「伊丹十三の不条理と今村昌平のユーモア」アリ・アスター監督が『ボーはおそれている』の影響源を明かす!&推し映画も紹介

小林麗菜 アリ・アスター監督

アリ・アスター監督が日本映画から受けた影響とは?

気鋭の映画製作・配給スタジオ<A24>と組んだ『へレディタリー/継承』(2018年)『ミッドサマー』(2019年)によって、世界中で「いま一番ヤバい映画監督」として注目を集める存在となったアリ・アスター監督

日本でも“映画好きなら誰でも知っている”存在となったが、そんなアスター監督が名優ホアキン・フェニックスを主演に迎えた最新作にして超問題作『ボーはおそれている』が、ついに2月16日(金)より全国公開となる。

スリラーなのかコメディなのか、あまりにも衝撃的な内容に世界がザワついている本作。このたび日本公開に先立ち、CS映画専門チャンネル ムービープラスの番組「映画館へ行こう」にアスター監督が登場。伝え聞くだけでも過去作のプロモーション時とは比べ物にならない忙しさの来日になったようだが、その鋭い作風とは裏腹に終始穏やかな表情で、番組MC/インタビュアーの小林麗菜からの様々な質問に答えてくれた。

「発想の源は“孤独で悲しい”僕自身」

―監督は最新作『ボーはおそれている』について、「今までで最も自分らしい作品」と仰っていましたが、どういったところが“自分らしい”のでしょうか?

まあ、僕は本当に孤独で悲しくて、恐れおののいている男なので、それを今までになく正直に描いただけなんです。

―そうなんですね!? そうは見えないので、ちょっと驚いてしまいました。

さっきトイレで色々と練習したからね(笑)。

―そんな今作の“発想の源”というのは、どういったところからきているのでしょうか?

えっと……発想は“僕自身”なんですよね。先ほど言ったように、孤独で悲しくて怖がりな男なので。だから、とてつもなく巨大な孤独&悲しみの映画になってしまったんです。

―今作の参考にされた映画はありますか? またその中に、過去の2作のように日本映画は含まれていますか?

どちらかと言うと今回は、いろんな文学作品に影響を受けているんです。例えば日本の小説などで言えば、安部公房の作品とか。あと今回の映画はかなりの不条理劇なんですが、伊丹十三監督の『タンポポ』(1985年)だとか、そういったものが思い当たります。

劇中に散りばめられているユーモアも、けっこう日本っぽいものなんじゃないかな。作品のトーンで言えば、今村昌平監督に近いかもしれません。ハイ・アート(高級芸術)なものと猥雑なものを抱き合わせている感じとか。

「僕ら世代の監督はみんなスコセッシになりたくて映画を撮っている」

―監督の2023年ベストムービーを教えていただけますか?

うーん……『落下の解剖学』(2024年2月23日[金]公開)と『関心領域』(2024年5月24日[金])、それにスコセッシ監督の『キラーズ・オブ・ザ・フラワー・ムーン』(Apple TV+ほか配信中)、あと『哀れなるものたち』(全国公開中)かな。もちろん他にも色々あるんだけどね。

―マーティン・スコセッシ監督は『キラーズ・オブ・ザ・フラワー・ムーン』を撮るにあたって、『ミッドサマー』のテンポ感などを参考にしたそうです。その話を聞いたとき、どう思われましたか?

なんだかシュールな感じがしたけれど、すごく嬉しかった。なにしろスコセッシは僕のヒーローだし、現代で最高峰の監督の一人だからね。僕たち世代の監督は、みんなスコセッシになりたくて映画を撮っているんだ。だから本当に崇拝していたよ。何が素晴らしいかって、彼は他の監督や作品を応援したり祝福したりするんだ。僕を含め昔からいろんな監督を応援してくれていて、ずっと素晴らしい人だと思っているよ。

『ボーはおそれている』は2024年2月16日(金)より全国公開

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