけましょう。上手にクリープ現象を活かすことで、さまざまな状況でスムーズな運転が可能となります。

クリープ現象が起こらない車もある

クリープ現象は、AT車がトルクコンバーターを使用している車種に特有の現象です。しかし、MT車ではトルクコンバーターが使用されていないため、クリープ現象は発生しません。

また、EV車(電気自動車)もクリープ現象は発生しません。EV車に搭載されているモーターの場合、エンジンのようにアイドリングさせる必要がないため、停車時には出力をゼロにできるからです。

ほかにも、DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション=2つのクラッチが設定されたAT)車や、CVT(コンティニュアス・バリアブル・トランスミッション=無段変速式のAT)車でも原理的にはクリープ現象は発生しません。

ただし、近年のCVT車はトルクコンバーターが組み合わせられている場合があり、EV車やDCT車でもクリープ現象風の動きを模倣する機能を搭載している場合もあります。

CVTを採用しているホンダ N-BOX, DCTを採用している日産 GT-R
CVTを採用しているホンダ N-BOX, DCTを採用している日産 GT-R

MT車の運転者にとってはアクセルを踏んで発進することが当然ですが、AT車に慣れたドライバーにとっては、ブレーキを離してもクリープ現象で車が進まないと違和感を感じることがあるでしょう。

そこで、一部のEV車では、モーターを低回転で動かすことでクリープ現象を再現し、DCT車では半クラッチ状態にすることで再現させるなど、AT車の運転に慣れた人にとっての扱いやすさをさまざまなタイプの車で向上させています。

クリープ現象のメリット・デメリット

クリープ現象はAT車の原理上、どうしても発生するものではありますが、それが便利な機能だったため、最近の車にはその現象を模擬した機能が搭載されているという流れになっています。

ここからは、クリープ現象のメリットについて解説します。

クリープ現象は便利な機能ですが、デメリットも持ち合わせています。

メリット

クリープ現象にはさまざまなメリットが存在します。

メリットの一つ目は「ブレーキペダルの踏み込みだけで駆動力の断続をスムーズに調整できる」という点です。

この特性は、渋滞時や車庫入れなど低速での走行時に非常に有効であり、クリープ現象を利用することで運転者は操作に集中しやすくなります。

また、ブレーキを離した瞬間から駆動力が徐々に伝わるため、「滑らかな発進が可能」で、坂道発進時にもトルクがかかっているため「急激な坂でなければ踏み替え時に車両が後退しにくい」というメリットもあります。

さらに、クリープ現象はMT車のような半クラッチ操作が難しい場面でも運転が難しくなく、「初心者ドライバーにとって利便性が高い」という特徴を持っています。

例えば、渋滞時や低速での走行、車庫入れなどで細かな操作が求められるシーンで、クリープ現象のメリットが発揮されることで、運転がより快適になります。

デメリット

クリープ現象のデメリットの一つは、運転者が「無意識のうちに動き出すことがあるため、事故を引き起こしやすい」側面があります。

特に、エンジン始動直後やエアコン作動時など、アイドリングが高い状態では通常のクリープ時よりも勢いが強く、飛び出し事故に発展する可能性が懸念されます。

これらのように、運転者はクリープ現象のメリットだけでなく、これらのデメリットにも留意しながら安全かつ経済的な運転を心掛ける必要があります。

クリープ現象の注意点

クリープ現象は便利な機能ではありますが、使い方を間違えると事故にも繋がってしまうため、使用する際には注意する必要があります。具体的には、以下に挙げることに注意しましょう。

ここからは、クリープ現象の使い方を誤って事故を起こさないために重要な注意点について解説します。

ブレーキを緩めると意図せず発進してしまう

クリープ現象は、不意にブレーキを緩めると車が発進してしまい、事故につながることがあります。

例えば、停車中に踏んでいたブレーキが緩んでしまい、知らずにクリープ現象で車が前進し、停止している前の車に追突するという状況が考えられます。

このような追突事故はスピードはそれほど出ていないため衝撃は小さいとされますが、相手に「むちうち」の症状が出ることや、治療が長引くこともあります。

また、停止中に車内で物を探している最中に、うっかりブレーキから足が離れると車が動き出し、周囲の障害物や車両・歩行者に衝突する可能性があります。

こうした事故を防ぐためには、長くなる停車時にはP(パーキング)にシフトを切り替えておき、パーキングブレーキをかけておくことが重要です。

スイッチ式のパーキングブレーキ, レバー式のパーキングブレーキ
スイッチ式のパーキングブレーキ, レバー式のパーキングブレーキ

エンジンの回転数が高いとクリープ現象も強く起こる

エンジンの回転数が高い状態

エンジン始動直後やエアコンを稼働させた際など、エンジンの回転数が通常のアイドリングよりも高い場合、クリープ現象が通常よりも強く現れる可能性があります。

これは、車が暖機やエアコンの負荷を補うために自動的に回転数を上げる調整を行っているためであり、運転者の操作でこれを制御することはできません。

高回転数の状態では、クリープ現象が予想以上に強く発生する可能性があり、注意が必要です。急激な加速が起き、事故のリスクが高まることが考えられます。

クリープ現象を使用する際は、回転数に注意しながら、ブレーキを急に離すのではなく、ジワッと離すようにすることで、急激な加速を避けることを心がけましょう。

発車時にうまくブレーキペダルの操作ができれば、同乗者の体が大きく揺れることもなく、安心してドライブが楽しめます。

先進安全装備がついていても注意が必要なことがある

アダプティブクルーズコントロール機能の動作イメージ, アダプティブクルーズコントロール機能動作時のメーター表示
アダプティブクルーズコントロール機能の動作イメージ, アダプティブクルーズコントロール機能動作時のメーター表示

アダプティブクルーズコントロールは、前方の車との車間距離を自動で調整する便利な機能です。最新の「全車速追従タイプ」では、前方の車が停止すると自動で停止まで制御します。

しかし、一部の車では停止後に一定秒数でブレーキが解除され、意図せぬクリープ現象が発生する可能性があります。

こうした事故は、安全機能を過信してしまうことによるものです。安全運転のためには、このような安全装備に頼りすぎず、それらの原理や特性を理解し、自分の目や手足を信じて、適切な操作を心掛けることが大切です。

クリープ現象の上手な使い方

クリープ現象には、使い方に注意が必要ですが、上手に使うことで運転時のさまざまな場面で役に立ちます。具体的には、以下の場面があげられます。

ここからは、クリープ現象を上手に使った運転について解説します。

エコドライブに有効

エコドライブにおいてクリープ現象を上手に活用すると、市街地での燃料消費を効果的に抑えることができます。一般財団法人省エネルギーセンターによれば、市街地の走行において約38%もの燃料が発進時に使われています。

市街地では発進と加速を繰り返すことが多く、特に発進時の燃料消費を削減することが省エネに寄与します。この際、クリープ現象が有効です。

AT車ではブレーキを離すだけで車が自然に動き出します。従って、アクセルを踏む前にクリープ現象を利用して車が動き出すのを確認し、その後徐々にアクセルを踏むことで、燃料の無駄な消費を避けることができます。

省エネルギーセンターの測定結果によれば、クリープ現象を活用してふんわりと発進することによって、約9%の燃費消費量の削減が期待できます。これにより、燃費が向上し、長距離の航続運転が可能となります。

駐車場の事故防止

交通事故総合分析センターのレポートによれば、駐車場での事故は、アクセルとブレーキペダルの踏み間違いによって発生しやすいことが示されています。

特に高齢者が事故を起こす割合が高く、駐車時にペダルを踏む際に上半身をひねることで足が通常と異なる位置に置かれることが原因とされています。

後方や側面など周囲の安全を確認すべき点が多い駐車時には、通常の運転時と異なる体勢になってしまうこともあるので、注意が必要です。

駐車場ではスペースが限られており、アクセルとブレーキペダルを切り替える頻度が高いため、クリープ現象を活用することが効果的です。

発進時や直進時にも足を常にブレーキペダルに置いたまま、クリープ現象を活かすことで、ブレーキとアクセルの踏み間違いを防ぐことが可能です。

これにより、予期せぬ発進をしてしまい事故が発生してしまっても、損害を最小限にとどめることができます。

坂道発進もラクラク

クリープ現象は、特に坂道発進を行う際に便利です。クリープ現象を使って坂道発進をすることで、MT車のドライバーが経験する難しさや複雑な手順が、AT車では一瞬で解決します。

通常、MT車の坂道発進ではサイドブレーキの操作やクラッチの使い方に手こずることがあります。

しかし、クリープ現象を利用すれば、ブレーキペダルから足を移してアクセルを踏むだけで発進できます。坂道の傾斜に向かってゆっくり進むクリープ現象は、車が後退するのを防ぎ、MT車よりも安定した発進が可能です。

ただし、坂の傾斜がきつすぎるとクリープ現象が使えないこともあります。

それでもAT車はMT車よりも簡単に発進できるため、よりクリープ現象の利便性が高いことが感じられるでしょう。

ブレーキホールド機能があればクリープ現象は起きない

しかし、それらの注意点の一部を解消する機能として「電子制御パーキングブレーキ」が挙げられます。

電子制御パーキングブレーキを備えた車は、「ブレーキホールド」機能が付いており、この機能を活用することで、クリープ現象を解消できるのです。

ブレーキホールド機能は、信号待ちや一時停止などで車が停車すると、自動的にブレーキがホールドされ、ブレーキペダルから足を離しても車が動き出すクリープ現象が発生しなくなるシステムです。

このシステムはスイッチひとつでオン・オフが可能で、信号が青に変わった際にアクセルを踏めば、ブレーキが解除されて車がスムーズに発進します。

ブレーキホールド状態中には、ブレーキランプが点灯しています。

信号停車時にクリープ現象で意図せず発進してしまうことを嫌って、パーキングブレーキをかけ、ブレーキから足を離している場合には、ブレーキランプが点灯しないため、後続車が「発進した」と誤解して追突されてしまうリスクがあります。

ところが、ブレーキホールド機能を使うことで、停車・発進の意思表示がブレーキランプでもでき、後続車に誤解を与えないため、事故のリスクを低減できます。

慣れると非常に便利なブレーキホールド機能は、以前は高級車にしか搭載されていませんでしたが、最近では様々な車種に備わってきました。

この機能を活かすことで、信号待ち時の快適なドライブが実現され、クリープ現象による事故のリスクから解放されることでしょう。

クリープ現象での事故を防ぐ3つの対策

意図しないクリープ現象による事故を防ぐためには、適切な使用方法を心がけるだけでなく、効果的な対策を理解して実践する必要があります。

効果的な対策とは、具体的には以下にあげる方法です。

ここからは、これらの事故を防ぐ対策について詳細に解説します。

停車時にブレーキを離さない

意図しないクリープ現象による事故を予防するためには、信号待ちや駐車時などでブレーキペダルを離さないことが大切です。

ブレーキペダルをしっかりと踏み込むことで、クリープ現象は発生しない状況となります。信号待ちや停車中には、ブレーキペダルの踏み込みの深さを調整することで、クリープ現象の速度をコントロールできます。これにより、前の車が急停止したり、駐車場で人が突然現れた場合にも柔軟に対応できます。

特に、ブレーキペダルから足を離してしまうと追突事故のリスクが高まります。

したがって、停車時や発進時には、ブレーキペダルから足を離さないように心がけることが重要です。

アイドリングストップ機能が搭載されている車であれば、ある程度ブレーキペダルを踏み込むことでエンジンが停止する状態になるため、それを目安に停車時はブレーキペダルを踏み込むようにしましょう。

疲れてくるとブレーキペダルの踏み込みが甘くなってしまい、意図せず発進してしまうことがあるかもしれませんが、アイドリングストップ機能を有効にしておけば、その瞬間にエンジンが動き出すので気づきやすくなります。

渋滞時にはニュートラルへ切り替える

渋滞時の事故を防ぐ対策としては、車が進まない状況でギアをN(ニュートラル)に切り替えてサイドブレーキを引く方法が有効です。

この方法は、ブレーキペダルから足を離すことができるため、ドライバーの疲労を軽減するのに役立ちます。

長時間の渋滞では集中力が低下し、うっかりブレーキペダルから足が離れてしまい、クリープ現象によって前走車へ追突することも考えられますが、Nギアにしていれば、クリープ現象は作動しないため安全です。

ただし、断続的に発進する必要がある状況ではこの方法は避けるべきです。

Nギア+サイドブレーキから発進する際、急いでしまってレバー操作に焦ることでR(リバース)ギアに入れてしまう可能性があるからです。

間違えてRギアに入れてしまった場合、クリープ現象によって後続車に衝突してしまう事故につながるため注意しましょう。

また、Nギア+サイドブレーキの状態でも車は停車しているので、問題ないと思われがちです。しかし、念のためブレーキペダルも踏んでおくことをおすすめします。

ブレーキホールド機能が搭載されていない車の場合、後続車にとってブレーキランプの点灯状態は、停車と前進を判断する重要な情報です。

Nギア+サイドブレーキではブレーキランプが消えてしまうため、後続車が誤って追突してしまう可能性もあります。

安全運転のために、Nギア+サイドブレーキで停車する場合は、ブレーキペダルを踏んでブレーキランプを点灯させましょう。

発進・停車のタイミングは慎重に

不意のクリープ現象を避け、事故のない安全な運転を実現するためには、発進・停車時においては特に集中して運転しましょう。

クリープ現象による事故の多くは、運転者がうっかりしてブレーキペダルを離してしまったことが原因とされています。

そのため、クリープ現象が発生する発進時や停車時には、気を抜いたり他のことに気を取られることなくアクセル操作を行ったりすることが必要です。

具体的には、発進時にアクセルとブレーキの使い分けを確認し、ブレーキペダルをしっかりと踏み込むことでクリープ現象を防ぐことができます。

停車時も同様に、ブレーキをしっかりとかけた状態で安定した停止を心がけましょう。

発進や停車の瞬間において、周囲の状況や信号などにも敏感に反応することが安全な運転につながります。運転者は特に発進・停車時に集中力を高め、不意のクリープ現象を未然に防ぐことがを心がけましょう。

まとめ

ただし、クリープ現象が意図せず発生したり、エンジンの回転数が高まっている状態で使用することで普段よりも勢いよく発進してしまったりすると、事故のリスクが高まる可能性があります。そのため、利用する際はこれらの注意点に気を付けて、安全運転を心がけましょう。

クリープ現象は、うまく活用することで運転のさまざまな場面で役立てることができるため、その仕組みやメリット・デメリット・注意点をしっかりと理解して、効果的に活用できるようにしておきましょう。

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