ローソン、ファミマはTOB、最大手セブン-イレブンはどうする

セブン&アイグループはコンビニ事業で支えられている。

2024年2月6日、KDDI<9433>はコンビニエンス業界3位のローソン<2651>に対してTOB(株式公開買い付け)を実施すると発表した。KDDIはTOBでローソンの議決権所有割合50%を取得し、同じく50%を所有する三菱商事<8058>と共同経営する。2020年8月には業界2位ファミリーマートがTOBにより伊藤忠商事<8001>の子会社となった。大手コンビニ業界でM&Aによる合従連衡が進んでいる。では、業界最大手のセブン―イレブンはどうか?

祖業ではあるが、グループのお荷物

セブンを運営するセブン&アイ・ホールディングス<3382>はコンビニ以外にも、祖業であるスーパーマーケットのイトーヨーカ堂を運営する。かってセブンはヨーカ堂にとって「孝行息子」の会社だったが、今や立場は逆転。セブンにとってヨーカ堂が「お荷物」となった。

その象徴的な事例が2024年夏までに予定されている本社の移転。セブン&アイやセブンと共に入居している東京都千代田区二番町のビルから、東京都大田区大森周辺へ移動する。ヨーカ堂が「グループの本拠地」を追われたことから、セブン&アイグループ内で両社の主従関係が逆転した象徴とも言える出来事だ。そうであれば取るべき道は二つ。一つはセブン&アイがセブンを売却する。そして、もう一つはヨーカ堂を売却する、だ。

セブン&アイは、大株主だった投資ファンドの米バリューアクト・キャピタル(2023年10月にセブン&アイ株を売却し、大株主名簿から外れている)などから、セブンの売却やヨーカ堂の分離を求められていた。ヨーカ堂は2023年2月期までの10年間で最終赤字を8回計上しており、累計最終赤字は813億円に達している。

2024年2月期には営業赤字転落が予想されることから、2023年3月には2026年2月末までに33店舗を閉店し、首都圏はじめ都市部に店舗を集約する方針を明らかにしている。これに伴い14店舗を展開する北日本エリア(北海道と東北全県)から完全撤退する見通しだ。


ヨーカ堂再生のためにはセブンとの分離が必須

だが、こうしたリストラ策だけでは将来展望は描けない。ヨーカ堂が展開する大型スーパーマーケット市場は衰退しているからだ。

スーパー業界は総開発面積67万6000平方メートルの「イオンモール取手」(2025年開業予定)に代表されるテナント家賃で収益を稼ぐ「超巨大店舗型」と、生鮮食品など日常の食料品に特化して小商圏で面展開するドミナント(一つの地域内に複数出店し、そのエリアの消費者を誘導することで経営の優位性を確保する)戦略の「小型店舗型」に二極分化しており、ヨーカ堂の店舗規模は中途半端になっている。

「超巨大店舗型」と「小型店舗型」のどちらかを選択しないと生き残りは難しいが、そのためには店舗網を再構築するための投資が必要だ。しかし、コンビニという「稼ぎ頭」を持つセブン&アイは、成功するとは限らないヨーカ堂の店舗改革よりもセブンの店舗網拡充に投資したいだろう。それではヨーカ堂の業績は下降を続け、セブン&アイの負担が増すだけだ。

ヨーカ堂としても「祖業」として一目置かれていた状況から立場は一転。このままではセブン&アイから必要な投資も渋られ、先細りの運命を避けれない。ヨーカ堂とセブンにとって、最良の選択は両社の分離なのだ。セブンを売却した資金でヨーカ堂が店舗網の再構築をするのか、あるいはヨーカ堂を成長させてくれるパートナーに買収してもらうのか。そのどちらにせよ、現在の状況よりも双方にメリットがある。

ヨーカ堂は2024年1月に45歳以上を対象にした早期退職の募集を始めており、優秀な人材の流出が懸念される。セブンにとっても、店舗網の縮小や人員削減などでヨーカ堂の企業価値が既存する前に分離した方が有利だ。セブン&アイの井阪隆一社長は「スーパー事業がなければコンビニ事業の成長も滞る」と切り離しに消極的だが、営業赤字となればシナジー効果に疑問符がつく。

百貨店のそごう・西武は売却の判断が遅れ、セブン&アイは2024年2月期に1331億円もの特別損失を計上する。一刻も早くヨーカ堂の分離を決断することがグループのためであり、祖業であるヨーカ堂の再建につながる可能性が高い。

セブンと競合する2位、3位のコンビニチェーンがTOBで体制を整えて追い上げを図る中、セブンがいつまでも安泰とは限らない。成長性が低いヨーカ堂を抱えながら、激しい競争が続くコンビニ業界で首位を維持するのは容易ではないだろう。余裕のあるうちに決断すること、それがM&Aの最善手なのだ。

文:M&A Online

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