福井県内唯一のJR名誉駅長、北陸新幹線開業とともに退任へ 北鯖江駅もり立てた鉄道マン「我が人生、レールと共に」

北鯖江駅の利用客に笑顔であいさつする門田吉雄さん(右)=福井県鯖江市下河端町のJR北鯖江駅

 北陸新幹線が福井県内開業を迎える3月16日。その前日をもって、ある任を終える人がいる。元国鉄職員で御年89歳、鉄道愛を自負してやまないその男性の肩書は「JR北鯖江駅名誉駅長」。無人駅の同駅を8年半にわたりもり立ててきた。「時代は変われどレールは生きる」と思いを込めつつ、一抹のさみしさもにじませた。

 男性は門田吉雄さん=鯖江市。県内JR駅で唯一の名誉駅長を、2015年6月から務める。無人駅の活性化を目的とした無報酬の役職で、委嘱するのはJR西日本金沢支社。新幹線開業に伴い、北陸線が第三セクター「ハピラインふくい」に引き継がれるタイミングで、門田さんも退任することとなった。

 自宅から車で10分の北鯖江駅。門田さんは決まって月曜の早朝、駅に立つ。トイレ掃除やごみ拾いを済ませ午前7時過ぎ。週明けの憂うつを背に、急ぎ足でホームに向かうサラリーマンや学生たちに「おはよう」「行ってらっしゃい」と元気に声をかける。女性客が髪を整える駅舎の鏡も、門田さんが磨いたものだ。

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 冬の寒さも「わしが寒けりゃお客さんも寒い」と意に介さず、けがや大病を経ても再び駅に立った。

 無人駅にも電車は止まる。ならば責任を持ってサービスを尽くす-。熱心な活動の根底には、生粋の“鉄道マン”の誇りがある。

 明治生まれの父も国鉄職員だった。「レールのように真っすぐ」な背中を追って、自身も1953年に国鉄へ入社。62年の北陸トンネル開通、63年の三八豪雪、81年の五六豪雪など、駅員として数々の歴史的瞬間に携わり、34年間務め上げた。

 国鉄からJR、そしてハピラインへと引き継がれる北陸線。「我が人生、レールと共に」を座右の銘とし、長年鉄道に関わった門田さんにとっても、名誉駅長退任は大きな節目だ。

 「さみしいはさみしいのぉ」。そんな思いも口をつくが、鉄道人生の晩年を過ごした北鯖江駅には「感謝しかない。好きな事を思い切りできて、こんなに幸せな男はいない」と語る。

 引退後は、60年連れ添う妻への恩返しに力を注ぐという。歌謡曲好きが高じ「青空日出夫」の名前で、地元FM局「たんなん夢レディオ」のパーソナリティーもこなす門田さん。駅を離れても、あふれる鉄道愛をリスナーに届けるつもりだ。

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