『ゴールデンカムイ』「カムイ」の概念って? アイヌ文化から読み解くガイド本の秀逸さ

実写映画化された『ゴールデンカムイ』。公開されてわずか17日間で観客動員数111万人、興行収入16.3億円を突破。レビューサイトでも概ね好評のようだ。原作漫画が週刊ヤングジャンプでの連載を終了して記事執筆時点で早2年近くが経つが、TVアニメの最終章制作も決定しており、まだまだ『ゴールデンカムイ』熱は冷めそうにない。

明治の北海道を舞台にした『ゴールデンカムイ』はアイヌ文化に関する描写を前面に押し出している。

今までもポップカルチャーでアイヌ文化が登場することはあったが、人気ゲーム『サムライスピリッツ』のナコルルなど、その登場の仕方はあくまでも作品の一要素である場合が多かった。試しに他も探してみたのだが、人気作だと『シャーマンキング』シリーズのホロホロ/碓氷ホロケウが目立つ程度である。

マンガの神さま手塚治虫の『シュマリ』はアイヌを前面に押し出しているが、同作を神様・手塚の代表作として挙げる読者は少数だろう。北海道の先住民・アイヌ民族は本州の和人とは似て非なる人種である。

独自の言語をもち、人種も和人よりも沖縄の琉球人に近い。長年文字を持たず、ヒロインのアシリパが文盲なのも当時としては普通の事だったのだろう。津軽海峡を隔てただけの、近場に本州と大きく異なる文化が存在するのだ。嫌でも好奇心をくすぐられる。

『ゴールデンカムイ』を読んで『ゴールデンカムイ』の文脈でアイヌ文化について知りたいのならば、『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』は最良の一冊である。著者の中川裕 氏は『ゴールデンカムイ』のアイヌ語監修を務めた人物である。これ以上のガイド本は存在しないだろう。

内容はアイヌの精神世界を代表する「カムイ」の概念の解説から始まる。カムイとは、人間の周りに存在するあらゆるものであり、「神」と考えられているものでもある。他の解説では、アイヌ人の先祖はどこから来たのか?、アイヌの伝承、アイヌ語の特徴、アイヌの食文化など原作に描写されたものは大体網羅されている。

『ゴールデンカムイ』作者の野田サトル氏による書下ろしマンガもついており、原作読後、映画鑑賞後の作品をお替わりしたい気持ちの方にもピッタリだ。連載当時は敢えて日本語訳を載せなかった2巻14話のフチが主人公・杉本にかけた言葉の意味も解説されている。平易でも読みやすく、パンフレットのようなガイド本として気楽に楽しめるので気になる向きの方は是非手に取っていただきたい。

(文=ニコ・トスカーニ)

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