【ハンドボール】レフトウイングは切り込み隊長 | ポジション解説 | JHL名鑑vol.1

JHLで活躍するレフトウイングの選手。左から小塩豪紀、吉田雄貴、杉岡尚樹、河嶋英里、團玲伊奈(いずれも久保写す、以下すべて)

 ハンドボールの各ポジションの役割、求められる資質について、日本リーグでプレーする選手のプレースタイルとともに紹介します。第1回はレフトウイングです。レフトウイングとはコートの左端のポジションで、シュートを決め切る、速攻でシンプルな得点を挙げるといった、攻撃の先陣を切るポジションです。 左サイドやオープンサイドとも言われるポジションで、職人的な一芸を持った選手が揃っています。(Pen&Sportsコラムニスト・久保弘毅)

【高精度のフィニッシャー】杉岡尚樹

杉岡尚樹(トヨタ車体)には回転数の多いループシュートがある

LWはセットOFでも速攻でも、味方から託されたボールをゴールに決めてこそのポジションです。日本リーグでシュート率が7割を超えれば、かなり優秀なウイングと言っていいでしょう。

シュート率で言えば、杉岡尚樹(トヨタ車体)の名前が真っ先に挙がります。昨季のシュート率は脅威の.840でした。数字以上の勝負強さを見せてくれるのが「レミたん」こと土井レミイ杏利(ジークスター東京)です。7人攻撃でボールが集まった時でも、確実に決め続けます。女子ではアランマーレで数少ない本職のレフトウイング・佐藤美月が、フィニッシャーらしいフィニッシャーです。豊島梨奈(飛騨高山ブラックブルズ岐阜)は遠め(レフトウイングから見て右側。ゴールの遠い側)の精度が高い選手。過小評価されがちですが、決定力のあるキャプテンです。

【速攻の一番手】小澤広太

いつまでも若々しい小澤広太(大崎電気)

速攻の先頭を走る脚力が、ウイングには求められます。特にレフトウイングはスピードスター揃い。速攻で走る姿が絵になる選手がいっぱいいます。

女子で一番のスピードを誇るのが團玲伊奈(三重バイオレットアイリス)。ヒザの手術から復帰しても、自慢のスピード、跳躍力は落ちませんでした。衰え知らずという点では、大崎電気のベテラン・小澤広太でしょう。38歳になった今でも、スピードは健在です。久保博貴(福井永平寺ブルーサンダー)、福本吉伸(安芸高田ワクナガ)、石田知輝(トヨタ自動車東日本)も健脚の持ち主。特に石田は、長い滞空時間でフェイクを2度入れる「ダブルクラッチ」でも魅せてくれます。ちなみに「ダブルクラッチ」の元祖は、大阪体育大の下川真良監督(元湧永製薬)です。 

【回り込んで打てる】吉田雄貴

吉田雄貴(大同特殊鋼)は身体能力が高く、独特のリズム感がある

ウイングの選手が回り込んでミドルシュートを打てると、相手の守り方が変わります。「回り込んで打ってくるんだ」と相手に意識させるだけで、大きなアドバンテージになります。

大同特殊鋼の吉田雄貴は、よくも悪くも「サイドぽくない」のが売りです。回り込んで打ち込むだけでなく、ライン際を切ったあとに抜けて、ライトバックあたりからしれっとミドルシュートを打ち込んだりします。豪腕・矢田路人(安芸高田ワクナガ)は元々がレフトバック。至近距離での剛速球だけでなく、少し離れたところからもゴールを狙えます。回り込みのシュートが巧かったのが、女子の日本代表だった勝連智恵(元オムロン)です。身長は150㎝台なのに、回り込みのミドルがよく決まりました。ただし1試合で打つのは1本だけ。「相手への布石になるから」としか言わないのですが、どの場面で打てば効果的かをわかっていたのでしょう。

【1対1ができる】團玲伊奈

スピードスター・團玲伊奈(三重)はフェイントも鋭い

ウイングの選手にフェイント力があると、攻撃の幅が広がります。狭いスペースをあえて1対1で勝負して、きれいに抜けると、同じ1点でも盛り上がりが違います。

津波古駿介(豊田合成)はキレキレの1対1で勝負する、珍しいタイプのウイングです。出場時間は限られていますが、出てきた時は要注目です。速攻のところで紹介した團玲伊奈(三重バイオレットアイリス)もフェイントが切れます。角度がないところに追い込まれたら、DFの1枚目と2枚目の間に切れ込み、相手を混乱に陥れます。

【2対2ができる】山田暁央

山田暁央(トヨタ自動車東日本)は阿部直人監督曰く「環境を整える人」

ウイングの選手でもピヴォットとの2対2ができると、攻撃のいいアクセントになります。真ん中での2対2は王道ですが、相手だって警戒しています。そこでサイドでの2対2が効いてくるのです。

ウイングとセンターを掛け持ちする山田暁央(トヨタ自動車東日本)は、左側での2対2で攻撃の起点になってくれます。スピードタイプの石田知輝と、組み立てる力のある山田暁で、うまく棲み分けができています。米澤綾美(オムロン)もウイングとバックプレーヤーの兼任です。サイドで2対2というよりは、バックに上がってきた時にピヴォットにパスを落とすのが上手です。強力なピヴォット、グレイ クレア フランシスを入れた時間帯に、米澤のポストパスが生きてきます。

【切りの動きで崩す】河嶋英里

リーダーとしても期待されている河嶋英里(ソニー)は、今季出番を増やしている

ウイングからライン際を走って、ダブルでピヴォットになる動き。「切りの動き」とも言いますし、今風にかっこよく言えば「トランジション」です。攻撃のきっかけの定番ですが、巧い選手になると、この動きだけで相手のDFをズタズタにできるのです。

リーグで1番小柄な三輪颯馬(アースフレンズBM)は脚力で注目されがちですが、実は切る動きも上手な選手です。本人も「切る動き、タイミングにはこだわっている」と言うように、DFの裏のスペースを常に狙っています。女子では河嶋英里(ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング)の切る動きが絶品です。おそらく男女通じて一番巧いでしょう。河嶋が走ると、行く先々で攻撃の連鎖が起こります。ボールを持っている選手と連動して、DFを表と裏から揺さぶります。「切る動きはクロスでもあるんだな」と、河嶋の動きを見るたび感じます。

【守備での貢献度が高い】石川紗衣

歌手のあいみょんに似ているため、石川紗衣(イズミ)は「さえみょん」と呼ばれている

DF力のあるレフトウイングがいてくれると、チームのバランスが整います。攻撃型のバックプレーヤーを使いやすくなったり、DFのオプションを増やせたり、守れるウイングがいることで、チーム全体の力が上がります。

髙野颯太(トヨタ車体)は、パリ五輪予選で見せたトップDFでの活躍が印象的です。吉留有紀(北國銀行)は、絶妙な間合いからのパスカット、ドリブルカットが抜群です。石川紗衣(イズミ)はチームの得点源でありながら、2枚目を守れるDF力でもチームにプラスをもたらします。大分鶴崎高校時代に梶原健監督から「俺は信用している人間しか2枚目を守らせない」と言われ、2枚目の基礎を叩き込まれたと言います。笠泉里(ソニー)は3枚目を守れる大型ウイングです。

【ゼネラリストでありスペシャリスト】小塩豪紀

小塩豪紀(豊田合成)は2023年12月の日本選手権で1年ぶりに戦列復帰

他のポジションもできるスキルを持ちながら、ウイングとしてのプレーも一級品。地味だけど、こういう選手がいるチームは間違いなく強いでしょう。ウイングの理想形です。

小塩豪紀(豊田合成)は回り込んでミドルも打てれば、カットインもできるし、7mスローも確実に決めてくれます。DFでは2枚目も守れるし、攻守で交代ができなかった場合には3枚目も守れます。シュート確率が高くて、人柄もいいという完全無欠なウイングプレーヤーです。松本ひかる(北國銀行)は究極のオールラウンダー。GK以外の6ポジションでプレーできます。逆側のライトウイングで器用に跳べるし、バックプレーヤーをやらせたらオフ・ザ・ボールの動きで1対1をキレイに抜きます。「練習していない」と言いながら、最近はディスタンスシュートも決めたりします。もちろん本職のレフトウイングでのシュートも高確率で、特に世界選手権では国内以上に決めています。 

【ハートが強い】仲程海渡

仲程海渡(琉球)のハングリー精神は、海外でのプレー経験で養われた

チームの切り込み隊長とも言えるポジションなので、ウイングには強い気持ちが求められます。

仲程海渡(琉球コラソン)はチームの魂とも言える存在。たとえシュートを止められたとしても、臆することなく立ち向かいます。最後まで戦う仲程の姿を見るためだけに、お金を払う価値があると思います。木下真歩(ザ・テラスホテルズ)は向こうっ気の強さなら女子でも指折り。小柄で飛び抜けた武器はありませんが、日本の女子では数少ない「眼に力を宿した」選手です。

以上がレフトウイングに求められる資質です。「この選手はこれとこれができるんだ」とわかっておくと、メンバー交代の意図も理解できて、ハンドボール観戦がより楽しくなるでしょう。

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