『Firebird ファイアバード』俳優陣が作品に込めたメッセージ 「“愛とは何か”を見つめて」

1070年代後期、ソ連占領下のエストニアを舞台に、若き二等兵のセルゲイとパイロット将校のロマンの愛を描いたラブストーリー『Firebird ファイアバード』が2月9日より公開中だ。セルゲイ役を務め共同脚本も手がけたトム・プライヤーと、ロマンを演じたオレグ・ザゴロドニーがプロモーションのため来日。制作や撮影の舞台裏や映画に込められたメッセージについて語ってもらった。

ーートム・プライヤーさんはペーテル・レバネ監督と共に脚本を手がけられていますが、原作者であるセルゲイ・フェティソフさんの回想録のどのようなところに惹かれたのでしょうか?

トム・プライヤー(以下、プライヤー):僕はもともとミリタリーものの作品が好きだったのですが、この物語はラブストーリーでもあって、その2つの要素が組み合わさっていたところに惹かれました。愛の本質さを描いているところも魅力的で、他の作品では観たことのないようなユニークなラブストーリーでした。

ーー脚本の執筆作業はどのようなものだったんですか?

プライヤー:脚本は書いていくうちに姿を変えていきました。まずピーター(ペーテル・レバネ)が原作を脚色したものがあったのですが、その時点ではアートハウス映画のような、規模の小さい作品でした。僕が入ったことによって、もうちょっと規模を大きく、広げていこうとなりました。そのせいで予算も膨らんでしまったと思うのですが(笑)。

ーー最初はもう少し規模の小さい作品になる予定だったんですね。

プライヤー:ピーターは物語の構造を作るのが得意で、僕はそこから掘り下げていくのが得意なタイプ。2人の異なる強みが、この作品にとっては功を奏したのだと思います。執筆作業に入り込んでいくと、自らの意思で書いているというよりも、何かが降ってくるようなことがあるんですよね。そのときにものすごくやりがいを感じますし、真のクリエイティビティにあるつける感覚がありました。自分自身で書いた脚本が、撮影現場で具現化されていく体験も非常に貴重なものでした。

ーーオレグ・ザゴロドニーさんはどういう経緯でこの作品に参加することになったんですか?

オレグ・ザゴロドニー(以下、ザゴロドニー):声をかけていただいたのがきっかけで、まずはーディションテープを送り、それから実際に対面でオーディションを受けました。最初はモスクワでトムたちと会ったのですが、僕は当時、全然英語が喋れなかったんです。なので、英語のセリフを覚えるのがやっとでした。「英語のセリフは全く喋れない」と念押ししていたのですが、トムが「何語でも大丈夫。ウクライナ語でもいいから自分の言葉で演じてみて」と言ってくれました。そのオーディションを経て作品に参加することが決まって、そこから頑張って英語を覚えていったんです。

ーーそういう経緯があったんですね。この物語のどういうところに魅力を感じましたか?

ザゴロドニー:僕はまず、この物語は悲劇を描いているという捉え方をしていました。ありのままの自分でいられないことの痛みを描いていると思ったんです。僕の身近な俳優仲間にもそういう人はいるので、とても親近感のあるストーリーでした。また、これはウクライナの話でもあると言えるので、ロマンを演じるにあたっては、ソ連体制下のウクライナがどういうものであったか、祖母に聞いた話を物語のディテールに盛り込んだりもしました。

ーー映画で描かれているのは50年以上も前のことですが、戦争や同性愛に対する偏見などは現代にも通じる問題ですね。

ザゴロドニー:この映画では、とても普遍的な愛を描いています。セルゲイとロマンは魂で愛し合い、1970年代を生きました。一国の首相や大統領であっても、俳優であっても、兵士であっても、誰にでも人を愛する権利があります。この作品に限らず、映画を観て、「このままではいけない」と思うことがたくさんありますよね。そういう意味でも、映画をはじめとするアートには人の人生を変える力があると思いますし、アートから影響を受けて我々の人生が変わっていくのであれば、アートには世界を良くしていく力があるということでもあると思います。政治や法律は世の中を良くしていくためにあるべきもので、人を不幸にするようなものは政治や法律ではありません。映画を通して、そういうことが少しでも良い方向に変わっていってくれればいいなと思っています。

プライヤー:映画は、視点を少し変えて物事を見ることを観客に問いかけるものだと思っています。『マトリックス』や『インセプション』は、「あなたが見ている世界は本当に現実か」ということを問いかけるのような作品ですが、この映画は、「愛の本質とは何か」「愛の可能性とはどういうものか」を少し違う視点から描いています。セルゲイはロマンとの愛を得て、惹かれ合って、そして失っていきますが、愛は永遠にあるものだと思います。この作品を通して、皆さんにもぜひ「愛とは何か」ということを見つめ直してほしいと思っています。

(取材・文=宮川翔)

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