通帳にいつの間に10万円が… 年初に謎の入金 「投信還付金」って何ですか?

“トウシンカンプキン”とは?

年明けに銀行の通帳を見ていたAさんは、見慣れない文字を見つけました。

<1月4日 トウシンカンプキン 入金 ¥ XXX >

入金されていたので詐欺まがいの不審な点はありませんが、身に覚えはありません。「これは何?」と疑問に思いました。この“トウシンカンプキン”(投信還付金)は、「前年に投資信託で出た利益と損失を損益通算した結果、税金を払い過ぎていたので戻ってきた還付金が入金された」というものです。

特定口座で「源泉徴収あり」を選択した場合、売却益や配当・分配金などに対して課される所得税・住民税は金融機関が源泉徴収して納付するため、確定申告は不要です。売却損が出た場合は利益と損益通算して精算されます。

10万円の入金はどうして起こったか

そもそもの始まりは、2年半前に退職金を受け取ったことにあります。退職金のうち1000万円の預け先として、メインバンクの担当者から「投資信託+定期預金」のセットプランを勧められました。

退職金はそれなりの金額なので、金融機関もさまざまな商品を勧めてきます。特にこのセットプランは、退職金ならではの定期預金の金利の高さが魅力的です。ただし、この高金利の恩恵を受けられるのは、当初の3ヶ月間や半年間などと決められています。

Aさんはお勧めプランを実行し、3ヶ月後には定期預金の利息を受け取り、慰安の1泊旅行を楽しみました。投資信託はどうなったかというと、始めた時期が悪かったのか、運用は思わしくない状態が続きました。

そもそもAさんは、投資に詳しくありません。500万円の投資信託が徐々に目減りしていることに危機感を抱き、いよいよ損切りを思いたちました。昨年5月時点で約430万円なので、2年弱で70万円減ったことになります。

ここで損失を確定し、投資信託にあった430万円を普通預金に預けることは一つの方法ですが、これでは損失を被ったままです。Aさんは考えた末、この430万円に70万円を足した資金で別の投資信託を購入することにしました。

新たに購入した投資信託は、毎月分配型のタイプです。すでにリタイアしているAさんにとっては、毎月お小遣い(分配)が約6万6000円入金されるのはありがたいです。損失を被って投資に関してネガティブな印象を持っていましたが、これでイメージは挽回できそうです。

毎月分配型の商品は運用効率がよくないと評されることもありますが、筆者はリタイア世代にとっては使い勝手のよいお勧め商品だと思います。運用が悪いときも分配することで、タコ足分配が起きる可能性はあります。Aさんの場合も、500万円を守り続けることはできないかもしれません。

しかし、この資金を普通預金に入れて、毎月6万6000円ずつ取り崩していた場合と比較すると、差は歴然です。シニア世代にとって“運用しながら取り崩す”がトレンドになりつつあるなら、これに適した商品だと考えます。ただし、ほったらかしではなく現況を監視することは必要です。

金融機関では「特定口座年間取引報告書」が年末基準で作成され、特定口座における年間(1月1日~12月31日)の譲渡取引や配当等が記載されています。Aさんの場合も、記載内容を見れば、売却損や受け取った分配金の詳細を知ることができます。1月中をめどに郵送またはメールで送付されますが、口座を持っていても年間で取引がなければ送付されません。

Aさんは昨年6月から12月まで、約6万6000円の分配金を7回受け取っています。しかし、これは源泉徴収後の金額なので、実際の分配金は約8万3000円×7=約58万円です。これと売却した投資信託の損失額約70万円が損益通算され、約10万円の還付となったのです。

損益通算で運用商品の整理

今年から始まった新NISAの口座では、年間投資金額の上限が増えました。「せっかくだから、課税口座から資金を移して240万円の成長枠を生かそう」ということも考えられます。

そのようなとき、課税口座での損益通算も念頭に置いておくとよい場合があります。“運用成績がよく、そろそろ利益確定したいもの”と“運用成績が振るわず、長らく塩漬け状態のもの”を組み合わせることで、節税対策になります。これは塩漬け商品損切りの決心材料としても有効ではないでしょうか。

執筆者:宮﨑真紀子
ファイナンシャルプランナーCFP(R)認定者、相続診断士

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