【新たな担保権】創業支援強化の契機に(2月14日)

 金融庁は、独自技術や成長性を担保に金融機関からの融資を可能とする法案を今国会に提出する。不動産担保や経営者保証に頼らない「事業成長担保権(仮称)」を設け、資産が乏しいスタートアップ(新興企業)の資金調達を円滑化する狙いがある。県内の金融機関は新制度への対応を急ぎ、産業振興に向け企業の集積や創業を資金面から強力に下支えすべきだ。

 企業へ融資する際の担保権の対象は現在、土地、工場などが中心となっている。こうした有形資産を持たず、黒字化を達成できていないスタートアップにも資金提供の機会を一層広げるため、新たな担保権の創設が昨年末に閣議決定された。事業承継時の資金調達も想定している。技術力をはじめ、成長性、特許、ノウハウ、顧客基盤などを含めた事業全体が担保権の対象となる。デジタル改革やエネルギー転換といった産業構造の変化に対応する間接金融の基盤整備は不可欠で、早期の法案成立と運用開始を目指してほしい。

 新たな制度を利用する場合、企業は銀行などの信託会社と信託契約を結び、事業全体を担保として設定する。これを基に、金融機関が融資する。経営者保証は、粉飾があった場合などを除き制限される。金融機関は融資先の成長可能性を見抜く「目利き」の力が、これまで以上に求められる。

 融資先の担保価値を保つため、経営状況に一段と目を配る必要も生じる。共に知恵を出し合い、二人三脚で収益力や生産性の向上を目指す伴走型の支援も欠かせない。「顧客重視」の姿勢が問われる。

 融資にとどまらず、資本増強に応じる投資家を発掘するなど幅広い取り組みも期待されるだろう。担保権の制度変更を、産業力全体の底上げに向けた一大改革と前向きに捉えたい。

 「福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想」によるロボット・ドローンなどの新産業の集積が浜通りで進んでいる。浪江町での福島国際研究教育機構(F―REI、エフレイ)の開所も、創業や県外からの企業参入の呼び水になる。資金需要の増加に備え、柔軟な融資の枠組みを整えるのは、被災地の金融機関の大きな責務と言える。(菅野龍太)

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