銀行員「借入金の返済、止めたらどうでしょうか?」→経営者、思わず絶句…ウラに秘められた衝撃の真意【ベテランコンサルタントが解説】

経営者は銀行員とのやり取りのなかで、思わず聞き返すような言葉を聞くことがあります。ここでは、銀行員のひとことに秘められた真意について、ベテランのコンサルタントが解説します。※本連載は、川北英貴氏の著書『社長、この1冊で融資交渉が強くなります! 銀行員のそのひとことには理由がある』(すばる舎)より一部を抜粋・再編集したものです。

ときには、他行の預金口座の解約まで要請されることも…!

「他の銀行とつきあわないでもらえますか?」

銀行員から「他の銀行とつきあわないでもらえますか?」と言われることがあります。このことばの意味は、「他の銀行からは融資を受けず、自分の銀行のみから融資を受けてほしい」というものです。

融資云々(うんぬん)だけでなく、「他の銀行の預金口座を解約してほしい」とまで言ってくる銀行員もいます。

そうした銀行員の言うことを真に受けて、一つの銀行のみで融資を受けている場合、その銀行がこれからも社長の希望どおりに融資を出してくれればよいですが、絶対とは言えません。自社の業績や財務内容が悪化し、その銀行が融資を出さなくなったとき、他の銀行から融資を受けるという選択肢がとりづらくなってしまいます。

一つの銀行のみで融資を受けてきたのであれば、他の銀行へは新規で融資を申し込むことになりますが、この場合、審査はなかなか通らないものです。銀行は新規の会社への融資には慎重になるからです。

融資を受ける銀行が一つしかないことは、企業にとってデメリットが大きいです。複数の銀行、できるだけ多くの銀行から融資を受けるようにしましょう。多くの銀行から融資を受けるメリットは次の4つです。

1.融資の選択肢を広げられる

多くの銀行でふだんから融資を受けておき、返済実績をつけておけば、一つの銀行で融資を断られた場合、他の銀行に融資を申し込むことができます。銀行は、新規の会社への融資には慎重です。ふだんから多くの銀行で融資を受け、返済実績をつけておきましょう。

2.銀行間で競争させることができる

一つの銀行のみで融資を受けていると、銀行間の競争が発生しません。多くの銀行から融資を受け、銀行間で競争させることで、より良い条件の融資を受けやすくなります。金利が低い融資、プロパー融資、担保なしの無担保融資などです。

3.銀行の統合に備えられる

銀行の数は年々、減少しています。この30年間、銀行・信用金庫・信用組合を合計した数は1988年の1085社から2018年の559社とほぼ半減しています。金利の低下により銀行の収益が厳しくなっていることから、今後も銀行の統合が進んでいくことが予想されます。

融資を受けている2つの銀行が統合してしまったら、融資を受けている銀行の数が少なくなってしまいます。銀行の統合は同じ地域や近隣の銀行の間で行われることが多いので、なおさらその可能性は高いです。融資を受けている銀行同士の統合に備え、多くの銀行から融資を受けるようにしましょう。

4.ダメな担当者・厳しい支店長にあたるリスクを分散できる

仕事ができなかったり仕事のやる気がなかったりとダメな銀行員がいます。そのような担当者にあたると、融資が受けづらくなります。また、融資の審査が厳しい支店長にあたることもあります。多くの銀行から融資を受けていれば、ある銀行でダメな担当者や厳しい支店長にあたっても、他の銀行へも融資を相談できるのでリスクを分散できます。

《ポイント》

銀行員から「他の銀行とつきあわないで」と言われて従ったら企業にとってリスクが大きい。そのことばには従わず、多くの銀行から融資を受けるようにする。

「きちんと返済していかなければ」と思っていたところに…

「借入金の返済を止めたら、どうでしょうか?」

銀行員から「借入金の返済を止めたら、どうでしょうか?」と言われることがあります。銀行にはきちんと返済していかなければならないと思っていたところに「止めたらどうでしょう」などと言われると驚いてしまいます。

銀行員がこのように言う場合、その銀行から新たな融資が出る可能性が低くなっていることが推測されます。

銀行では融資先企業ごとにそれぞれ〈融資方針〉を決めています。銀行員はその融資方針を念頭に置き、担当先の社長などと接しています。「借入金の返済を止めたらどうか」と言ってくる場合、新たな融資は行わない方針なのでしょう。この場合、銀行員が考えることは、〈自分の銀行や他の銀行が融資を行わなければ、その会社の資金繰りはどうなるか〉です。

新たな融資がどこの銀行からも出ず、一方で、既存の融資の返済がキャッシュフロー(事業活動により得られる利益から生み出される現金)のなかでできないとなると、やがては資金繰りが破綻(はたん)します。そういう事態が予想される場合、破綻を防ぐために企業が行うべきことは、既存の融資の返済を減額・猶予(ゆうよ)することです。これを「リスケジュール」と言います。

※リスケジュール……「リスケ」とも略称される。その判断基準となるキャッシュフローは、決算書のなかの損益計算書を見て、簡易的な計算式〈当期純利益+減価償却費〉で計算できる。例えば、事業でキャッシュフローを年間300万円稼ぐ会社が、既存の融資の返済を毎月200万円、年間2400万円している場合、年間で〈300万円-2400万円=▲2100万円〉の現金がなくなる。この状況では〈年間2100万円以上〉融資を受けられれば、現金(キャッシュフロー)は減少せずに済む。しかし、どこの銀行も新たな融資を行わない、もしくは、行っても年間2100万円にとうてい届かない金額しか新たな融資が出ない場合、返済を続ければ現金が減少していき、やがては資金不足に陥ることになる。そこで月200万円の返済を減額し、月20万円の返済にすれば、年間240万円の返済となり、キャッシュフローの年間300万円のなかに収まる。これがリスケジュールの考え方である。

リスケジュールでは、返済を猶予し、毎月の返済を0(ゼロ)にすることもよく行われます。なお、リスケジュールでは元金の返済を減額・猶予しても、利息は今までどおり支払っていくのが普通です。

企業の資金繰りが破綻し、事業が継続できなくなってしまうと、銀行は残った融資を回収できずに貸し倒れが出て、大きな損失となってしまいます。「新たな融資が出ないなかで返済を続けて企業が倒産してしまうよりは、今はリスケジュールを行い、まずは資金繰りがまわるようにし、事業を継続してもらいたい…」「そのなかで経営改善してキャッシュフローを多く稼げるようにし、できれば将来、返済を再開してもらいたい…」

このような長期的な視点から、銀行員は「借入金の返済を止めたらどうか」という提案をしてくるのです。

しかし、このようにリスケジュールを勧めてくる銀行員もいる一方で、〈やはり返済を続けてもらい、自分の銀行の融資残高を少しでも減らしたい〉と考える銀行員もいます。むしろ、〈返済を続けてもらいたい〉と考えるのが普通で、銀行員からリスケジュールを企業に勧めてくることはレアケースです。ほどんどないと思っていたほうがいいかもしれません。

すなわち、銀行員からのリスケジュール提案を待つのではなく、自社の資金繰りを見すえて、企業側から銀行にリスケジュールを相談・交渉するのが本来あるべき姿です。

《ポイント》

「借入金の返済を止めたら、どうでしょうか?」と言われた場合、その銀行で新たな融資が出る可能性は低くなっているということ。銀行から新たな融資が出ず、一方で既存の融資の返済を続ければ資金繰りが破綻する場合は、リスケジュールを銀行に相談・交渉する。

川北 英貴
株式会社グラティチュード・トゥーユー 代表取締役

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