「相手が走らないとほっとする」女子テニスの加藤未唯がカタールで感じた自らのストロングポイント<SMASH>

決まったかと思うボールを幾度も拾い、コートを走ってくらいつき、ボールを返し続けるも、最後は決められてしまう——。

テニスを観戦していれば、そんなシーンをしばしば目撃する。コートカバー能力の高い選手の試合なら、なおのことだ。

見ている方とすれば、「あんなに頑張ったのに、残念……」と思ってしまう場面。

ただ、実際に戦う選手がその場面をどう捉えるかで、恐らくは結果は全く異なってくる。

現在女子テニスのダブルスで世界29位につける加藤未唯は、ツアーでも屈指の快足選手。

その彼女が、現在開催中の「カタール・オープン」(2月12日~17日/カタール・度は/WTA1000)の初戦を突破した後に、「相手があまりボールを追わないので、ほっとするというか、安心するところはありました」と言った。

この時の対戦相手は、第8シードのチャン・ハオチン/ジュリアーナ・オルモス組(台湾/メキシコ)。

大柄なチャン・ハオチンはボレーの決定力が高い一方で、フットワークには、やや難がある。決める時は、豪快に。逆に決められたと思うボールは、ムリに追わない。

そんなテニスは、見方によっては効率が良くも映る。ただそんな相手の特性を、加藤は「助かった」と捕らえていた。

「それほど感覚の良いボレーやドロップショットでなくても、相手が走ってこなければ、『これくらいでも大丈夫なんや』となり、『ギリギリを狙わなくても大丈夫』と思える」ことにより、精神的な圧力が減る。
だからこそ加藤は、どんなボールでも、最後まで追う。たとえその時はポイントにつながらなくても、相手にとって必ずプレッシャーになることを、経験的に知るからだ。

そのような感覚に確信を持ったのは、大会会場で選手たちと試合形式の練習をしていた時。チャンスボールにも関わらず際どいところを狙う相手に、「そんなところに打たなくても決まるのに」と笑いながら声を掛けると、「あなたは、どこにでも居るから」との声が返ってきた。

「練習試合でもそう思うなら、試合でも絶対に思っているはず」

自分の武器とプレースタイルに、一層の自信を深めた瞬間だった。

なおカタールの試合では、第1セットはゲームカウント0-4とリードされながらも、そこから追い上げタイブレークの末に逆転。第2セットは、追いつ追われつの神経戦を、加藤が相手の動きを見極めたウイナーを立て続けに決めることで、流れを引き寄せ突き放した。

テニスの試合では、一つのプレーが次なる展開への布石になる。そうして一つのポイント、一つの試合の積み重ねが、ツアーという大きな物語を紡いでいく。

現地取材・文●内田暁

■カタール・オープン 女子ダブルス1回戦
加藤未唯/A・スチアディ(日本/インドネシア) 7-6(5)、6-4 H・チャン/G・オルモス(台湾/メキシコ)

© 日本スポーツ企画出版社