【コラム細田悦弘の新スクール】 今だからこそ押さえておきたい!「サステナビリティ経営」の4大キーワード

そろそろ、「サステナビリティ」をきちんと理解しておきたい。ところが、続々と登場するアルファベットに戸惑い、混乱が生じてしまう。金属的な手触りの専門用語を人肌にして、しっくりと経営やビジネスに生かしたいものです。そのためには、基軸となる4つのキーワードの腹落ちが大切です。

見渡す限り、アルファベット

いまの時代に企業価値向上を目指そうとすれば、「サステナビリティ経営」は必須となりました。そこで、物の本(もののほん)を手にとってみて、アルファベット満載な様相に愕然(がくぜん)とした経営者やビジネスパーソンが多いことでしょう。

ESG投資の高まりをはじめ、SDGsやパリ協定などの普及によって、とりわけ企業のサステナビリティ情報(非財務情報)の『開示』に関する基準やフレームワークがあまりにも多く存在するようになりました。そのほとんどがアルファベット略語なので、こうした乱立した状況を指して『アルファベットスープ』現象と呼ばれたりしています。ここにきて統一化の動きも高まっていますが、経営者の視点としては、何とかこれらをわしづかみにし、本質を捉えて経営に実質的に取り入れたいものです。サステナビリティ推進部門では、経営層が頻出するアルファベットに腰が引け、翻弄(ほんろう)されないよう苦心されていることでしょう。

うわすべりにアルファベットスープに巻き込まれると、「木を見て、森を見ず」はおろか、「葉っぱを見て、枝を見ず。枝を見て、木を見ず。木を見て、森を見ず」の状態に陥りがちです。これが、サステナビリティ分野でありがちな『断片化』現象です。個々のアルファベットを表層的・形式的・機械的に扱うと、良かれと思って取り組んだことが形骸化したり、空回りしたりする懸念があります。

そこで、サステナビリティの『絶対音感』を備えるための必携の知見として、今こそ4つのアルファベット(CSR/CSV/ESG/SDGs)の体系的・本質的理解をお薦めします。

「CSR/CSV/ESG/SDGs」を味方につけた企業価値創造のストーリー

サステナビリティという概念が人口(じんこう)に膾炙(かいしゃ)され、CSR部がCSV部へ、そしてESG部、さらにはSDGs部やサステナビリティ部へと部署名が目まぐるしく変遷されてきた企業も多く見受けられます。そこで経営視点から俯かんして、サステナビリティ経営の基調となる4つのアルファベットを大局的に整理しておきます。

○現代社会の共通目的である「サステナビリティ」に関する潮流を捉え、経営のあり方や事業戦略において柔軟に対応することが求められています

○『社会への対応力』がCSRの本質です。社会とは、時代の価値観を反映したステークホルダーという認識で結構です。そして企業が対応するのは、「現代社会の要請や期待」です

○『要請』に対応するのは「基本的なCSR」、『期待』に応えるのが「CSV」。前者はリクス回避の側面、後者がビジネスの機会創出の側面です

○その原理原則のもとに、2030年までの目標であるSDGsにきちんと取り組む

○それによって、ステークホルダーからの評価が高まります。それこそが「社会的評価(レピュテーション)」です

○正のレピュテーションとともに、「競争優位性(らしさ)」が発揮されると、時代にふさわしいブランド力に寄与します。これが『サステナブル・ブランド』です

○ブランド力が高まれば、「無形資産(見えない資産)」に寄与します

○「見えない資産」は、将来キャッシュフローを生み出すドライバー(原動力)となります。すると、企業の本源的価値が高まります

○これを、投資家は「ESG」要因で評価します。そのために「統合報告」によって、財務だけでなく、「(サステナビリティ経営で育んだ)非財務」を的確に『ESG語』に翻訳して発信し、市場価値への反映を図ります。その発信に際し、サステナビリティ情報(非財務情報)の『開示』に関する基準やフレームワークに則ることがますます強く求められているというわけです

○よって、企業がサステナビリティを希求すれば、結果として持続的成長・中長期的な企業価値の向上につながります

以上のように、CSR/CSVの原理のもとに、2030年までの『目標』であるSDGsに取り組む。それを投資家は、ESGで評価する。そして、企業側も投資家側も共通の『目的』はサステナビリティです。結果として、持続的な企業価値向上と中長期のリターン獲得という、企業と投資家双方の恩恵につながり、マクロ経済に資するということです。これが、「CSR/CSV/ESG/SDGs」を味方につけた企業価値創造のストーリーです。

サステナビリティ経営のOSとアプリケーション

サステナビリティ経営において、多岐にわたる取り組みテーマをはじめ、開示に際しての基準やフレームワーク等のアルファベットをパソコンの『アプリケーション』とすると、「CSR/CSV/ESG/SDGs」の体系的・本質的理解は『OS』に当たります。これを旧バージョンのままに放置すると、いくらアプリを『経営』にインストールしようとしてもフリーズしてしまいます。

サステナビリティの絶対音感を経営層はじめ社員一人ひとりが身に付ければ、時代にふさわしい競争優位の源泉となります。

細田 悦弘  (ほそだ・えつひろ)

公益社団法人 日本マーケティング協会 「サステナブル・ブランディング講座」 講師
一般社団法人日本能率協会 主任講師

1982年 中央大学法学部卒業後、キヤノン販売(現キヤノンマーケティングジャパン) 入社。営業からマーケティング部門を経て、宣伝部及びブランドマネジメントを担当後、CSR推進部長を経験。現在は、企業や教育・研修機関等での講演・講義と共に、企業ブランディングやサステナビリティ分野のコンサルティングに携わる。ブランドやサステナビリティに関する社内啓発活動や社内外でのセミナー講師の実績豊富。 聴き手の心に響く、楽しく奥深い「細田語録」を持ち味とし、理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。

Sustainable Brands Japan(SB-J) コラムニスト、経営品質協議会認定セルフアセッサー、一般社団法人日本能率協会「新しい経営のあり方研究会」メンバー、土木学会「土木広報大賞」 選定委員。社内外のブランディング・CSR・サステナビリティのセミナー講師の実績多数。

◎専門分野:サステナビリティ、ブランディング、コミュニケーション、メディア史

◎著書 等: 「選ばれ続ける会社とは―サステナビリティ時代の企業ブランディング」(産業編集センター刊)、「企業ブランディングを実現するCSR」(産業編集センター刊)共著、公益社団法人日本監査役協会「月刊監査役」(2023年8月号) / 東洋経済・臨時増刊「CSR特集」(2008.2.20号)、一般社団法人日本能率協会「JMAマネジメント」(2013.10月号) / (2021.4月号)、環境会議「CSRコミュニケーション」(2010年秋号)、東洋経済・就職情報誌「GOTO」(2010年度版)、日経ブランディング(2006年12月号) 、 一般社団法人企業研究会「Business Research」(2019年7/8月号)、ウェブサイト「Sustainable Brands Japan」:連載コラム(2016.6~)など。

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