世界初!赤ちゃんの皮膚の角層脂質とママの初乳成分が、乳児脂漏性湿疹の発症に関係している【研究発表】

引用元:Yuto photographer/gettyimages

乳児脂漏性皮膚炎(湿疹)は乳児の約3分の1がなるといわれていて、ケアに悩むママ・パパは多いでしょう。国立成育医療研究センターの吉田和恵先生、福田理紗先生の研究グループは、赤ちゃんの皮膚の角層の脂質やママの初乳成分と、乳児脂漏性皮膚炎(以下乳児脂漏性湿疹)との関係について明らかにしました。
これは世界初の研究で、その成果は日本研究皮膚科学会の学術誌「Journal of Dermatological Science」のオンライン版に公開されました。この研究でわかったことなどについて聞きました。

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乳児脂漏性湿疹のケアはママ・パパのストレス、赤ちゃんの不機嫌の原因に

――まず、乳児脂漏性湿疹について教えてください。

福田先生(以下敬称略) 生後1カ月~3カ月ごろの赤ちゃんに見られるベタベタ、ブツブツした赤い湿疹です。頭や髪の毛の生え際、まゆ毛など、皮脂の分泌が多い部分に、黄色いふけのようなかたまりや、ベタベタしたうろこのようなかさぶたができることもあります。生後3カ月を過ぎると自然に軽快していくことが多いですが、悪化した場合は受診が必要です。

――乳児脂漏性皮膚炎、乳児脂漏性湿疹、二つの名称が使われているようです。「たまひよ」では長らく「湿疹」と表記してきたのですが、この二つは同じものですか。

福田 そうです。英語表記の「infantile seborrheic dermatitis」の和訳は乳児脂漏性皮膚炎なので、医療従事者は主に「皮膚炎」を使っています。でも、日本では昔から乳児脂漏性湿疹も使われているので、「湿疹」のほうになじみがあるママ・パパも多いでしょう。

――乳児脂漏性湿疹は乳児の3分の1がなるそうですが、赤ちゃん自身もかゆみなどが不快で機嫌が悪くなったりしますか。

吉田先生(以下敬称略) 赤ちゃんがかゆみを感じたときに、かくようなしぐさが見られるようになるのは、生後3~4カ月ごろからなので、低月齢の赤ちゃんがかゆみを感じているのかを推しはかるのは難しいです。そのため、乳児脂漏性湿疹はかゆみが少ない(感じない)といわれてきました。しかし、ジクジクするなど悪化した場合は、赤ちゃんも不快になり、機嫌が悪くなるのではないかと考えられます。そして、ケアの面では「なかなかよくならない」などとストレスを感じるママ・パパたちが多いと感じています。

――乳児脂漏性湿疹の原因は解明されているのでしょうか。

福田 母親からの性ホルモンによる脂質分泌の増加や、マラセチアなどのカビ(真菌)が発症に関与すると考えられてきました。マラセチアは、私たちの皮膚に常在する微生物の一つであり、皮脂の分泌が多い場所に定着し、皮脂を分解する大切なはたらきをしています。しかし、マラセチアが過剰に増えると、増えた菌や、菌が分解した皮脂の成分や菌が作り出した成分などにより、赤みやかゆみが現れたりします。

しかし、乳児脂漏性湿疹とその他の要因(皮膚バリアや母乳中の成分など)との関連についてはわかっていませんでした。
そこで私たち研究グループは、赤ちゃんの皮膚バリアの構成成分である角層内の脂質と、ママの母乳成分に注目し、乳児脂漏性湿疹との関係について調べました。

角層のセラミドとコレステロールの分泌量が関係している可能性がある

――今回の研究では、どのような調査を行ったのですか。

福田 当センターで2019年7月から2020年10月までに生まれた43人の赤ちゃんに対し、出生時(日齢0~7日)、生後1カ月(±14日)、生後2カ月(+1カ月)の時点で、医師の診察と角層成分の測定を行い、さらに、それぞれの時期の母親の母乳を採取しました。そして、データが得られた39人分の赤ちゃんの角層と母乳について、乳児脂漏性湿疹の発症との関連についての解析を行いました。

調査期間中、39人中22人(56%)の赤ちゃんが乳児脂漏性湿疹を発症。解析の結果、発症した赤ちゃんの0カ月時の角層のセラミドとコレステロールの量が、発症していない赤ちゃんと比べて低いことがわかりました。

――乳児脂漏性は赤ちゃんの約3分の1がなるといわれているそうですが、今回の調査では半数以上の赤ちゃんが発症しています。

吉田 今回の対象児の90%はアトピー性皮膚炎の家族歴がある、アトピーのハイリスク児が多かったことが関係しているのかもしれないと思っています。

――セラミドとコレステロールは角層でどのようなはたらきをしていますか。

福田 セラミド、コレステロールともに、角層のうるおいを保つとともに、バリア機能に重要な役割を果たしています。セラミド、コレステロールは、角層の中の「細胞間脂質」の主成分であり、角層細胞の間で水分を保持し、また角層内に層状にバランスよく整列することで、すき間がない状態を作り、バリアを形成しています。

――角層のセラミドとコレステロールの量が少ないと、乳児脂漏性湿疹を起こしやすくなるのはなぜでしょうか。

福田 皮膚のうるおいが少なくなり、バリア機能が低下することで、先に説明したマラセチア菌やその代謝産物などが角層内に入り込みやすくなり、炎症を引き起こすと考えられています。
また、成人の脂漏性湿疹において、脂質や免疫、皮膚の分化などに関係する遺伝子が変化していることがわかってきており、乳児の脂漏性湿疹における遺伝的な要因についても、今後さらに詳しく調べていく必要があります。

――セラミドとコレステロールの分泌量が少なめの赤ちゃんは、この二つの脂質を補うことができれば、乳児脂漏性湿疹を起こしにくくなりますか。

福田 今回の研究で、その可能性が示唆されました。現在セラミドを含むスキンケア製品は市販されていますが、それが乳児脂漏性湿疹を予防するかはまだ検証されていません。今後さらに研究を進めていくことで、将来的には、乳児脂漏性湿疹をスキンケアで予防できるようになるかもしれません。

乳児脂漏性湿疹の予防につながるTGF-β。初乳には豊富に含まれている

――母乳の成分と乳児脂漏性湿疹との関係について、わかったことを教えてください。

吉田 乳児脂漏性湿疹を発症した赤ちゃんは、母親の初乳に含まれるTGF-β1・2の濃度が低いことがわかりました。
TGF-β1・2は、免疫のバランスを調整し、アトピー性皮膚炎などのアレルギーの発症を防ぐ重要なものとして、近年注目されています。
母乳の中でも初乳にTGF-β1・2が多く含まれているのですが、TGF-βの濃度にはかなり個人差があることがわかっています。そのため、初乳に含まれるTGF-β1・2の濃度の差が、乳児脂漏性湿疹の発症に影響したのだと考えられます。

――吉田先生たちは以前、分娩方法や出産経験で初乳の成分に違いがあることを明らかにしました。

吉田 その時の研究で、帝王切開で出産した母親の初乳は、TGF-β1・2の濃度が高いことがわかりました。TGF-β1・2は傷が治っていく過程で増殖する特徴があるため、帝王切開の手術による傷が治る過程で、初乳中のTGF-β1・2の濃度が高まるのではないかと推測しています。

今回の調査では、乳児脂漏性湿疹を発症した赤ちゃん22人のうち、帝王切開で生まれた子は4人(18・2%)、自然分娩で生まれた子は18人(81・8%)。帝王切開で生まれた子は発症率が優位に低いという結果が出ました。帝王切開の母親の初乳はTGF-β1・2の濃度が高いことが関係している、と考えていいと思います。

――母乳に含まれるTGF-βを赤ちゃんが経口摂取する(飲む)ことで、乳幼児期のアレルギー疾患を予防する可能性についても研究が進んでいるとか。

福田 赤ちゃんが飲んだ母乳中に含まれるTGF-βが、腸管の中でも生理活性を保てるのか、免疫系にどのような影響を与えているのかなど、わからないことがいろいろありました。
しかし、近年、母乳を飲んだマウスの腸管内でTGF-βがその機能を保つことが確かめられました。さらに、口から摂取したTGF-βが食物の抗原に対して免疫反応を起こさないように働くことで、アレルギー反応を抑制する可能性が示唆されています。
母乳中のTGF-βは乳児脂漏性湿疹の発症を予防するだけでなく、さまざまなアレルギーから赤ちゃんを守ってくれる可能性があるということです。

――ママが乳酸菌をとると母乳中のTGF-βが増えるいう情報が、ネット上にたくさん出ていました。真偽はいかがでしょうか。

吉田 乳酸菌が母乳中のTGF-βを増やすという報告もあれば、増やさないという報告もあります。この説については賛否両論で結論は出ていません。今のところ、母乳中のTGF-βを増やすことの確実な方法は確立していません。
ただし、TGF-βは、とくに初乳に豊富に含まれています。初乳が分泌される期間には個人差がありますが、だいたい産後3〜5日ごろまでです。出産直後は体調がよくなかったり、傷が痛かったりして授乳するのが大変だと思います。でも、できる範囲でいいので、初乳を赤ちゃんに飲ませてあげるようにしてほしいと思います。

――今の時点で最も有効な乳児脂漏性湿疹のケアを教えてください。

吉田 皮膚を清潔に保つこと、これが一番大切です。1日1回入浴し、赤ちゃん用の洗浄料をよく泡だてて、手でやさしく洗ってください。顔はお湯でぬらしたガーゼでふいて終わりにしてしまう人がいますが、顔も洗浄料をつけてしっかり洗い、石けん成分がきちんと落ちるまで流します。

入浴後は保湿ケアで皮膚にうるおいを与えると、皮脂が過剰に分泌するのを押さえることが期待できます。ただし、乳児脂漏性湿疹を発症しているとき、どの程度の保湿が必要なのかは個人差があるので、ケアに悩んだら、早めに医師や保健師などに相談しましょう。

お話・監修/吉田和恵先生、福田理紗先生 取材・文/東裕美、たまひよONLINE編集部

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赤ちゃんの皮膚の脂質バランスと、母乳中のTGF-βが、乳児脂漏性湿疹の予防につながる可能性があるとのこと。ママ・パパのストレスになり、赤ちゃんにとっても不快なこの皮膚トラブルが、予防できるようになる日が来ることが期待できそうです。

●記事の内容は2024年2月の情報であり、現在と異なる場合があります。

吉田和恵先生(よしだかずえ)

PROFILE
国立成育医療研究センター 小児外科系専門診療部皮膚科 診療部長。アレルギーセンター皮膚アレルギー科 診療部長。医学博士。慶應義塾大学医学部卒。専門は小児アトピー性皮膚炎、遺伝性皮膚疾患など、小児皮膚科学。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本アレルギー学会専門医。

福田理紗先生(ふくだりさ)

PROFILE
国立成育医療研究センター 小児外科系専門診療部皮膚科医師。医学博士。埼玉医科大学卒。スウェーデン・ウプサラ大学分子細胞生物学教室留学。専門は小児、成人のアレルギー疾患など。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、EAACI/UEMS certificate。

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