「危機管理マニュアル」その2 不祥事会見の基本①会見の目的

安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・去年は不祥事のオンパレード。どの会見も、目的が不明確だった。

・不祥事が起きたら、まず沈静化のための方策を考える。

・その中に会見を開くかどうかも含まれる。開くならその目的を明確に。

「危機管理マニュアル」

その1 社会という名の法廷

その2 不祥事会見の基本①会見の目的

その3 不祥事会見の基本②進行について

その4 不祥事会見の基本③質問への答え方

その5 平時に備えておくべきこと

前回、不祥事は「社会という名の法廷」で裁かれる、と書いた。

今回は不祥事会見の基本中の基本について話したい。

昨年は不祥事のオンパレードだったが、危機管理(リスクマネージメント)の世界では非常にわかりやすい失敗例を提示してくれ、学びが多かった。

まずビッグモーターの自動車保険金の不正請求問題。兼重宏行会長(当時)の人ごとのような会見には多くの人が呆れてものも言えなかったろう。挙げ句の果てに、「ゴルフを愛する人への冒瀆」発言に至っては、自身の人格だけでなく、会社のレピュテーションをとことん貶めた例と言える。

ジャニーズ事務所(当時)の元社長故ジャニー喜多川氏の性加害問題。1回目の会見が大荒れに荒れたのは、被害者の救済についてのフレームワークが何も決まっておらず、その点に関してゼロ回答だったからだ。その後、2回目の会見では、危機管理コンサルティング会社の不手際で、「NGリスト」なるものの存在が白日の下にさらされ、事務所に対する批判が収まることは無かった。

そして、日大のアメフト部違法薬物問題。1回目の会見で、澤田康広副学長(当時)がとうとうと経緯を説明したが、その後、むしろ「疑惑の12日間」などが表面化、澤田氏は大学を追われ、氏が林真理子理事長を訴えるなど、泥沼の内部抗争を続けている。

おわかりだろうか?どの会見もおそらく開いた側は、炎上の「火消し」を目的に会見を開いたはずだ。しかし、結果はむしろ燃料を投下したような状況になった。

これは一体なぜなのか?

答えはシンプルだ。

会見の目的が明確になっていなかったからだ。

不祥事が起きた場合、まずすべきことは

1 不祥事を沈静化させるためにはどうしたらいいか。

を考えることだ。

その上で、会見を開くか開かないかを決めねばならない。つまり、会見ありきでは無く、会見はあくまで事態の沈静化の1方策でなければならない。

会見は「諸刃の剣」だ。

会見を開くのは「潔い」態度と取られる反面、むしろ「炎上」する可能性が高い。

もし開くなら、あらゆる質問を乗り切るだけの入念な準備が必要だ。それが出来ていないと、その会見は間違いなく炎上し、事態はさらに悪化する。

そうしたことから、会見を開くか開かないかは、慎重に判断することが求められる。拙速に会見を開くべきではないのだ。

そして会見を開くと決めたら、その会見の「目的」を明確にすることだ。

「謝罪」に徹するのか、それとも「自分たちを正当化するのか」では、準備も全く異なる。そこがあいまいで、出席者の間の認識が異なっていたりすると、間違いなくその会見は失敗する。

前回述べたように、法律の専門家のアドバイスだけでなく、危機管理の専門家の知見も生かし、会見をどう乗り切るか準備しなければならないのだ。

それができないのであれば、会見は開くべきではない。

(その3につづく。その1

トップ写真:ジャニーズ事務所(当時)の会見(2023年9月7日 東京千代田区) 出典:Tomohiro Ohsumi/Getty Images

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