損切りせずに助かった“成功体験”が仇に…〈ビギナーズラック〉で資産倍増の33歳・公務員「FXって簡単じゃん」→一転「200万円負け」に陥ったワケ

(※写真はイメージです/PIXTA)

投資の世界においてはときに、過去の“成功体験”が大きな損失を招くことがあります。長期的に利益を積み上げていくには、どんな心構えが必要なのでしょうか。本稿では、テクニカル分析の解説サイト『テクニカルブック』を運営する株式会社アドバンの代表取締役・田中勇輝氏が、FX取引を長く継続する上で意識すべき6つのポイントについて解説します。

「なんとなく」でうまくいったFXデビュー

33歳の佐藤太郎さん(仮名)は、大学卒業後に県職員として働く、2歳と5歳の子どもを持つパパ。これから子どもの教育費などお金がかかるようになる時期ですが、佐藤さんには投資でちょっとした苦い経験がありました。

実は、過去にFXで200万円近くの大金を溶かした経験があるのです。

FXを始めたのは7、8年前、就職して仕事にも慣れてきた頃でした。付き合っている彼女と結婚することが決まり、本業以外にもっとお金を稼ぎたいと考えたのがきっかけです。FXで利益を積み重ねて、これから生まれてくる子どもの教育資金にできればと考えていました。

そして、実際にトレードを始めてみると、驚くことに最初の数ヵ月で50万円の投資資金が倍以上になったといいます。「FXって簡単じゃん」と感じたという佐藤さん。しかし、そのトレード内容は決して褒められたものではありませんでした。

トレードをするのは、仕事から帰って時間があるときで、主に夜の時間帯。相場の流れに合わせて「なんとなく」で高いレバレッジでポジションを持ち、上手く利益が乗ればすぐに利益を確定して、逆行したときはプラスになるまで耐えるという形。

これは、もし相場が逆方向に動き続けると損失が大きく膨らみかねない、非常にリスキーなやり方です。初めのうちは相場が逆行しても運良くすぐに戻ることが続いていましたが、それがいつまでも続くことはありませんでした。

その後は、コツコツと利益を積み重ねるものの予想が外れたときにドカンと負けるという、俗に“コツコツドカン”と呼ばれる負けパターンを繰り返すようになります。上手くいけば1日に数万円勝ちますが、一度の負けで利益が吹っ飛んで資金が減り、一時100万円を超えていた運用資金は、いつしか底をついてしまったそうです。

佐藤さんは、失った資金を取り返そうとFX口座に追加で入金します。しかし、最初に大きく勝っていたこともあり、損切りをしないスタイルを変えることはありませんでした。結局、3年ほどズルズルと同じようなトレードを続け、何度も資金がなくなっては入金を繰り返した結果、「トータルで200万円は負けています……」とのこと。

最終的には、1人目の子どもが生まれたタイミングで、ようやくFXをあきらめる決断ができたそうです。

これからお金が必要になっていくなかで、「子どもの養育資金に」と蓄えていた貯金を失ってしまった佐藤さん。FXで失敗してしまった要因はどこにあったのでしょうか。

ビギナーズラックが悪い癖につながった可能性

佐藤さんがFXで大きな失敗をしてしまったのは、“コツコツドカン”という定番の負けパターンに陥ってしまったためです。これには、FXデビュー時に「なんとなく」で上手くいったことが大きく関係していると考えられます。

当時の佐藤さんは、なんとなくポジションを持って利益が乗ったときはすぐに利益確定し、相場が逆方向に動いたときは損切りをせずに、我慢してると助かるというトレードをしていました。そして、相場が逆方向に動いても、相場が戻ってきて助かるという経験を何度もしています。

損切りせずに助かったという成功体験があると、同じような状況のときに起こりやすいのが「前は損切りしなくても助かったよな」という思考。

すると、ダメだと分かっていても損切りができなくなり、ドカンと大きな損失を出してしまうわけです。ビギナーズラックによって一時的にプラスになったとしてもトレードに悪い癖が付くため、多くの場合、長期的にはマイナスに陥ります。もちろん勝つか負けるかも重要ですが、FXに取り組んでいく上では「どう勝つか」についても強く意識しておきたいところです。

FXで退場しないために必要なことは?

ここで、FXをやめた人を対象に行った独自のアンケート調査の結果を紹介します。1つ目は、FXをやめた理由です。

FXをやめた理由でもっとも多かったのは「運用資金を大きく失ったから」で、2番目は「FXに疲れた・興味を失ったから」、3番目は「思うように利益が伸びなかったから」という結果でした。佐藤さんは200万円もの資金を失った訳ですが、同じように大きな損失を出してFXをやめた人が多いことが伺えます。

続いて、FXを継続するために自分に足りなかったものについて質問した結果です。

1位は「チャートを読む・分析するスキル」で、2位が「メンタル管理能力」、3位が「資金管理・リスク管理の知識」でした。これらはいずれも、トレードにおいて基本となる重要なスキルです。

佐藤さんのケースでは、ビギナーズラックで楽に勝ってしまったがゆえに、トレードのスキル磨きに力を注がなかったように見受けられます。FXで生き残るためには、単にトレードを重ねるだけでなく、トレードについて学ぶ意識を持つことが大事だったといえるでしょう。

FXで退場しないために意識したい6つのポイント

今回は、FXデビューからトントン拍子に資産が増えたものの、その後はズルズルと負け続けて200万円の損失を出すことになった30代公務員男性のエピソードを紹介しました。FXを始めたものの、こういった形でやめることになる人は少なくありません。

最後に、このエピソードから学ぶことができる、FXで退場しないために意識しておきたいポイントを6つ紹介します。

トレードルールを作る

自分の感覚で「なんとなく」トレードをしていては、FXで勝ち続けることはできません。どうなったらポジションを持って、いつ利食い・損切りをするのか、客観的なルールを決めましょう。そのためにはチャートを読むスキルが必須です。マニアックな知識は必要ありません。チャートに関する定番の知識をしっかり身に付けましょう。

トレードルールを守る

トレードルールを作ったら、それをしっかり守るようにしてみましょう。せっかくルールを決めても、守らなければ意味がないからです。FXにおいてルールを破ってしまうのは、何らかの理由で冷静な判断ができなくなっているためです。常に冷静にトレードできるように心がけましょう。

身の丈に合った取引数量にする

FXでは、取引数量が大きくなればなるほど勝ったときの利益が大きくなりますが、負けたときの損失も大きくなります。退場しないためには損失をいかにコントロールするかが重要。資金管理・リスク管理について学んだ上で、トレードは身の丈に合った取引数量で行うようにしましょう。

負けるべきときは素直に負ける

FXで負ければ資金を失うため、誰しも勝ちたいと考えているもの。しかし、FXでずっと勝ち続けるのは不可能で、必ず負けるときがあります。大切なのは、勝ったり負けたりしながらトータルでプラスにすること。トレードルールに従って、負けるべきときには素直に負けることも必要です。

損切りのシナリオも考えておく

FXを行う目的は利益を出すことですから、トレードの際、利食いにばかり意識が向いている人が多いのではないでしょうか。しかし、大きな損失を出して退場しないために大切なのは、適切なタイミングで迷いなく損切りすること。相場が想定しない展開になってからどうするのか考えるのではなく、あらかじめ損切りのシナリオも頭に入れておきたいところです。

失敗を振り返って改善する

トレードルールを作っても、いきなり上手くいくことは少ないでしょう。トレードを行って利益と損失を出しながら、どうすれば利益を大きくできるのか振り返って改善することが大切です。この振り返りは、リアルトレードを通じてだけでなく、過去チャートでバックテストを行う形でも構いません。FXに取り組む際は、トレードルールを改善し続けることを意識してみましょう。

FXは利益を奪い合うゼロサムゲームであり、なんとなくトレードするだけで勝ち続けることはできません。上記の6つの点を意識して、大きな損失を上手に回避しながらスキルを磨き続けていきたいものです。

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