5年以上放置された空き家→「利回り20%」の“お宝不動産”に…〈空き家のリノベ〉がオーナーだけでなく、地域にとっても有益なワケ【空き家問題のプロが解説】

入居者のいない「空き家」は年々増加しています。手入れすらされないままの状態が続けば、空き家は持ち主にとっても地域にとってもマイナスの結果をもたらします。本稿では、株式会社JKASの「空地空家で困ったときのあなたの街の相談窓口」代表を務める森下政人氏が、とある土地の地主とその土地に建つ建物の所有者からの相談事例を基に、空き家を「お宝不動産」に生まれ変わらせるリノベーションの可能性について解説します。

地代が欲しい「地主」と生活するだけで手一杯の「建物所有者」

地主である不動産業者から筆者へ、「うちが所有している土地の上に建つ古い借家を買ってもらえないか?」と相談がありました。

所有者の山本さん(仮名)は、親からの相続で建物を取得したのですが、① 自分が住むことのない土地の地代を毎月払い続けるか? ② 建物を解体して更地にして地主に土地を明け渡すか? という2択を迫られていました。

しかしながら、山本さんは毎月の家賃の支払いにも苦しんでいる状況で、解体費用170万円の負担もできません。

地主は地主で、①更地で返されても地代が入らない、②解体せずにそのままの状態で地代の滞納が発生する可能性があるといった今後想定される八方塞がりの状況に困り果てている様子でした。

立地は良好だが…5年以上放置された空き家の内部はボロボロ

早速、法務局の建物登記簿謄本を調べてみたところ、

建築年月日 不詳

木造平屋建て

昭和38年ごろに2階を増築

といった記録はありましたが、詳細は不明でした。建築指導課で過去の建築確認申請書の書類請求をしてみても、建築確認の検査済証などはありません。

資料では建物の詳細な状態がわからないので、筆者は現地を訪れてみることに。

建物内部は5年以上空き家のままだったようで、残置物やゴミなどが天井近くまで積み上がり、足の踏み場もない状態でした。これらを片付けない限り、間取りの確認もできそうにありません。

見上げた天井には雨漏りの跡があり、床は腐ってベコベコ。いまにも抜けそうな箇所も多く、さらにはなんだか傾いているところも……。土地の周辺を調べてみると、さらに厄介なことが判明しました。

この建物は前面道路まで2軒で共同利用している通路の奥にあるのですが、幅員1.5mしかない通路は「建築基準法第42条の道路」に該当しないため再建築ができず、また通路を広げることもできません。

土地は借地権で地主さんに毎月地代を支払う必要があり、融資や住宅ローンが組めるような銀行は皆無。担保評価もまったくなく、普通の不動産業者は手を出さない物件です。

唯一の利点は、その地域の繁華街が徒歩圏内にあることです。周辺の環境だけを考慮すれば、立地は良好なのです。

そこで筆者は、地主の不動産業者と建物所有者の山本さんに現状の説明を行いました。

山本さんは、現状のままで時間が経過しても買主がみつかる可能性が低いことに加えて、発生し続ける地代の負担から逃れたいという希望もあり、筆者が100万円で建物を取得することになりました。

リノベーションの見積もりは予算を大幅にオーバーしていたが

筆者が取得することで、建物所有者の山本さんは今後の地代の支払いや建物の解体費用の負担から逃れられます。また地主である不動産業者は、引き続き(筆者から)地代が入ってくるため、双方の問題を解決できそうです。

早速工務店でリノベーションの見積もりを取ると、大幅に予算をオーバーしてしまいました。急遽知人の紹介でほかの工務店に相見積もりをお願いしたところ、やはり予算オーバーながら、最初の見積もりよりは費用を抑えられることがわかったため、計画を実行します。

しかしいざ工事を開始すると、次々と不安になるポイントがみつかります。

そもそも5年以上空き家のまま放置されていたのですから、建物の状態は大変悪くなっていました。建物の躯体を出して再利用できればいいのですが、それが難しい場合は交換するか、あるいは補強することになります。

筆者の取得した建物は、どんな対応が最適なのか、判断が難しい状態でした。

ほかにも、腐って宙に浮いている柱や基礎部分の空洞、シロアリの被害などなど……目を背けたくなるような箇所が多く、最終的に内部をほぼスケルトン状態にして工事を続けます。よく倒れずに建っていたなぁと感心しつつ、想定以上の追加予算が発生しそうで頭が痛くなってきました。

少しでもコストを下げるために、いまある古い扉や小窓をアクセントとして何かに使えないかと、工務店と現地で打ち合わせをして追加予算の軽減を試みます。

マンションをリノベーションする場合、基本的には構造躯体に問題が発生するケースは少ないのですが、一戸建て住宅の場合は築年数やメンテナンスで大きなばらつきがあります。工事を始めて壁のなかや床下を開けてみるまで、構造躯体がどんな状態なのかはわからないのです。

リフォーム業界でクレームがよく発生するというのも理解できます。

リノベーションを依頼した工務店の監督と大工たちは「大変な物件だなぁ」といいながらも、しっかり仕事をしてくれました。

構造部分には大きな梁が3ヵ所追加され、柱と基礎を交換し、工事中に発生するさまざまな問題を解決しながら工事は進みます。そして工事も終盤に差し掛かった頃、DIY可能な賃貸物件として募集を開始しました。

オーナーだけでなく、地域をも救うリノベーションの可能性

今回の物件は神戸の繁華街・三宮まで徒歩圏内にあり、利便性の高い立地です。

また、裏山から六甲山へハイキングにも出かけられるため、アウトドア好きな人なら気に入ってくれるのではないかという目論見から、玄関には大型のクロークを用意しました。さらに、昨今の働き方の変化にも対応できるよう、2階のフリースペースはテレワークも可能な設計にしました。

前述の通り、DIY可能な物件なので、「住みながらおうち時間を楽しんでね」という思いを込めて「自分の好みの家は住みながらつくればいい! DIYのできる賃貸住宅」という宣伝文句で入居者を募集しました。

入居後に壁面へ棚を取り付けたり、家具を作ったり、塗装をしたり……いまよりもセンス良く、素敵な空間に作り上げられる点に魅力を感じる人が入居してくれればいいなと思いながら、問い合わせを待ちました。

すると、なんと募集開始から2日で問い合わせがあり、工事中にもかかわらず3組が来場しました。そして、その日のうちに申し込みが決まったのです。

ちなみに工事費用は当初想定していた予算を大きくオーバーしてしまいましたが、表面利回りは20%程度ですので、5~6年で投資資金は回収できる見込みです。

空き家問題は、今後もっと大きな規模になっていくことが予想されます。

そんななか、今回紹介したようなリノベーションは、物件の所有者のみならず、地域や不動産経営者にも有益な結果をもたらす可能性を秘めています。空き家の再利用は、地域の空き家を減らすだけにとどまらず、工夫次第では収益物件として地域経済を回す「お宝不動産」を生み出すことにもつながるのです。

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