東出昌大、ジビエを語る~僕たちが口にしているのは、何なのか

自身のドキュメンタリー映画『WILL』の公開を控えた俳優・東出昌大さん。俳優業のかたわら猟師として山を歩き、獲物を仕留める日々を過ごす東出さんにジビエとは何か、とくと伺う。

東出昌大

ひがしでまさひろ/1988年、埼玉県生まれ。映画『桐島、部活やめるってよ』(2012年)で俳優デビュー、同作で日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。近年の映画出演作に、『Winny』、『福田村事件』、『コーポ・ア・コーポ』(いずれも2023年)など。公開待機作として『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』、『次元を超える TRANSCENDING DIMENSIONS』(いずれも2024年)が控えている。

住宅地の細道の先に、ひっそり潜む『ジビエ料理 アンザイ』。畳に腰を下ろした東出さんは、部屋に飾られている動物の骨や散弾に興味深津だ。

—— 今日は肉を揉(も)んでもらいます。

東出 肉を揉む?

—— いつもお客さんに体験してもらうんですって。うまみが増すのだと。

東出 へえ~。分かりました。

狩猟で抱いた喪失感と幸福感

物腰柔らかで自然体な雰囲気をまとう東出さん。やはりというか、肉を揉み込む所作は手慣れている。

—— まずは狩猟を始めたきっかけを教えてもらえますか?

東出 千松信也さんの『ぼくは猟師になった』という本を読んで、「自分で肉を獲(と)る選択肢がある」と知ったことです。そうこうしていたら、実際に食べる機会に巡り合って、素晴らしくおいしかった。「これはもう、猟師になるしかない」と思ったんです。

—— ええっ、すごい。それで猟師になれちゃうもんなんですか。

東出 調べると情報は結構見つかるので、免許の取得まではそんなに難しくなかったですよ。

—— 山に出てからの方が大変?

東出 そうですね。とにかくフィールドワークで地形を知ったり、獣の生態を知ったりしないと、どこにどんな動物がいるのか分からない。野生動物って、撃たれにくい場所にいるんですよ。銃猟禁止区域って書かれた看板を読めるんじゃないかと思うくらい。こっちとしては、色々な条件がそろって、撃っていい場所で獲物を見つけなきゃいけない。最初の一頭を獲るまでは、1カ月くらいかかりました。

—— その獲物って、覚えてます?

東出 メスジカでした。大きなメスジカ。そのとき、師匠も隣にいて。

—— 映画にも出ていた、阿部達也さんですね。

東出 絶好の機会だったんです。阿部さんに「あそこだ」って言われて斜面を見たら、シカがこっちを見ていて、即座に鉄砲を構えました。猟師って、銃を構えたら「本当にシカだよな」「引き金絞っていいんだよな」「バックストップはあるか」と、1秒くらいで色々確認して、撃つんです。

—— 本当に刹那(せつな)の出来事なんですね。

東出 僕が撃った弾が体に入って、シカがゴロゴロ斜面を転がってきて。間髪入れず後ろから「刺せえ!」って声が飛んできました。放血といって、撃ったらすぐ血を抜かなきゃいけないんです。でも、僕のナイフの使い方が下手だから、狙った場所にうまく突き立てられない。その間も、シカはずっと暴れていて、もみくちゃにされる。阿部さんに助けてもらってナイフが刺さって。そして、脈打つように血が出てきて、ただ、体温は残っていて、温かく、だんだん目の色が失われていき、やがてこと切れていく。

—— 一瞬の中で、情報量が多いですね。

東出 そこで抱いたのは「こんなことして良かったんだろうか」という喪失感でした。もっとうまければ、あんなに長い間苦しませることもなかったですし。

—— でも、東出さんは今も猟師を続けている。それはなぜですか?

東出 やっぱりうまいんですよね。撃った後、運ぶのも、解体するのも、体力と気力を使うんです。殺しておいて「大変だ」とは言えないですけれど、色々な段階を踏んだ目の前の肉を「これから食べるんだ」と思ったら、喪失感が喜びに変わった。それで、実際に食べたら、うまいんですよ。

—— 「おいしい」という、狩猟を始めた原点の気持ちと、始めてから感じたリアルな喜びが、また、東出さんを山に向かわせているんですね。

山暮らしで出会った発見の連続

揉み込んだ肉は、店主の安西康人さんが目の前で焼いてミートボールに。さらに、今日はイノシシ鍋も味わう。

東出 素晴らしいシシ肉ですね!

—— さすが。ひと目でわかるんですね! ぜひ、熱いうちに。

東出 うん、脂に臭みがなくておいしい。新鮮な証拠ですよ。ミートボールも。薬味の山椒も香りがいいですね。

—— 安西さんが仕込んでるそうですよ。

東出 あとで作り方聞いてみよう。

—— 狩猟で仕留めた獲物って結構な大きさだと思うんですけど、どうしているんですか?

東出 部位ごとにさばいて、冷凍保存です。自分が食べる分しか獲らないから、肉がなくなるまでは狩猟に行かない。

—— あくまで、必要な分だけ。

東出 そう、獲るのも、食べるのも。狩猟を始めてから、そういう気持ちはより強くなりましたね。

—— 山で暮らし始めたのって狩猟を始めたことがきっかけなんですか?

東出 そうですね。ただ、狩猟を始める以前にも自然に囲まれた暮らしに憧れはありました。もっと先になるかと思っていたけれど、狩猟を始めたことで縁ができて早まりましたね。

この続きはぜひ本誌で インタビューの続きは『散歩の達人』2024年2月号に掲載されています。撮りおろしカットの全貌とあわせ、ぜひ雑誌にてご覧ください。 『散歩の達人』2024年2月号

映画『WILL』

2024年2月16日(金)より渋谷シネクイント、テアトル新宿ほか全国順次公開

(C)2024 SPACE SHOWER FILMS

東出さんの狩猟生活を追ったドキュメンタリー映画。監督はエリザベス宮地。獲物を撃ち、さばき、食す。狩猟と野生動物の命。先輩猟師とのやり取り。俳優としての自分。これからの人生。全てと向き合う東出さんを美麗な映像で映し出す。

映画『WILL』公式サイト

『ジビエ料理 アンザイ』店舗詳細

ジビエ料理 アンザイ 住所:東京都新宿区下落合3-1-1/営業時間:12:00~15:30分最終退店、18:00~23:00最終退店(6名から、3日前までに要予約)/定休日:不定/アクセス:JR山手線目白駅から徒歩5分

取材・文=どてらい堂 撮影=三浦孝明 スタイリスト=檜垣健太郎

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