著作権や編集者の年収についても解説します
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漫画「セクシー田中さん」「砂時計」などの作品で人気の漫画家・芦原妃名子さんが逝去
今年2024年1月、「セクシー田中さん」「砂時計」などの作品で人気の漫画家、芦原妃名子さんが亡くなられました。生前、芦原さんが手がけた漫画を原作としたドラマの脚本をめぐり、芦原さんご自身が、制作側と見解の違いが生じていたことをSNSで明かされています。
今回のことは多くのメディアで取り上げられ、また様々な立場の方から経緯や原因の究明が叫ばれる中、漫画家ともに作品を作り上げる「編集者」という立場にも、また注目が集まっています。
元書籍編集者の立場から、作家と編集者の関係、そして原作者が持つ権利「著作権」についてお話しします。
漫画「重版出来!」シリーズも人気!編集者は作家と二人三脚で作品を生みだす
編集者は、作家や漫画家が手がけた作品について、アドバイスをしたり、励ましたり、時にはなかなか上がらない原稿の督促をしたりと、作家と一緒に作品を練り、作り上げていきます。
より面白く、より魅力的になるように二人三脚で作品作りをする、作家にとって最大のサポーターでもあります。
筆者自身は、書籍編集者でした。
毎日のように画家の家に通って、描かれたばかりの作品を持って帰ってきたことが何度もあります。毎日通うようになると、やはり作家も画家も、逃げられないと思うのか、1枚でも仕上げて持たせてくれるのがありがたかった記憶があります。
また出版後であっても、サイン会や展覧会、書店営業なども行い、作品をより多くの人に届けられるように努力しています。
特に、自分が見出した作家に対する思い入れは格別なものがあります。苦しみながらも作品を作り上げ、初めての出版までこぎつけ、ベストセラー作家になっていく過程を見守るのは、編集者冥利に尽きます。まさに作品も「我が子」なのです。
このあたりの出版社と漫画家、作家の関係については、「重版出来!」シリーズ(松田奈緒子作・小学館)に詳しく描かれています。
著作権に関係するルールは「著作権法」という法律で定められている
そのように手塩にかけて生まれた作品と、その作者を守るにあたって、絶対に編集者が知っておかなければいけない法律は「著作権法」です。著作権に関係するルールは「著作権法」という法律で定められています。そして「著作権」は、知的財産権の1つです。
公益社団法人著作権情報センターによれば、『「著作権」とは、「著作物」を創作した者(「著作者」)に与えられる、自分が創作した著作物を無断でコピーされたり、インターネットで利用されない権利』と記されています。
筆者も、出版社に入社してまもなく、著作権に関する講座に複数回通いました。そこでは、著作権に関するあらゆる知識を学びました。編集者にとっては必須の知識です。
それまで「文章を引用したら、末尾にその引用元を入れればよい」くらいの知識しか無かったのですが、ここまで細かく「著作物」や「著者」が守られていることに驚いたことを思い出します。
著者の意向は「著作者人格権」によって守られ、何よりも尊重される
今回亡くなられた芦原さんは、彼女の作品の「著作者」にあたります。
前述した同センターによると、著作者の権利は、人格的な利益を保護する「著作者人格権」と財産的な利益を保護する「著作権(財産権)」の2つに分かれています(※)。
そのうち「著作者人格権」は、さらに下の表のような細かい権利に分かれています。
※その他「著作隣接権」を著作権の概念に含めることがあります。
公表権(著作権法第18条第1項)
自分の著作物で、まだ公表されていないものを公表するかしないか、公表するとすれば、いつ、どのような方法で公表するかを決めることができる権利
氏名表示権(著作権法第19条第1項)
自分の著作物を公表するときに、著作者名を表示するかしないか、表示するとすれば、実名、変名のいずれを表示するかを決めることができる権利
同一性保持権(著作権法第20条第1項)
自分の著作物の内容又は題号を自分の意に反して勝手に改変されない権利
今回は、芦原さんの当該作品に対する見解(思い、気持ち)と、制作側との見解に違いがあったとのことですが、上記の通り、「同一性保持権」の中に「自分の著作物の内容または題号を自分の意に反して勝手に改変されない権利」とある限り、ドラマ化に際しても、原作者の権利がまず尊重されるのです。
漫画を原作とし、そのドラマを制作するということは、多くの現場や人間の労力が必要になることは容易に想像がつきます。
そしてそれぞれの立場に、異なる事情や慣習、慣例があったことでしょう。
そうであったとしても、漫画を原作としたドラマを制作するにあたって、著作権法を遵守することは、ないがしろにできない、非常に重要なことであったと想像することができます。
編集者は、盾となって作家や作品を守る存在でもある
筆者は、編集者時代、今回のようなテレビドラマの原作となる作品を手がけたことはありません。
それでも、担当した作品やそのキャラクターを、別の媒体で紹介や宣伝、モチーフにして公開したいという申し出があった場合は、著作権を侵害していないか、作家の意向にそっているか、作家の許可が得られているかを、都度確認していました。
現在は、著作権の意識も以前よりだいぶ一般に浸透しており、利用する側も、事前に許諾を取ってくれることが増えているように感じています。
権利者である作家や漫画家と、その作品を利用したい人との間に立って、時に盾になって作家を守るのは、編集者であり、ひいては出版社になります。
今後、今回のようなことが繰り返されないよう、作品にかかわる人たちが著作権について今一度よく考える機会を持つことが重要ではないでしょうか。
そして編集者は、作家、漫画家の一番の味方であってほしいと思います。
編集者も含めた「著述家・記者・編集者の年収・平均年齢・勤務年数」
最後に、編集者も含めた「著述家・記者・編集者の年収・平均年齢・勤務年数」などを企業規模別に見ていきましょう。
出所は、厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」になります。
【企業規模別】著述家・記者・編集者の年収
勤務先の企業規模別の年収は以下の通りです。
- 10人以上:697万6200円
- 1000人以上:984万6000円
- 100-999人:635万500円
- 10-99人:486万9600円
年収の算出方法は以下の通りです。
年収=「きまって支給する現金給与額」×12+年間賞与その他特別給与額
【企業規模別】著述家・記者・編集者の年齢と勤続年数
勤務先の企業規模別の年齢と勤続年数は以下の通りです。
- 10人以上:41.6歳(13.9年)
- 1000人以上:42.1歳(17.4年)
- 100-999人:41.4歳(13.8年)
- 10-99人:41.4歳(10.2年)
いかがだったでしょうか。
編集者、そして著作権について少しでも皆さんに理解していただければ幸いです。
参考資料
- 公益社団法人著作権情報センター
- 厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」