高齢になって、もうけ話の“食い物”にされないために…お金と同じくらい大切な“2つのもの”とは

最近、50代や60代の皆さま向けのライフプランセミナーで、よくお話しさせていただくネタが、以前、日本経済新聞に掲載されていた「家計の専門家が選んだ長寿社会ならではのお金の注意点」※1。以下、そのランキングになります。

1位 介護費用の負担が重い

2位 老後も支出が減らない
3位 住居費がかさむ
4位 住宅ローン問題
5位 預貯金が足りない
6位 年金が想定より少ない
7位 高齢者を狙う金融商品で失敗
8位 認知症問題
9位 リタイアできない
10位 保険がムダに

※1 出所:日本経済新聞(2021年7月3日)「何でもランキング 人生100年時代、お金の誤算」

もちろんこれらをそのままご説明するわけではなく、私なりにいくつかのテーマに分類をした上で、それぞれのテーマについて客観的な数字やデータ等を確認しながら、テーマごとに対処法を一緒に考える、そんな流れでお話ししています。

中でも、老後資金や年金、住宅ローンの話は、50代、60代の最大の関心事であることは間違いないのですが、意外と受けがいいのが「高齢者を狙う金融商品で失敗しないために必要な金融リテラシー」というネタですね。以下、ご一読くださいませ。

高齢者を狙う金融商品で失敗しないためには?

それでは早速、高齢者を狙う金融商品や金融詐欺で失敗しないために覚えておいてほしいことを申し上げましょう。

結論から申し上げると、お金の世界には「必ずもうかる話などない」ということ。なぜ、そんなおいしい話なんかない、と言い切れるのか? それは、お金の世界には、「リスクとリターンの法則」が働いているからです。言い換えれば、リターンを得るには、リスクをとらなければならないからです。

何をいまさら、そんなことは知っている、という方も多いかもしれませんね。でも、注意いただきたいのは、その逆、リスクをとれば、リターンを得られる、というのは間違い、ということです。どういうことなのでしょうか?

「いまさら…」と言わず、リスクの定義を確認してみましょう

それでは、改めてお金の世界における「リスク」の定義を確認してみましょう。まず知っていただきたいのが、金融の世界では、リスクを「(収益の)変動性」と定義していることです。簡単に言えば、リスクとは「(もうけの)ブレ幅」のことであり、このブレ幅が大きければ「ハイリスク」、ブレ幅が小さければ「ローリスク」になります。

先ほど、リスクをとれば、リターンを得られる、というのは間違いだと申しました。リスクとはブレ幅なので、上にブレることもあれば、下にブレることもある、ということ。つまり、リスクを取ったからと言って、必ずしもプラスのリターンが得られるとは限らない、ということなのです。

金融の世界では、「ノーリスク」は決して「安全」ではない

でも、「金融の世界では、リスクとはブレ幅のことなんですよ」なんて言われても、あまりピンとこないかもしれません。それは致し方ないですね。なぜなら、皆さんの普段の生活では、リスクと言えば、危険なもの、損するもの、避けるべきもの、という感覚だと思うからです。

そして、「ノーリスク」と言えば、そうしたリスクがない、つまり、安全だと感じるのではないでしょうか。気を付けてほしいのは、この「ノーリスク」の意味合いです。普段の生活では「ノーリスク=安全」です。

でも、金融の世界、お金の世界で「ノーリスク」と言えば、リスクとは(もうけの)ブレ幅のことですから、「ノーリスク」とはブレ幅がない、つまり、もうけの可能性がない、ということであり、「ノーリスクはノーリターン」、安全ではないんですね。

実は、この「ノーリスク」の意味合いの違いにつけこむのが金融詐欺だと思うのです。

「必ずもうかりますよ」「絶対損しませんよ」と働きかけてくるのです。普段の生活の感覚で、リスクは避けるべきもの、と思い込んでいると、お金の世界の話であるにもかかわらず、「必ずもうかります」とか「絶対損しません」を安全だと勘違いしてだまされてしまうのです。

ですから、改めて申し上げたいのは、リターンを得るにはリスクをとらなければならない、お金の世界では「リスクとリターンの法則」が働いていますので、「ノーリスク」は安全ではなく、ノーリターンであること※2、そして、「必ずもうかる」とか「絶対損しない」という話はお金の世界では存在しないことを心に刻み込んでおいてください。

※2 「ノーリスク」の意味合いを考えると、お金の世界の「リスク」が理解しやすくなるというのは、以前、Finaseeの記事(「マネー本ってありすぎる…」にアンサー! プロが本当に推す本9選)でもご紹介したことがある書籍(佐伯良隆著『知っておきたいホントに大事なお金の話』〈高橋書店〉)に紹介されていた話であることを申し添えておきます。

高齢者が抱える3つの大きな不安とは?

ところで、私は常々、お金の世界の「リスクとリターンの法則」さえ理解していれば、高齢者を狙う金融詐欺に代表される消費者トラブルは防げるのではないかと思っていました。

でも、最近、必ずしもそればかりではないかもしれない、とも思いはじめています。その気づきを得たのが、国民生活センターが注意喚起している「高齢者の消費者被害」のページを眺めていたときのこと。以下、同ホームページからの抜粋になります(下線は筆者)。

高齢者の消費者被害に関する相談が全国の消費生活センター等に多く寄せられています。

高齢者は「お金」「健康」「孤独」の3つの大きな不安を持っているといわれています。悪質業者は言葉巧みにこれらの不安をあおり、親切にして信用させ、年金や貯蓄などの大切な財産を狙っています。高齢者は自宅にいることが多いため、電話勧誘販売や家庭訪販による被害にあいやすいのも特徴です。

トラブルにあわないために、高齢者に多いトラブルの事例や手口などの「情報」を集めることはとても有効です。

もちろん、高齢者に多いトラブルの事例や手口などの「情報」を集めること、つまり、知ることで避けられるトラブルも数多くあるかと思います。

でも、それ以上に私が注目し、そして、もっと大切だと思ったのは、悪質業者がどのように高齢者の不安をあおるのか、ということ。下線を引いていますが、悪質業者は「お金」と「健康」、そして「孤独」の不安をあおってくるのです。

だとすれば、この3つに不安のない生活を送ることが、消費者トラブルに遭わないための最善の対策にもなる、そんなこともご理解いただけるのではないでしょうか。

高齢者が消費者トラブルを避けるための最善策とは?

では、高齢者が消費者トラブルを避けるためには、具体的にはどうすればいいのか、どう考えればいいのか。

先ほど、悪質業者は「お金」と「健康」、そして「孤独」の不安に付け込む、とご説明しました。この「孤独」を「孤独がない状態」、つまり、「いきがい」とすれば、この3つはまさにライフプランの3要素だとも言えるのではないでしょうか。

ライフプランとは、充実した人生を送るための生活設計、「お金」「健康」「生きがい」の3要素が一体となって成り立つといわれています。だとすれば、これからのライフプラン、生活設計をしっかりと立てること、こうすることこそが、高齢者の消費者トラブルを防ぐための最善策になるのではないかと、そんなふうに思い至った次第です。

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通常のライフプランセミナーでは、ライフプランとは言いつつも、「お金」の話が中心ですね。例えば、老後資金や年金、住宅ローンの話など、ひとつひとつ、具体的な数字やデータをもとに一緒に確認し、漠然とした不安を見える化すること、そして見える化することで参加者の心持ちを多少なりとも軽くすること、これだけでもセミナーは大成功だと思っています。

でも、これからの人生においては、「お金」のことはもちろん大切ではあるものの、「お金」のことと同じくらい、「健康」や「いきがい」といったものが大切であること、そんなことを最後にご理解いただければと思い、最近はこんな話をすることが多いですね。ご参考になれば幸いです。

小出 昌平/大和証券 ライフプランビジネス部 担当部長

1993年4月大和証券入社。投資信託の開発や富裕層ビジネスの企画・運営業務などを経て、2015年より確定拠出年金業務に従事。現在は、iDeCoと呼ばれる個人型確定拠出年金の周知・普及活動に携わりながら、自治体や事業会社の職場における金融・投資教育、ライフプラン教育の支援活動に取り組み中。


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